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2016年9月23日

高速電子デバイスと信号処理で高速信号を生成し毎秒250ギガビットの短距離光伝送に成功
~データセンタ等で使われる1テラビット級光伝送につながる技術として期待~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)は、高速電子デバイスと信号処理を組み合わせた高速信号を生成する新技術を用いて、イーサネット等で使われている光強度変調方式で毎秒250ギガビットの短距離光伝送に成功しました。
イーサネット等のデータセンタ等で使われる短距離光伝送では光部品の構成が簡単な強度変調※1方式が用いられます。送信する情報を変換して光を変調するための信号パターンに変換するデジタル信号処理チップの出力部分のCMOS※2電子回路の速さには限界があり、それより高速な強度変調信号となる毎秒250ギガビットの信号を作り出すことは困難でした。
NTTは、デジタル信号処理チップからの出力信号の速さを倍にする独自技術(帯域ダブラ技術)により、この課題を解決し、強度変調信号で毎秒250ギガビットの信号生成に成功するとともに、それを用いた光伝送実験を行い毎秒250ギガビット10kmの伝送に成功しました。この成果では1つの波長で毎秒250ギガビットの短距離光伝送を実現しており、将来的に4つの波長を使って並列化することで、現在標準化されている100Gイーサネットの10倍の伝送速度となる毎秒1テラビット※3伝送も可能となるなど、データセンタ等で使われる将来の短距離大容量通信を実現する光伝送技術として期待されます。本技術はドイツのデュッセルドルフで開かれる光通信関連の国際会議ECOC2016の優れた最新論文を発表するPost Deadline Paperとして現地時間の9月22日(木)に発表されました。

1.研究の背景

イーサネット等の短距離通信はデータセンタ等に用いられ、低コスト・小型・低消費電力の送受信器が求められます。いままで短距離光通信では、光信号の強度のみを変化させ、1つのレーザ光源と1つの光受信素子を使用する単純な変調方式(強度変調)が用いられてきました。近年の光伝送では、効率よく情報を送るために複雑な波形が用いられるため、デジタル信号処理チップにより信号を生成して送信する方法がとられます。デジタル信号処理チップの出力をアナログ信号に変換するため出力部分に設けられたDAC※4と呼ばれるCMOS電子回路は周波数帯域※530GHz程度であるため、より広い周波数帯域(60GHz以上)を必要とする250ギガビット級の伝送に必要となる高速な信号の出力が困難でした。

2.研究の成果

今回NTTが開発した「帯域ダブラ技術」は、DACの限界速度の影響を受けないようにチップ内の信号処理(図1 前置信号処理)により、入力信号をDAC出力限界速度以下の低速な信号に変換した2系統の信号として出力します。その後、デジタル信号処理チップの外部に接続したCMOS回路よりも高速動作が可能な化合物半導体※6の電子回路(AMUX※7)を用いて1つに合成することで、高速な信号の出力を実現し、上記のボトルネックを解消しています。さらに、AMUXで生成が予想される余分な信号について、AMUXで合成されるときに打ち消しあうように逆算して前置信号処理で2系統の信号を設定する手法で、正確な高速信号の生成を可能にしています。今回、帯域ダブラ技術により、周波数帯域60GHzを実現し、これにADSL等で用いられる光の強度の複雑なパターンを用いて一度に多くの情報を送る方法(DMT※8変調)を用いることで毎秒250ギガビット 10kmの光伝送を世界で初めて実現しました(図2図3)。

3.今後の展開

今回の実験の成功により、4波長を多重化することで1テラビット級の短距離光伝送をはじめとした大容量光通信など高速変調信号が必要とされる様々な分野への展開が期待されます。

4.技術のポイント

帯域ダブラ技術は、デジタル信号処理チップからの出力信号の速さを倍にするNTTの独自技術です。デジタル信号処理チップ内で入力信号を並列化するとともに、入力信号を周波数領域のデータに変換して、高周波領域の信号をシフトおよび反転等の操作により低周波領域に押し込んでデジタル信号処理チップの出力部分であるDACの速度限界以下に信号帯域を低減して、デジタル信号処理チップからの出力時の信号劣化を抑制します。次にデジタル信号処理チップから並列化されて出力された信号をAMUXにより高速に切り替えて足し合わせます。AMUXでの操作を、周波数領域での信号の畳み込みとみなすと、切り替え周波数の両側にAMUXへの入力信号の像が現れ高速信号が生成されます。その際、余分な信号も発生することから、その余分な信号を打ち消すように逆算してデジタル信号処理(前置信号処理)で並列化された信号を生成することで、所望の信号のみを得ることが可能となります。この技術はデジタル信号処理チップで生成できる信号の約2倍の速さの信号を作り出せることから帯域ダブラと呼んでいます。

