2017年9月11日
日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下「NTT」)は、パーソナルデータの特性や利用目的に応じた有用な匿名加工情報の作成を支援するソフトウェアを開発しました。本ソフトウェアでは、NTTの独自技法を含む安全かつ有用な匿名加工情報を作成するための豊富な加工技法と評価技法を備え、データ保有者が加工と評価を繰り返しながら有用な匿名加工情報を作成するために必要な環境を実現しています。NTTグループでは本ソフトウェアを活用したデータ加工トライアルや加工・評価の技術コンサルを皮切りに、小売、交通、観光、電力などの様々な分野でパーソナルデータ利活用の活性化を推進してまいります。
NTT研究所では以前より、先進的な匿名化技術の研究開発を進めると共に、国内匿名化研究の活性化・認知度向上の推進に貢献してきました(※1)(※2)。このたび、これらの学術活動や事例検証から得られた技術と知見を結集し、匿名加工情報の作成において必須となる加工と評価の試行錯誤を、様々なデータに対して適用することが可能なソフトウェアを開発しました。加工と評価の中で、何を使えばよいかが特にわかりにくい評価技法については、体系的に整理した上で、最新の知見に基づき匿名加工に有用と考えられる評価技法を厳選して搭載しています。また匿名化においては一般に、加工前の個人情報の件数が多い方が高い有用性を保ちやすい傾向があるため、本ソフトウェアでは消費メモリ量を抑える独自方式により高速化とデータ量増加への対応を行い、件数が多い個人情報であっても市販のパソコンレベルの計算機で、加工と評価の試行錯誤をスムーズに行えるようにしています。
2017年5月30日に改正個人情報保護法が施行されました。本法律にて新たに定められた『匿名加工情報』は、一定のルールの下で本人同意なしで第三者への提供を含む目的外利用が可能となり、パーソナルデータの利活用が加速し新事業や新サービスの創出、ひいては、国民生活の利便性の向上につながることが期待されています。
匿名加工情報とは、「個人情報を特定の個人を識別することができないように加工して得られる個人に関する情報」であり、統計データよりも幅広い分析に利用できると期待されています。
個人情報取扱事業者(以下、「(データ保有者)」)や匿名加工情報取扱事業者に課せられる制約はあるものの、第三者(以下、「データ活用者」)への提供を含む目的外利用について、本人同意が不要になるという、大きなメリットがあります。
[図1]匿名加工情報の作成と提供
改正個人情報保護法に基づく匿名加工情報を作成するためには、施行規則(※3)第19条に示される規則1号から5号の全てに対応する必要があります。作成に最低限必要な事項はガイドラインなどに定められていますが、最終的な加工結果の確認はデータ保有者に委ねられています。そのため、データ保有者は匿名加工情報作成時に規則の要請を満たすために、個人の識別を難しくする方向の加工を行い安全性を高めようとすることが想定されます。一方、データ活用者は、提供された匿名加工情報を用いて目的に応じた分析結果を得るために、匿名加工情報の中の特定のデータ項目は一定以上の精度を残したいなど、有用性を重視することが想定されます。
一般に、匿名加工情報の作成において用いられる匿名化技法は、個人を特定できないように個人情報を加工する技法であるため、安全に加工するほど、加工前のデータの傾向を読み取りづらくなってしまうという根源的な特質があります。この特質のため、データ保有者の不安を払拭すべく安全に加工して匿名性を上げると、データ活用者にとっての有用性が下がってしまうというトレードオフの関係になっています。
[図2]匿名性と有用性のトレードオフ
法律を遵守し、匿名性を上げたいデータ保有者と、高い有用性のデータを求めるデータ活用者のニーズを両立するためには、高度な技術を用いたデータ加工技法・評価技法と、それを適切に使いこなす知識が求められます。
NTT研究所ではこれまで、内閣官房パーソナルデータ検討会技術検討ワーキンググループへの有識者としての参加や、情報処理学会コンピュータセキュリティ研究会 (CSEC 研究会)PWS組織委員会によるプライバシワークショップ(PWS)の立上げ、匿名加工・再識別コンテスト(PWS Cup)の運営などに主幹メンバとして参画し、国内匿名化研究の活性化・認知度向上の推進に貢献してきました。また、PWS Cupでも2年連続で企業トップの成績を収め、国内外で多数の論文発表を行うなど、先進的な匿名化技術の研究開発の実績を有しています。
今回、NTT研究所で開発したソフトウェアは、これまで蓄積した技術と知見を結集し、NTT独自技法などの先端的な技法を含む豊富な加工技法や評価技法を実装したもので、データ保有者が加工と評価を繰り返しながら、匿名性を維持しつつ有用な匿名加工情報を作成するために必要な環境を実現します。
