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2019年6月 3日

日本電信電話株式会社

世界で最も広い241ギガヘルツの帯域を有する増幅器ICを実現 ~次世代データセンタやBeyond 5G向けの汎用超高速デバイス技術として期待~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下 NTT)は、高精度な回路設計手法と、広帯域化を図る新しい回路アーキテクチャにより、世界で最も広い241GHz(ギガヘルツ)の帯域※1を有する増幅器ICの実現に成功しました。
 増幅器ICは汎用性の高い基本素子であり、光通信、無線通信、計測器、レーダ・イメージング等様々な分野で利用されます。近年、各分野での高速化・高分解能化に伴い、より広帯域なアナログICが必要になっています。例えば、データセンタ等で使われるイーサネット等の光通信では、1レーンあたりのアナログ帯域はCMOS※2 DAC/ADC※3の帯域限界により20GHz程度に留まっており、さらなる通信容量の大容量化のボトルネックとなっていました。
 NTTは、独自の高精度回路設計技術と、広帯域化を可能とする新しい回路アーキテクチャ技術を適用した増幅器ICをInP-HBT※4で実現し、世界で最も広い帯域241GHzの増幅器ICの実現に成功しました。本増幅器ICと帯域拡張技術※5を組み合わせて光通信に適用することで、1レーンあたり現在の10倍の大容量化に繋がることが期待されます。また、本増幅器ICを無線通信に適用することで、ミリ波帯までのマルチバンド一括送信・受信の実現に繋がるので、Beyond 5Gに向けたキーデバイスとして期待されます。本技術の詳細は、6月2日(現地時間)からアメリカ、ボストンで開催される国際会議IMS2019(2019 International Microwave Symposium)で発表予定です。

1.研究の背景

ムーアの法則が終焉を迎えつつあり、シリコンCMOSを活用した各種システムの高速化・高分解能化に限界が見えてきています。例えば、データセンタ等で使われるイーサネット等の光通信では、1レーンあたりの帯域はCMOS DAC/ADCの帯域限界により20GHz程度に留まっており(図1)、さらなる通信容量の大容量化のボトルネックとなっていました。

2.研究の成果

独自の高精度回路設計技術と、広帯域化を可能とする新しい回路アーキテクチャ技術を適用した増幅器ICをInP-HBTで実現し、世界で最も広い241GHzの帯域を有する増幅器ICの実現に成功しました(図2)。本増幅器ICと帯域拡張技術を組み合わせて光通信に適用することで(図3)、帯域ダブラ技術※6の次のさらなる帯域拡張技術を実現できる見込みであり、1レーンあたり現在の10倍の大容量化に繋がることが期待されます(図4)

3.今後の展開

本増幅器ICは、これまで世の中で実現が困難であった、広帯域(241GHz)の信号を増幅できるので、光通信だけでなく、無線通信、計測器、レーダ、イメージング等様々な分野の高速化・高分解能化に寄与できます。本増幅器ICを無線通信に適用することで、ミリ波帯までのマルチバンド一括送信・受信の実現に繋がるので、Beyond 5Gに向けたキーデバイスとして期待されます。本技術を深化していくことにより、人々の生活の豊かさ・便利さを向上させ、人類の未来に希望を与える科学技術の発展に貢献していきます。

4.技術のポイント

InP HBTの性能を最大限に引き出す高精度な回路設計手法に関する技術と、広帯域化を図る新しい回路アーキテクチャにより、世界で最も広い241GHzの帯域を有する増幅器ICの実現に成功しました。これまで、200GHzの帯域を超える回路を設計するために必要な高精度かつ高自由度な伝送線路※7モデルがなく、また、200GHzの帯域を達成するために必要な寄生成分に対する対策手法がありませんでした。今回、自由度の高い伝送線路モデルを創出するとともに電磁界解析と組み合わせる手法により設計精度を向上しました。また、寄生成分による高周波での減衰をカスコード段ピーキング※8で補償し広帯域化を図りました(図5)。

図1 CMOS DAC/ADCの帯域 図1 CMOS DAC/ADCの帯域

図2 従来技術との比較 図2 従来技術との比較

図3 帯域拡張技術を適用した短距離光送信器の構成例 図3 帯域拡張技術を適用した短距離光送信器の構成例

図4 成果の位置付け 図4 成果の位置付け

図5 新しい回路アーキテクチャ技術により広帯域化した増幅器回路 図5 新しい回路アーキテクチャ技術により広帯域化した増幅器回路

用語解説

※1帯域: 利用できる周波数の幅を示し、利用できる最高周波数から最低周波数を減算することで計算できる。通信システムでは、送受信器を構成するデバイスを広帯域化することで、通信速度を早くでき、通信システムの大容量化が可能となる。 ※2CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor):
相補型金属酸化膜半導体。半導体集積回路を実現する構造としてCPUなど大規模な機能を実現する場合に用いられる。大容量光伝送の送受信では信号量が多いためこのタイプの回路が多く用いられる。微細化により高速化が進んでいるが、高速性の面では化合物半導体の方が優れる。
※3DAC/ADC(Digital to Analog Converter / Analog to Digital Converter):
デジタル信号処理回路から信号を出力する際のデジタル信号をアナログ信号に変換する回路、及びデジタル信号処理回路に信号を入力する際のアナログ信号をデジタル信号に変換する回路。
※4InP HBT(InP Heterojunction Bipolar Transistor):
Ⅲ-Ⅴ族半導体のリン化インジウムを用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ。高速性と耐圧に優れるトランジスタ。
※5帯域拡張技術:
複数の信号から一つの広帯域の信号を生成する技術の総称。帯域ダブラ技術、及び帯域加算技術がある。帯域加算技術は、複数のアナログ信号を入力して、一つの広帯域のアナログ信号に合成して出力、または一つの広帯域のアナログ信号を入力して、複数のアナログ信号に分離して出力する技術。
※6帯域ダブラ技術:
DAC機能に関しては、デジタル信号処理、2個のDAC、およびAMUX(2つのアナログ入力信号をクロック信号によって交互に切り替えて出力する電子回路)の組合せにより、各DACの倍の帯域で任意のデジタル信号をアナログ信号に変換する技術。ADC機能に関しては、ADEMUX(アナログ入力信号をクロック信号によって交互に切り替えて2つのアナログ信号に出力する電子回路)と2個のADC、およびデジタル信号処理の組み合わせにより、各ADCの倍の帯域で任意のアナログ信号をデジタル信号に変換する技術。
※7伝送線路:
電気信号を伝達するための配線のこと。伝送線路に高周波信号を伝達する場合には、その断面構造や配線長が電気特性に大きく影響を及ぼす。
※8カスコード段ピーキング:
カスコードとは、エミッタ接地増幅器の負荷部にベース接地増幅器が付加された回路であり、ここではベース接地増幅器をカスコード段と呼んでいる。ピーキングとはある周波数の周辺帯域のみを強調する回路手法であり、高周波領域のみを強調する場合には、回路全体の帯域を拡大することができる。カスコード段ピーキングとは、ベース接地増幅器の周辺回路にて高周波領域のみを強調した回路手法のことを意味する。

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
TEL 046-240-5157

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