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2017年4月 3日

世界初、光通信波長帯ナノワイヤでレーザ発振および高速変調動作に成功 フォトニック結晶を用いてシリコンチップ上の新しいナノレーザ集積技術にむけて前進

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)は、光の波長よりはるかに細い半導体ナノワイヤ※1をシリコンフォトニック結晶※2上に配置し、光ナノ共振器※3を自発的に形成することで、光通信波長帯において初めてナノワイヤによるレーザ発振、および高速変調動作を実証しました。本技術により、シリコンチップ上に多機能なナノワイヤをベースとした超小型光デバイスを集積することが可能となります。この技術は、将来プロセッサチップの中に高密度な光ネットワークを導入する手段として用いられ、少ない消費電力で高速な情報通信処理を実現することが期待されます。
 本成果は2017年4月3日に米国科学雑誌「APL Photonics」で公開されます。本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成金の助成を受けて行われました。

成果のポイント

(ⅰ)ナノワイヤを用いて初めて光通信波長帯で連続発振に成功

(ⅱ)ナノワイヤとして初めて高速変調動作に成功

(ⅲ)シリコン光回路内に超小型レーザを実現する新しい技術

研究の背景

情報通信技術の消費するエネルギーは年々加速度的に増大しており、データセンタ、ルータ等の電気機器、特にその中で使われるプロセッサの消費エネルギー増大が大きな問題となっています。これは、情報処理速度が速くなるとエネルギーの大半を電気信号伝送が消費するようになるためです。この問題を抜本的に解決する手段の一つとして、プロセッサチップ内に大量の低消費電力光デバイスを集積し高密度な光ネットワークを導入して信号伝送を担わせることが検討されています。そのためにはシリコン回路内に集積が可能で低消費電力の超小型レーザが重要な役割を担います。
 レーザの消費電力を下げるためには、光増幅部の体積を小さくすることが鍵となります。半導体ナノワイヤは、大量製造と様々な機能添加が可能な非常に細い材料(ナノ材料)であり、超小型レーザの光増幅部への応用が期待されています。
 しかし、直径が光の波長より細いナノワイヤではこれまでレーザ発振は難しく、変調動作もこれまで達成されていません。これはナノワイヤ中に十分光を閉じ込めることができず、光が漏れてしまっていたためです。また、シリコン回路内で用いるためにはシリコンが透明になる光通信波長帯での動作が必須ですが、これまでナノワイヤレーザは可視光付近の波長でしか発振していませんでした。これは光通信波長帯では一般に材料の光利得(長さあたりの光の増幅度)が小さいため、発振がより難しいという問題があったためです。そこでこの二つの問題を解決し、波長より細いナノワイヤを用いて、光通信波長帯で発振し、高速変調が可能なレーザを開発することが望まれていました。

研究の成果

今回NTTでは、ナノスケールの微細な構造による光技術の革新を目指す「ナノフォトニクスセンタ」(神奈川県厚木市)において、これまで培った高度なナノフォトニクス技術を用いて、化合物半導体ナノワイヤ(図1)とシリコンフォトニック結晶(図2)を組み合わせたハイブリッド構造を作製し、光通信波長帯で発振し、高速変調可能なレーザを実現しました。フォトニック結晶とは人工的に作る屈折率が周期的な分布を持つ構造で、光を強く閉じ込める作用を持ちます。本成果では、波長よりもはるかに細く(直径約100nm)光通信波長帯で発光する半導体ナノワイヤを、シリコンフォトニック結晶中の溝の中に配置することにより(図3)、ナノワイヤ中に光を強く閉じ込める光ナノ共振器を実現しました。このハイブリッド構造を用いて光励起※4による光通信波長帯でのナノワイヤレーザの連続発振動作を世界で初めて達成し、このレーザを用いてナノワイヤとしては世界初となる毎秒10ギガビットの高速変調動作にも成功しました。
 この技術は、シリコンチップ上の光回路内に極小体積の化合物半導体ナノワイヤをベースにしたナノレーザを集積することを可能とし、将来プロセッサチップ内に低消費電力の大規模光集積回路による光ネットワーク処理の導入を可能とする新しい集積技術として期待されます。

なお、具体的な実験内容は次のとおりです。

<1>内部に十分な光利得を持つ、直径約100 nmの化合物半導体(InAsP/InP)ナノワイヤを、半導体ナノ加工技術で作製したシリコンフォトニック結晶の上に置き、ナノプローブマニピュレーション技術(後述)を用いてフォトニック結晶中の幅約150nmの溝の中に配置しました。(図4)

<2>低温下でハイブリッド構造を光励起し、光入出力特性における明確な閾値、発光波長線幅の狭窄化の観測など総合的な手法を用いて、レーザ発振動作を確認しました。(図5)

<3>励起光を高速に変調し、高速高感度な超伝導単一光子検出器※5で評価することで、毎秒10ギガビットの高速変調動作を達成し、十分良好な変調特性を確認しました。(図6)

