2019年3月 7日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下 NTT)は、多値信号の高精度校正※1を可能とするデジタル信号処理技術及び超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術により、1波長あたり毎秒1テラビット※2を長距離伝送する波長多重光伝送実験に世界で初めて成功しました。
NTTは、独自の多値信号の高精度校正技術と超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術を開発し、毎秒1テラビット(シンボルレート※3として120ギガボー、変調多値度※4の高い高品質な64QAM)級の光信号生成に成功し、これを35波長多重して800kmの伝送に世界で初めて成功しました。現在の実用システムの1波長あたり毎秒100ギガビット容量の10倍の伝送速度であり、IoTや5Gサービス普及に向けた大容量通信ネットワーク技術として期待されます。本技術の詳細は、3月3日からアメリカ、サンディエゴで開催される国際会議OFC 2019(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition)で発表予定です。
IoTや5Gサービスなど新しい情報通信サービスの普及に伴い、通信トラフィックは今後も増え続けることが予測されており、基幹系の光通信ネットワークにおいてもさらなる大容量化を経済的に実現することが求められています。経済性の観点では、光信号1波長あたりの伝送容量を拡大することが有効であり、信号のシンボルレートを上げ、1シンボルあたりの変調多値度を上げることで、1波長あたり毎秒1テラビット容量の光信号を複数波長多重した長距離光伝送の実現が望まれていました。
1波長あたりの伝送容量を拡大するためには、シリコンCMOS※5による半導体回路の速度限界を克服する必要があります。これまでNTTではAMUX※6を用いてシリコンCMOSの速度限界を打破する帯域ダブラ技術※7を使った光伝送方式ならびに集積デバイスの研究開発を進めており、100ギガボーを超えるシンボルレートの光信号生成に成功しています。しかしながら、光フロントエンド回路部の不完全性(信号経路長差や信号経路による損失ばらつき等)のため、1波長あたり毎秒1テラビットの高速かつ長距離の波長多重伝送が可能な品質の光多値信号を生成することは困難でした。
今回、独自の多値信号の高精度校正を可能とするデジタル信号処理技術及び超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術(図1)により、1波長あたり毎秒1テラビットを長距離伝送する波長多重光伝送実験に世界で初めて成功しました。光フロントエンド回路部に内製InP HBT※8によるAMUXを用いることにより120ギガボーのシンボルレートを実現し、かつ高精度校正技術により変調多値度の高い高品質なPDM-PS-64QAM※9光信号生成に成功しました。さらに、これを35波長多重して800kmの伝送に成功しました(図2)。
これまで世の中で実現が困難であった、高シンボルレート(120ギガボー)の高品質な64QAM級光信号を生成できるので、1波長あたり毎秒1テラビットを長距離伝送する大容量波長多重光通信システムの実現が期待されます。現在広く使われている1波長あたり毎秒100ギガビットの10倍の伝送速度であり、IoTや5Gサービス普及に向けた大容量通信ネットワーク技術として期待されます。今回、AMUXと変調器ドライバ、光変調器(InP MZM※10)をハイブリッド集積した多重機能内蔵の光フロントエンドモジュール(図3)も実現し、192ギガボーまでのQPSK光信号、及び160ギガボーまでの8QAM光信号の生成にも成功しており、今後光伝送実験に適用していく予定です。シリコンCMOSの変調速度限界を打破する超高速光通信向けの基盤技術として、さらなる進化をめざします。
AMUXによるアナログ多重機能を光フロントエンド回路部に導入することにより、シリコンCMOS回路部と光フロントエンド回路部の2つの回路ブロック間の電気信号の所要帯域を従来の半分に低減でき、回路実装を容易にすることができます。また、シリコンCMOSの速度限界を超えるシンボルレートの光信号を生成できます。さらに、光フロントエンド回路部の不完全性(信号経路長差や信号経路による損失ばらつき等)を高精度に校正する独自技術を導入することにより、64QAMまでの高い変調多値度をもつ高品質な光信号の生成に成功するとともに、800kmまでの長距離波長多重伝送に成功しました。
図1 毎秒1テラビット光伝送を達成した光送信構成
図2 報告されている波長多重光伝送実験結果と本成果(伝送距離 vs.データレート)
図3 多重機能内蔵の光フロントエンド回路
※1校正:
要求される性能に適合するように調整すること。ここでは、信号経路差や信号経路による損失ばらつき等の不完全性を補正すること。較正。
※2テラビット:
ギガビットの1,000倍の量。
※3シンボルレート:
1秒間に光波形が切り替わる回数。120ギガボーの光信号は、光波形を1秒間に1200億回切り替えて情報を伝送している。
※4変調多値度:
1つの光波形で表現できる情報の数を表す。64QAMは、1つの光波形で64(=26)種類すなわち6ビットの情報を送ることができる。
※5CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor):
相補型金属酸化膜半導体。半導体集積回路を実現する構造としてCPUなど大規模な機能を実現する場合に用いられる。大容量光伝送の送受信では信号量が多いためこのタイプの回路が多く用いられる。微細化により高速化が進んでいるが、高速性の面では化合物半導体の方が優れる。
※6AMUX(Analog Multiplexer):
2つのアナログ入力信号をクロック信号によって交互に切り替えて出力する電子回路。
※7帯域ダブラ:
デジタル信号処理、2個のDAC、およびAMUXの組合せにより、各DACの倍の帯域で任意の信号を生成する技術。
※8InP HBT(InP Heterojunction Bipolar Transistor):
Ⅲ-Ⅴ族半導体のリン化インジウムを用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ。高速性と耐圧に優れるトランジスタ。
※9PDM-PS-64QAM (Polarization Division Multiplexed Probabilistically Shaped 64QAM):
PS-64QAMとは、光信号電界の64値の信号点配置を確率的に分布させることにより信号誤り率を情報理論限界へ漸近させて、信号品質を向上する技術。これを、光信号の持つ2つの独立な偏波光信号の各々に対して適用することにより、偏波多重(PDM)光信号として伝送容量をさらに拡大することが可能となる。
※10InP MZM (InP Mach-Zehnder Modulator):
Ⅲ-Ⅴ族半導体のリン化インジウムを用いたマッハツェンダ型光変調器。高速性に優れる。
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