また匿名化においては一般に、加工前の個人情報の件数が多い方が高い有用性を保ちやすい傾向があるため、本ソフトウェアでは消費メモリ量を抑える独自方式により高速化とデータ量増加への対応を行い、件数が多い個人情報であっても市販のパソコンレベルの計算機で、加工と評価の試行錯誤をスムーズに行えるようにしています。
[図3]本ソフトウェアの利用イメージ
本ソフトウェアでは、個人情報保護法ガイドライン(匿名加工情報編)(※4)に規定されている全ての匿名化技法を含む、現在有用とされている既存の匿名化技法を網羅しています。さらに、ランダム化の匿名加工を可能にするNTT独自の匿名化技法(Pk-匿名化(※1))を具備しています。データ保有者は、これらの多様な加工技法を組み合わせることにより、前述の施行規則で定められた規則1号から5号に対応すると共に、自らの目的にあった匿名加工を実施しやすくなります。
要望に応じた匿名加工情報を作成するためには、データ加工後に、意図する匿名化が施されているか、また望む有用性が確保されているかの評価を適切に行い、その結果に応じて再度加工を実施し、加工の度合いを調整する必要があります。しかし、評価技法やその実装方法は数多く提案され学術レベルの議論が継続している段階であり、国や業界でも明確な指標が示されていないのが現状です。特に有用性を評価する評価技法はデータの特性や利用目的に応じて多岐に渡り、技法の選定自体にスキルを要します。
本ソフトウェアでは、プライバシワークショップの運営・参加や有識者との事例検証などを通じて得られた最新の知見に基づき、匿名加工に有用と考えられる評価技法を選定し、実装しています。データ保有者は、これらの厳選された評価技法を用いることで、加工データの匿名性や有用性を評価しやすくなります。
また、加工データを評価後、データの一部にさらに加工を施すといった、加工と評価の繰り返しを支援する機能を用いることで、データ保有者は加工と評価の試行錯誤をしやすくなります。
NTT研究所がこれまで蓄積した技術と知見を結集し、様々なデータの匿名加工を試行可能なソフトウェアの開発を受け、NTTグループではパーソナルデータ利活用を検討されているお客様の匿名加工情報作成をより積極的に支援してまいります。
具体的には、パーソナルデータ利活用を検討されているお客様との本ソフトウェアを活用したデータ加工トライアルや、匿名加工情報の作成に関するご相談に対する技術コンサルティング(※5)などを通じて、本ソフトウェアの実用性を評価しながら、商用品質向上や機能の更なるブラッシュアップをはかってまいります。
NTTグループでは、今後も様々なアプローチで、皆様と共にパーソナルデータ利活用の市場活性化を推進してまいります。
なお、本ソフトウェアの実演は2017年9月12日から14日に開催されるFIT2017 第16回情報科学技術フォーラム(※6)の展示会にて、ご覧頂けます。
※1ビッグデータ時代における新たなパーソナルデータ匿名化システムを開発
~高度にプライバシー保護したままに、データの利用価値を高いままとする~
http://www.ntt.co.jp/news2014/1402/140207b.html
※2パーソナルデータを守る技術を競うコンテストでNTTのチームが優勝
~個人を特定できない「匿名化」技術でプライバシーを守りながらデータを有効活用~
http://www.ntt.co.jp/topics/pws/index.html
※3個人情報の保護に関する法律施行規則(平成28年10月5日、個人情報保護委員会規則第3号)
※4個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(匿名加工情報編)(平成28年11月(平成29年3月一部改正)、個人情報保護委員会)
※5NTTテクノクロス株式会社(東京都港区、代表取締役:串間和彦)では、「ビッグデータビジネスのためのパーソナルデータコンサルティング( https://www.ntt-tx.co.jp/products/personaldata/ )」の一環として、パーソナルデータ匿名化コンサルティングサービスを既に提供しています。
※6
第16回情報科学技術フォーラム(FIT2017)
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2017/FIT2017_program_web/index.html
本件に関するお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
サービスイノベーション総合研究所
企画部広報担当
E-mail:randd-ml@hco.ntt.co.jp
Tel:046-859-2032
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