今後の展開

今後、このレーザを同じチップ内のフォトニック結晶導波路へ結合させることによって、光回路内での使用を可能とすることを狙います。また、ナノワイヤとフォトニック結晶の構造を最適化し、光閉じ込め特性をさらに向上することにより、室温レーザ発振の実現を目指します。さらに、この手法を用いてレーザだけでなく光受光器や光スイッチなどのデバイスをナノワイヤを用いて実現することも目指します。
 最終的には、様々な異なるデバイスが同じチップの中に導波路を介して接続された集積光回路の実現を目標とします。その際には、それぞれのデバイス機能に応じたナノワイヤを配置すればよいので、本手法の特徴が最大限に発揮されることが期待されます。これらの技術を他のナノフォトニクス技術とも組み合わせることにより大規模光集積技術を確立し、今から10年~15年後に本格的にプロセッサチップの中へ光ネットワークを導入するための研究開発を進め、低消費エネルギーで超高速の情報通信技術を実現することを目指します。

技術のポイント

(1)半導体ナノワイヤとフォトニック結晶による光ナノ共振器の形成

本成果では、ナノワイヤをフォトニック結晶の溝の中に配置することによって、ナノワイヤ中に光を強く閉じ込める光ナノ共振器を形成できる現象※7を利用しています。フォトニック結晶に何らかの屈折率の変調を加えると共振器が形成できることがよく知られていますが、ここでは、光利得材料を有するナノワイヤをシリコンフォトニック結晶上に配置することによって、屈折率変調を実現し、その結果形成された共振器モードによってレーザ発振が実現しています。このナノワイヤ・フォトニック結晶のハイブリッド共振器によりナノワイヤ単体では難しかった強い光閉じ込めを可能にしたことが、レーザ発振を実現できた重要な技術的ポイントです。

(2)レーザ用に最適化したナノワイヤを作製

ナノワイヤは光通信波長帯では光利得が大きくないために、これまでレーザ発振を実現することが困難でした。そこで本研究では、光利得を稼ぐために100層の量子井戸を持つナノワイヤを用い、さらに、ナノワイヤの発光の偏り方向を共振器モードと一致させました。このようなレーザ用に最適化したナノワイヤをシリコンフォトニック結晶に適用することで、初めて通信波長帯のナノワイヤレーザを実現することができました。

(3)ナノプローブマニピュレーションによるナノワイヤの配置とレーザの波長制御

直径100nm以下のナノワイヤをフォトニック結晶中の溝の中に配置するために、ナノプローブマニピュレーションと呼ばれる技術を用いました。同技術では原子間力顕微鏡※6のプローブを走査することにより、ナノワイヤを基板上で所望の位置まで動かして配置することができます。さらに、この技術を使い、異なる格子定数のフォトニック結晶にナノワイヤを移動することで、レーザの波長の制御も行えることを確認しました。(図7)

図1 半導体ナノワイヤ

図1 半導体ナノワイヤ

図2 フォトニック結晶

図2 フォトニック結晶

図3 ナノワイヤ誘起ナノ光共振器

図3 ナノワイヤ誘起ナノ光共振器

図4 本研究におけるナノワイヤレーザの作製手法

図4 本研究におけるナノワイヤレーザの作製手法

図5 ナノワイヤ誘起光共振器のレーザ発振確認

図5 ナノワイヤ誘起光共振器のレーザ発振確認

図6 ナノワイヤレーザの高速変調

図6 ナノワイヤレーザの高速変調

図7 レーザ発振波長の制御

図7 レーザ発振波長の制御

用語解説

※1半導体ナノワイヤ
特殊な半導体結晶成長モードで形成される数十~100nm程度の直径の1次元微細構造材料。ワイヤ内に異種材料によるヘテロ接合や電流注入のためのPIN接合などの様々な機能構造を成長中に作りこむことができる。光デバイスへの応用に関してはそのサイズが光の波長よりもはるかに小さいため、ナノワイヤ単体では光を閉じ込めることができず、これまで十分な性能を出すことが困難であった。

※2フォトニック結晶
屈折率が光の波長と同程度の長さで周期的に変調された構造のことを指し、通常ナノ加工技術でシリコンなどの誘電体に人工的な周期構造を形成することによって作製される。このようにして作製されたフォトニック結晶は光絶縁体として機能するため、通常の物質では不可能な強い光閉じ込めが可能となり、デバイスの超小型化を実現する。

※3光ナノ共振器
光共振器とは、光を空間的に閉じ込める機能を持つ素子。光は狭いところに閉じ込めにくいため、高性能共振器の小型化は一般に難しい。従来、波長の10~100倍程度の小型共振器は光マイクロ共振器と呼ばれていたが、閉じ込め体積が1立方ミクロン以下の超小型光共振器は光ナノ共振器と呼ばれており、フォトニック結晶を用いて高性能な光ナノ共振器が実現されている。

※4光励起
レーザを発振させるためには、増幅部材料が光利得を持つ状態に励起する必要があるが、励起する手段としては光照射や電流注入が用いられる。本成果では光照射によって増幅部を励起する手法をとっている。

※5超伝導単一光子検出器
超伝導体を利用した光子検出器。臨界電流値以下のバイアス電流をかけることで、受光した光子の熱により超伝導状態を破壊し光を検出する。非常に高感度で高速な光子検出が可能

※6原子間力顕微鏡
微細なプローブで試料表面を走査し、そのときの試料表面とプローブ間に働く原子間力を一定に保つフィードバックをかけることにより、表面形状を計測する装置。本成果では、微細プローブを走査する機能を用いて、ナノワイヤを配置している。

※7 http://www.ntt.co.jp/news2014/1402/140220a.html

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
a-info@lab.ntt.co.jp
TEL 046-240-5157

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