2017年5月30日
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦 博夫、以下NTT)は、西日本電信電話株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:村尾 和俊)と協力し、現在広く敷設されている光ファイバケーブルにおいて、伝送路の中継器に「オールラマン光増幅技術」※1を適切に用いることで、毎秒400ギガビット信号をマルチバンドで光伝送するフィールドトライアルに成功しました。さらに本実験では、既存帯域の信号に影響を与えずに新しい帯域の信号を追加できることも確認しました。
この成果を用いることにより、将来データセンタ間通信などで大容量伝送の需要が生じた場合に、既設ファイバを利用しながらインサービスで使用可能帯域を広げ、毎秒30テラビット級の超大容量伝送に対応可能となります。
今後は、さらなる性能検証や運用面の検討を進め、超大容量伝送が必要とされるさまざまな分野への貢献をめざします。
今後の通信トラヒックの傾向は、4K/8K等の高解像映像の流通拡大やM2Mの本格普及に伴い、更に大容量になることが想定されており、NTTでは毎秒100ギガビットを超える信号を用いた更なる超大容量伝送の実現方法について、さまざまな検討を進めています。さらに近年のデータセンタ間トラヒックの増加に伴い、大容量のトラヒックを経済的に収容することが求められています。
大容量化を実現する手段の1つとして、光ファイバの使用可能帯域を拡大するマルチバンド化(Cバンド※2+Lバンド※3など)があります。分散シフト光ファイバ(DSF:Dispersion Shifted Fiber)ケーブルを用いた波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)光伝送でマルチバンド化を行う際には、拡張帯域(Cバンド)に波形歪みの原因となる零分散波長※4が存在し、その付近で非線形効果(特に、四光波混合※5)の影響により信号が劣化します。そのため、非線形効果の影響を回避する手段として、Cバンドの信号波長配置を不等間隔にする方法が実用化されていましたが、等間隔配置に比べて波長間隔が広がるため周波数利用効率が低くなる課題があり、大容量化の制限となっていました。
今回NTTは、既存帯域(Lバンド)と拡張帯域(Cバンド)の両方の光信号を「オールラマン光増幅技術」を適用することにより、既設のDSFケーブルを用いてWDM光伝送の波長間隔を等間隔にしたまま、十分な伝送マージンを確保して200km伝送することに成功しました。既存帯域と拡張帯域とを合わせて、使用可能帯域は2倍になります。本実験では毎秒400ギガビット信号を、16QAM変調した2波長を多重することで構成しました。
四光波混合による信号劣化は、伝送路中の光パワーに依存するため、低い光パワーで伝送できるほど低減することができます。オールラマン光増幅技術は、一般的なEDFA(Erbium-Doped optical Fiber Amplifier)を用いた光増幅に比べ、伝送路中の信号光パワーを低くして伝送することができる技術です。この技術を用いて、Cバンドにおいても波長間隔を等間隔に配置したまま非線形効果を抑制し、周波数利用効率を高めることができました。
また、ラマン増幅を用いる場合、高いパワーの励起光を用いるため安全面への配慮が必要となります。今回はIEC※6の基準に則った実用レベルの安全性を確保しつつ、実証実験を実施しました。さらに本実験ではラマン光増幅を適切な条件で制御することで、Lバンドに配置している光信号の伝送品質に影響を与えずにCバンドに光信号を増設できることを確認しました。これにより、既設ファイバにおいてマルチバンド化する際、新たなCバンド光信号をインサービスで追加収容可能なことを確認できました。
今後、毎秒400ギガビット信号のマルチバンド光伝送並びにオールラマン光増幅技術を含めた大容量光伝送技術の研究開発を引き続き推進し、その成果を活かし、経済的かつ大容量なネットワークの実現をめざします。
今回のフィールドトライアルの成果は、既設ファイバを用いたデータセンタトラヒックの収容など、超大容量伝送が必要とされるさまざまな分野への展開が期待されます。
図1 フィールドトライアル実験構成(左)オールラマン光増幅の信号パワーイメージ(右)
※1オールラマン光増幅技術
ラマン増幅器は、光アンプの一種です。ラマン散乱というファイバ中の非線形効果を用いた増幅方式であり、増幅したい波長帯の短波長側に励起光を入射することで、任意の帯域の増幅が可能となる方式です。オールラマン光増幅は、光伝送路中の中継器を、全てラマン増幅器で構成する方式です。
※2Cバンド
ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)で規定される光通信で使われる波長域の一つであり、1530nm~1565nmの光波長帯です。
※3Lバンド
ITU-Tで規定される光通信で使われる波長域の一つであり、1565nm~1625nmの光波長帯です。
※4零分散波長
光ファイバ中の光信号の伝搬速度は波長によって変化します。その変化率が零となる波長を零分散波長と呼びます。
※5四光波混合
四光波混合は、ファイバ中で発生する非線形効果の一種です。二つ以上の異なる波長の光をファイバに入射した際に、入射光とは異なる波長の新たな光が発生する現象です。WDM光伝送で波長間隔を等間隔に配置する場合、四光波混合で発生した新たな光が信号光に重なることで、信号劣化の原因になります。
※6IEC
IEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)は、電気及び電子の技術分野における国際的な標準化団体です。
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