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2016年3月17日

東京理科大学
日本電信電話株式会社

煙霧により見通しの利かなくなる火災現場でテラヘルツ波により視界を確保
~テラヘルツ波で被写体を照らすアレイ型照明器を開発~

東京理科大学国際火災科学研究科 松山 賢 准教授は、日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下「NTT」)と共同で、煙霧環境での視認性確保を可能とするテラヘルツ波照明器の基本構成技術を開発し、見通しが全く利かない模擬火災環境でも、試作した原理検証用のアレイ型照明器で照らすアクティブイメージングにより1.4m先にある被写体のテラヘルツ像が取得できることを実証しました。従来、煙霧環境下で視界を確保する技術は無く、見通しが利かない状態で火災現場の状況を把握することは非常に困難でした。本照明技術の実現により、光並みの空間分解能を有し、電波のように煙を透過するテラヘルツ波を、通常のカメラにおけるフラッシュ光のように用いることが可能となり、煙がある空間でも、テラヘルツイメージによってその中の状況が視覚的に認識できることになります。これにより、火災時の建物内の逃げ遅れ者の救助・検索活動の精度向上が期待されます。
 本開発の一部は、国立研究開発法人 科学技術振興の研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】の開発課題「サブテラヘルツ帯アクティブイメージング用照明系の開発」の一環として行われたものです。
 なお、本研究成果は3月19日~22日開催の「第63回応用物理学会春季学術講演会」、および5月16日~17日開催の「平成28年度日本火災学会研究発表会」で発表いたします。

研究の背景

火災時、特に初期段階では大量の煙が発生し、その煙が室内や廊下に充満することで視認性が非常に劣化し、目の前も見えない状況に陥ります。この状況は、十分な装備を身に付け、かつ訓練をつんだ消防隊員であっても、救助・検索活動や消火活動をする上で、大きな障壁となっていました。
 テラヘルツ波(※1)は周波数軸上で電波と光の間に位置し、赤外線や可視光に比べると波長が長いため、塵や煙、炎の中を伝播しても、散乱されて減衰することが殆どありません。また電波に比べて四方に広がりにくいという特徴を持っているため、物の形状を調べるために使うことが可能です。これまで、このテラヘルツ波を用いたイメージングでは、被写体からの熱放射を計測するパッシブイメージングが先行していました。しかしながら、火災現場では、被写体の周辺にある高温の物質や高い温度の煙が熱輻射源(※2)となってしまうため、パッシブイメージングで煙の中やその向こうを見通すことは困難であり、観測者が自らテラヘルツ波を放射し、物体で反射して戻ってくる波から煙の中やその向こうを見通すアクティブイメージングを行える技術が必要となります。
 東京理科大学とNTTでは、2012年より、煙霧環境での視界確保を可能とするテラヘルツ波アクティブイメージング(※3)を実現するためのテラヘルツ波照明器の研究を進めてまいりました。

研究成果の概要

 東京理科大学 松山 賢 准教授はNTTと共同でテラヘルツ波照明器の基本構成技術を開発しました。この技術の中核は、燃焼により生成するガスによる吸収の影響が避けられる波長360ミクロンのテラヘルツ波の位相を意図的に乱し、複数配置した素子から発生するテラヘルツ波を束ね、その強度を高めるところにあります。これによりテラヘルツ波をカメラにおけるフラッシュ光のように利用することが可能になりました。原理検証用に試作した9個の素子から成るアレイ型照明器(※4)を用いたアクティブイメージングの能力を、火災を模擬した空間(※5)で評価し、煙霧により全く見通しが利かない状態で、1.4m先にある被写体(※6)のテラヘルツ像の取得に成功しました。

  • テラヘルツイメージ(Cs = 9)

  • 赤外線イメージ(Cs = 5.2)

上図は、煙霧により見通しが利かない状態で行った、テラヘルツ波(左)および赤外線(右)によるアクティブイメージングの結果を表しています。テラヘルツ波イメージングでは、煙で区画内が全く見通せない状態(Cs = 9)でも被写体のTの字が明瞭に視認できることが図より見て取れます。これに対して、赤外線のアクティブイメージングでは煙がおよそ半分ぐらいの濃度(Cs = 5.2)でも、被写体が全く認識できなくなっています。
 本結果は、アレイ型照明器を用いてテラヘルツ波で被写体を照らすアクティブイメージングが、煙霧により見通しの利かなくなる火災現場での視認性確保に有効であることを示しています。

