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2022年1月21日

日本電信電話株式会社

世界初、アスベストの無害化と粉塵抑制を高出力レーザ照射で実現
~アスベスト解体作業者の健康リスクを大幅に低減する技術~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、高出力レーザの照射によってアスベスト(石綿)※1を繊維形状から球形状に変形できることを確認しました。さらに、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)を用い、レーザ照射に伴うアスベスト粉塵の飛散を抑制する技術を開発しました。一般的なアスベスト建材の除去作業では、有害なアスベスト粉塵の吸引によって、作業者に肺がんや悪性中皮腫等の病気を引き起こすリスクがあります。本技術を用いれば、アスベストを無害な球形状※2へ変形するとともに、飛散する粉塵量を抑制できるため、作業者の健康リスクを大幅に低減することが可能です。

1.背景

アスベストは建築物等の断熱材として広く使用されてきましたが、ヒトが吸い込むと肺がんや悪性中皮腫等を引き起こす問題が広く知られるようになり、現在では多くの国において使用が禁止されています。アスベストが有害である主な理由は、その極めて細く尖った形状であると考えられ、人体に吸入されると肺胞に沈着しやすく、長期にわたり肺の組織が傷つけられて遺伝子異常が起こり、細胞ががん化する可能性が指摘されています。そのため、老朽化した建築物の解体に伴うアスベスト除去は年々増加していますが、電動工具をはじめとする現状のアスベスト除去ツールは有害な粉塵を周囲に飛散させるため、作業者や作業現場周辺をアスベスト粉塵のばく露※3から守る防護を必要とします。このようなばく露リスクを根本的に回避するには、有害な粉塵を無害化するアスベスト除去技術が求められています。

2.本技術の概要

高出力レーザはその照射点でアスベストを熱融解により形状を変更させることが期待されていましたが、NTTはレーザ照射実験を行い、アスベストの形状が変化することを世界で初めて確認しました。図1は実験の観察、実証した結果です。

図1. 建材に含まれるアスベストを溶融した例(有害な繊維形状がなくなり、無害な球状に変化) 図1. 建材に含まれるアスベストを溶融した例
(有害な繊維形状がなくなり、無害な球状に変化)

さらに、回折光学素子を用いて、アスベスト含有塗材に照射する高出力レーザのパワー密度とビーム形状の制御を行うことで、レーザ照射時の粉塵量の抑制にも成功しています。回折光学素子は、光の回折現象を利用してレーザビームの形状を自在に変えることが可能なデバイスです(図2)。回折光学素子でレーザ光をベッセルビーム※4に成形し、レーザ照射時に発生する粉塵の飛散量を大幅に抑制することで、アスベスト粉塵のばく露リスクをさらに低減しています(図3右側:ベッセルビームに成形して照射)。

図2. 回折光学素子によるビーム形状制御の例(入力光(点)を様々なビーム形状、電力密度に変換が可能) 図2. 回折光学素子によるビーム形状制御の例
(入力光(点)を様々なビーム形状、電力密度に変換が可能)

図3. 回折光学素子の粉塵抑制効果(白い煙状のものが、レーザ照射点から発生する粉塵) 図3. 回折光学素子の粉塵抑制効果
(白い煙状のものが、レーザ照射点から発生する粉塵)

3.今後の展望

NTTでは、10kW級の高出力レーザに対応した回折光学素子を低廉材料であるシリコンで実現しており、アスベスト無害化のためのレーザ照射装置の低コスト化が可能です。また、回折光学素子を用いることで、レーザ照射部分(レーザヘッド)を軽量且つ小型化することができ、狭い場所や天井などの従来工法では除去しにくい場所にも持ち込むことが可能になると考えています。
 このようなレーザツールの実現へ向け、回折光学素子を用いて、光ビームの照射範囲を拡大することで、アスベスト含有塗材をできる限り短時間で無害化して除去できる技術や、レーザ光を直線形状にすることで、アスベストを含む建材を安全且つ効率的に切断する技術の検討を行います。
 NTTは、安全なアスベスト除去技術の開発を通して、環境保全の実現に貢献してまいります。

本技術の内容は、2022年2月21日(月)~27日(日)に開催されるSPIE (The international society for optics and photonics) Photonics West On-demandで発表します。

※1:アスベスト(石綿):天然に産する繊維状けい酸塩鉱物の総称で、蛇紋石や角閃石の名で知られています。石綿繊維は極めて細い繊維状の構造であるため、吸入されてヒトの肺胞に沈着しやすく、細くて長いものほど有害性が高いと言われています。肺胞に沈着すると、長期間にわたって炎症がおこり、肺の組織が傷つけられ続けることで、遺伝子異常が起こり、細胞ががん化する可能性が考えられています。(出典:https://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/mechanism.html当該ページを別ウィンドウで開きます

※2:有害性の大きな理由と考えられている繊維形状を球形状に変形させると、アスベストの定義から外れるため、無害化されたと考えています。

※3:ばく露:病原微生物、薬物、化学物質などのリスク要因に晒されることを言います。

※4:ベッセルビーム:回折現象によりビームが広がらない非回折ビームの一種であり、照射距離に依存して強度分布が変わらないという特徴を持ちます。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
TEL:0422-59-3663

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