2019年12月11日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純)は、このたび、衛星通信の送信信号のスペクトラムを自在に分解し、宇宙空間にある衛星中継器※1の空いている任意の周波数に分解後の信号を配置して通信し、受信側で分解された信号を再び合成するという「スペクトラム分解合成伝送」を実現し、衛星を使用した実証実験でその有効性を確認しました。
本技術は、既存の衛星通信用モデム※2に外付け装置(以下 アダプタ)として接続するだけで、信号のスペクトラムを分解・合成でき、これまで衛星中継器上に散在していた未使用帯域を、既存ユーザの使用領域に影響を与えることなく利用することを可能とするものです。平常時の利便性向上に加え、災害時など急遽衛星通信を必要とする際にも、より効率的な衛星利用が可能になると期待されます。また、信号を分解して送信し、受信して再合成するというプロセスを経ることにより、通信のセキュリティ向上にもつながります。
このたび、本技術を実装した装置による衛星実験に成功したことで、実際に衛星中継器上に散在する未使用帯域を有効利用できることを明らかにしました。今後は中継器を共有する複数ユーザに対する未使用帯域の効率的な割り当て方法について検討を進め、中継器の更なる利用効率向上をめざします。
一般に衛星通信では限られた衛星中継器帯域を複数のユーザで共有しながら通信をするため、できるだけ周波数を効率よく利用することが重要です。それぞれのユーザが必要に応じて衛星帯域の利用・解放を逐次繰り返すと、結果的に衛星中継器に未使用帯域が散在するケースが多々あります。
この状況で、別のユーザが新たに高速通信を要望した際、中継器上で連続した周波数帯域を確保することができない場合があります。これまでは、オペレータが衛星中継器を共有利用する既存ユーザに依頼して、一時的に通信を停止したうえで、別の周波数帯域に移行するというような、周波数の再配置が一般的でした。
しかしながら、通信を停止して周波数を再配置することは、既存ユーザの利便性を損ね、衛星オペレータの業務が増加するという大きな課題がありました。
NTTアクセスサービスシステム研究所は、衛星通信モデムから出力される信号のスペクトラムを、自在に分解し、衛星中継器の所望の周波数に分解した信号を配置し、受信側で所定の信号を抽出して再び合成する、「スペクトラム分解合成伝送技術」を研究開発しました。本技術を用いることで、周波数の再配置をせずに衛星中継器の未使用帯域を複数束ねて利用して迅速に高速通信を実現するなど、ユーザに対して柔軟な周波数割当が可能となり、利便性の向上が見込まれます。平常時の利便性に加え、災害時など急遽衛星通信を利用する際にも、より効率的な衛星利用が可能になると期待されます。
さらに、物理レイヤで信号のスペクトラムを分解し、情報を中継器上に分散配置することで、第三者の信号傍受が困難となり、よりセキュリティを高める技術としての利用も可能となります。
このたび、衛星実証実験を通じて、本技術を用いて汎用の衛星通信モデムの送信信号を自在に分解・配置・合成できることを確認しました。
図1はスペクトラム分解合成技術の概念図です。衛星通信モデムから出力されたアナログ信号を送信アダプタ装置に取り込んでディジタル信号に変換後、 新規に考案したフィルタバンク技術※3によりスペクトラムを分解し、衛星中継器に所定の周波数帯域に信号を分散配置します。その後、アナログ信号に再度変換して、アンテナを通じて衛星に対して送信します。
一方、受信側では衛星からの信号をアンテナで受信後、受信側のアダプタ装置でディジタル信号に変換し、フィルタバンク技術で所定の周波数信号だけ抽出します。抽出された信号を周波数変換して、スペクトラム合成を実施し、その後、再びアナログ信号に変換して、衛星通信モデムに受け渡します。受信側の衛星通信モデムでは、通常のアナログ信号として受け取るため、伝送途中で分解合成されたことを意識することなく、復調処理をできます。したがって、本技術は衛星通信モデムが採用している信号フォーマットに依存することなく信号を分解合成することが可能です。
信号のスペクトラムを複数のサブスペクトラム信号に分解して、中継器上に分散配置すると、各サブスペクトラム信号の遷移域の数が分解数分だけ増えるため、分解前と比較して、信号ののべ帯域が増加し、周波数利用効率が低下する課題がありました。この課題に対し、分解時に各サブスペクトラム信号の周波数特性を編集し、サブスペクトラム信号の帯域を狭くするスペクトラム送信編集技術を考案しました(図2)。これにより、信号の分解前後で占有帯域が変わらず、周波数利用効率を維持した状態で信号の分散配置が可能となりました。
図3にスペクトラム同期合成技術を示します。スペクトラム合成において、分解前の送信スペクトラムを再現するには、受信側においてサブスペクトラム間の位相同期・周波数誤差補償・振幅調整といったスペクトラム同期合成技術が重要です。サブスペクトラム間で電力密度差が生じると、スペクトラム合成特性が劣化することから、合成前にサブスペクトラム間の電力密度をそろえる自動利得制御技術を実装しています。また、周波数誤差がある状態ではサブスペクトラム合成時にフィルタバンクで信号電力が削られることから、自動周波数誤差補償技術を実装しています。さらに、スペクトラム合成時にサブスペクトラムの遷移域の位相が連続するように位相同期技術を実装しています。
本技術の実用性を確認するため、実際の衛星による実証実験を実施しました。衛星通信モデムとしては海外製品の市販モデムを使用しました。まず、図4に送信信号を分解したスペクトラムの一例を示します。ロールオフ率0.1および0.05のQPSK信号のスペクトラムを自在に分割し、所定の周波数に配置できることを確認しました。次にスペクトラム分解有無でBER(ビットエラーレート)※4特性を比較しました。図5に実験諸元、図6にBER特性を示します。図6に示す通り、(a)帯域分解無し、(b)同一中継器内で帯域分解有り、(c)隣接中継器間で帯域分解有りのBER特性はいずれも同じ特性を示しており、スペクトラム分解合成技術が実用的であることが確認できました。
今回衛星実験実証では、衛星通信モデムの送信信号に対し、スペクトラム分解合成を自在にできることを確認し、技術の有効性・実用性を明らかにしました。本技術はFPGA(Field Programmable Gate Array)※5に実装可能なディジタル信号処理ソフトウェア技術であるため、市販の衛星通信モデムに内蔵されているFPGAにもIP (Intellectual Property)実装することも可能です。今後は本技術を用いた新しい周波数割り当てに関する検討を進めます。
本技術は総務省の委託研究「動的偏波・周波数制御による衛星通信の大容量化技術の研究開発」の成果の一部を活用したものです。また、スカパーJSAT株式会社の設備協力のもと、衛星実証実験を実施しました。
※1地球局からの無線信号を受信し、増幅や周波数変換等の処理を施した後に再び地球局に送信する、いわゆる中継機能を有する宇宙空間にある衛星装置
※2情報を変調して送信信号を作成する機能と、受信信号を復調し情報を抽出する機能を備えた装置
※3信号が複数のサブバンド信号に分割され、また複数のサブバンド信号が再び合成されるバンドパスフィルタ群
※4ビット誤り率。例えば100bit送信して1bit誤るとBER=0.01となる
※5製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路
本件に関するお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
情報ネットワーク総合研究所 企画部 広報担当
TEL:0422-59-3663
Email:inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。
現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。
NTTとともに未来を考えるWEBメディアです。