図4:テラヘルツ波照明器

今後の展望

建築火災安全工学の観点から、今回開発したテラヘルツ波照明器の性能を見極め、見通せる距離の延伸、システムの小型化などの研究開発に引き続き取り組んでいきます。

用語解説

※1
 103を「キロ(k)」と呼ぶのと同様に、109を「ギガ(G)」、1012を「テラ(T)」と呼ぶ。「ヘルツ(Hz)」は交流電気信号や電磁波が、0.5秒間に何回極性(プラスとマイナス)を変えるかを示す、周波数と呼ばれる物理量の単位。つまり、1テラヘルツ(1THz=1,000GHz)は、1秒間に1×1012回極性を変える電磁波の周波数である。周波数軸上で見た場合、テラヘルツ波よりも低い周波数に電波があり、高い周波数に光がある(図1参照)。つまりテラヘルツ波は、光と電波の中間の周波数を持つ電磁波ということになる。そのためテラヘルツ波は、電波と同様の物質透過能力と光同様の空間分解能を併せ持つことになる。一方で、テラヘルツ波の波長は300ミクロン前後であり、煙霧を構成する浮遊微粒子(粒径0.1~数ミクロン)より十分に長いため、煙によってその進行を妨げられることはなく、自由に透過することが出来る(図2参照)

図1:周波数軸上で見たテラヘルツ波と電波、光の位置関係 図1:周波数軸上で見たテラヘルツ波と電波、光の位置関係
図2:テラヘルツ波の波長と煙粒子の大小関係 図2:テラヘルツ波の波長と煙粒子の大小関係

※2熱輻射
  物質が、周りとのエネルギーのやり取りをバランスさせるために、電磁波を放出する現象のこと。低温の物質は放出する電磁波の総量も少なく、またその周波数も低い。温度が上がるほど、放出する電磁波の総量は大きくなり、またその周波数も高くなる。

※3テラヘルツ波によるアクティブイメージング(図3参照)
 テラヘルツ波により被写体の像を得る方式の一つ。通常の写真撮影でフラッシュを光源として用いるのと同様、観測者が自らテラヘルツ波を放射し、物体で反射して戻ってくる波をテラヘルツカメラで検出し、その物質の形状などを捉える。

図3:テラヘルツ波によるアクティブイメージング 図3:テラヘルツ波によるアクティブイメージング

※4テラヘルツ波照明器(図4参照)
 波長の異なる2つの光を光電変換素子に与えると、その周波数差に一致する信号を得ることができる。光の波長を適切に選択し、周波数差をテラヘルツ帯にすることで、光信号からテラヘルツ波を得ることができる。本研究では、このような方式を用いてテラヘルツ波を発生させているが、2つの光のうち片方に、非干渉性の光雑音を用いている。これにより、発生するテラヘルツ波も非干渉性となり、複数の素子から発生するテラヘルツ波を束ね、その強度を高めることが可能になる。本研究では、9つの光電変換素子でテラヘルツ波照明器が構成されている。

図4:テラヘルツ波照明器 図4:テラヘルツ波照明器

※5火災を模擬した環境での試験(図5参照)
 不燃材で作られた長さ170cm、幅70cm、高さ120cmの区画内部で火災を模擬した環境を再現した。区画の内部は金属メッシュによって上下二層に仕切られており、その下層で、ウレタンブロックを燃焼させ、内部に煙を充満させる。上層には窓があり、窓から120cmのところに、被写体を設置した。窓の外側20cmの位置にアレイ照明器を設置し、そこから発せられるテラヘルツ波で被写体を照らし、同様に窓の外側20cmの位置に設置した市販のテラヘルツカメラで被写体を観察した。区画内の煙濃度(Cs値)は、被写体横に設置した煙濃度計でモニターした。Cs値=0は煙の無い状態をあらわし、Csが大きいほど煙濃度が高いことを示す。

図5:検証実験を行った火災を模擬した環境 図5:検証実験を行った火災を模擬した環境

※6被写体(図6参照)
アルミ板とセラミックファイバーボードで作製したT字の型。幅は6cmで、高さは5.5cmである。

図6:被写体 図6:被写体

参考

各煙濃度(Cs)時のテラヘルツイメージ(上段)と赤外線イメージ(下段)。
 なおこの実験では、被写体までの距離は85cm。

各煙濃度(Cs)時のテラヘルツイメージ(上段)と赤外線イメージ(下段)

本件に関するお問い合わせ先

本研究内容に関するお問合せ先

東京理科大学
国際火災科学研究科 准教授 松山賢
Tel:04-7124-1501 e-mail:kmatsu@rs.noda.tus.ac.jp

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
Tel:046-240-5157 e-mail:a-info@lab.ntt.co.jp


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東京理科大学
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日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
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