図1:帯域ダブラ技術と従来技術の比較

デジタル信号処理チップはDSP※9とDACからなり、図中の周波数は周波数帯域を表しています。毎秒300ギガビット(300Gbps)を実現するためには約60GHzの周波数帯域程度が必要ですが、従来技術ではDAC部分に約30GHz程度の周波数帯域の制限があるため、そのままでは300Gbpsの伝送を行うことは不可能でした。帯域ダブラを用いれば30GHzの帯域の2系統の信号を並列に生成して、AMUXで合成することで、全体として60GHzの周波数帯域を実現しており、300Gbpsの伝送が可能となります。

図1:帯域ダブラ技術と従来技術の比較

図2:伝送実験の構成

今回の伝送実験ではデジタル信号処理チップを模擬するためパーソナルコンピュータで送信データを作成し、任意波形発生装置で信号を生成しています。その信号をNTTで開発したAMUXと組み合わせた帯域ダブラで合成し、その出力信号で広帯域なレーザモジュール(EADFBレーザ※10モジュール)を変調して伝送実験を行いました。

図2:伝送実験の構成

図3:伝送結果

伝送速度に対するビット誤り率の測定結果です。誤り訂正符号による訂正可能なビット誤り率の上限との交点から伝送速度の上限がきまります。この場合、約300Gbpsであり、誤り訂正符号の分を差し引いた正味の伝送速度として250Gbpsが得られています。

図3:伝送結果

用語解説

※1 変調: 信号を送るために波(ここでは光の波)を変化させることをいいます。強度変調は、最も簡単なものは光の場合を例にとると光を点ける/消すの2値の信号となります。また、多値強度変調は、一度により多くの情報を送ることができるように何段階かの明るさを設定して信号を送る方法です。

※2 CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor): 相補型金属酸化膜半導体。半導体集積回路を実現する構造としてCPUなど大規模な機能を実現する場合に用いられます。大容量光伝送の送受信では信号量が多いためこのタイプの回路が多く用いられます。微細化により高速化が進んでいるが、高速性の面では化合物半導体の方がすぐれています。

※3 1テラビット: ギガビットの1,000倍の量。現行の100ギガビットイーサの規格では、毎秒25ギガビット×4波長で毎秒100ギガビットを実現しています。今回の成果は毎秒250ギガビットを達成しており、同様に4波長を用いることで1テラビットの伝送も可能となります。

※4 DAC(Digital Analog Converter): デジタル信号処理回路から信号を出力する際のデジタル信号をアナログ信号に変換する回路です。

※5 周波数帯域: 信号を送るために必要となる最も低い周波数と最も高い周波数の間の周波数域を指します。ここでは、最も低い周波数は原点にあるため、最高の周波数のみで周波数帯域を表しています。

※6 化合物半導体: 複数の原子による化合物で構成される半導体材料で、ここではInP(リン化インジウム)を用いています。CMOSが大規模な回路に適しているのに対して、高周波特性にすぐれた集積回路に適しています。本成果では、研究所で開発した、InPヘテロ接合バイポーラトランジスタ集積技術を用いて回路を試作しています。

※7 AMUX(Analog Multiplexer): アナログ多重化器。アナログ波形を崩さずに高速に切り替えることができる電子素子です。

※8 DMT(Discrete MultiTone): 周波数帯域内を多数の周波数領域に分けて各周波数の通信状態に応じてビット数を割り当てることにより効率的な伝送を可能にするデジタル変調方式です。

※9 DSP(Digital Signal Processing): デジタル信号処理回路。近年の光伝送では送受信信号を生成・復調するためなどに用いられています。

※10 EADFB(Electro Absorption Distributed FeedBack)レーザ: 電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザの略語です。単一波長で光を発生する部分と光を吸収させて変調を掛ける部分を1つの半導体チップに集積した光源デバイスです。

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
a-info@lab.ntt.co.jp
TEL 046-240-5157

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