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2020年3月13日

日本電信電話株式会社

科学的なトレーニング支援技術を開発しラグビー選手を対象に有効性を実証

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、早稲田大学ラグビー蹴球部の協力を得て、ラグビー選手のストレングス&コンディショニング(以下、「S&C」)のコーチングにおいて、機能素材「hitoe®」※1で培ったウェアラブル生体センサ技術と心理学アプローチを応用したワークショップ(以下、「WS」)による行動変容介入手法を用いることにより、科学的知見を活かしたS&C強化が可能なことを実証しました。
 なお、この実験は実験主体者であるNTT、被験者としての早稲田大学ラグビー蹴球部の協力に加え、株式会社ユーフォリア、株式会社アシックスが参画し、4者の協働で行われました。

目的と背景

近年ラグビーはますますその戦術が高度化、複雑化するとともに、それを遂行するために必要とされる体力的要求も増大しています。早稲田大学ラグビー蹴球部のS&C部門はその要求に対し、かつてより科学的トレーニング手法を導入することでチーム強化の基盤を作ることをめざしていました。そこにユーフォリアが様々なデータを一元的に管理できるシステムを、アシックスがウェア設計技術を、NTTが機能素材「hitoe®」をベースとしたウェアラブル生体センサ、先端的なデータ解析技術と、対話研究で培ったWSの知見を、それぞれ提供することで、選手達の取り組みを科学的にサポートする実証実験を行いました。その結果、S&Cにおけるアスリートモニタリングとアスリートセンタードコーチングというアプローチに対し、今回新たに開発したNTT技術を適用することで選手育成を支援することに成功しました。

科学的トレーニングをサポートする成果

今回の成果は、選手のトレーニングにおいて選手の客観的な状態を数値化するアスリートモニタリングと、選手のトレーニングに対する主体性を引き出すアスリートセンタードコーチングにより構成されます。
 アスリートモニタリングでは大量のデータが必要とされるため、まず選手のデータを安定的に測定する必要があります。アシックスの動作分析から得られた設計技術によりコンプレッションウェアの快適性と運動追従性が向上しました。そこにNTTがラグビー選手の筋肉の付き方を考慮した電極配置を見出し、「hitoe®」を電極として縫製することで、ラグビー選手のトレーニングに対しても格段に信頼性の高い生体データ計測ウェアを実現しました(図1)。このウェアと計測機を介して取得された選手の生体データはユーフォリアのコンディション管理システム「ONE TAP SPORTS(ワンタップ・スポーツ)」にて一元的に管理されますが、そこにNTTの持つ心拍数解析技術の一つを応用することで、ワークロードを推定できることが実証的に示されました(図2)。これはチーム全体のワークロードを効率的に把握しながら練習を行うことに役立てられました。その一部成果は生体医工学分野の国際会議[1]にて発表されました。将来的には傷害・体調不良のリスクを抑えた効果的な練習プランニングなどにも役立つと考えられます。

  • 図1.快適性の高いhitoe®を用いて作成されたウェアにより、選手の負担感が軽減 図1.快適性の高いhitoe®を用いて作成されたウェアにより、選手の負担感が軽減
  • 図2.主観報告に頼っていたワークロード指標を心拍数から推定することで客観的評価が可能に 図2.主観報告に頼っていたワークロード指標を心拍数から推定することで客観的評価が可能に

他方、アスリートセンタードコーチングでは選手のトレーニングに対する主体性を引き出すために、選手が自分自身で意思決定する過程が重要になります。そこで本取り組みでは、選手が自分自身でS&C強化のための目標を設定・遂行する過程に着目し、そこにNTTが対話研究で培ったWSの知見[2]を活用することで、選手同士が対話をしながら自分自身で具体的な目標を設定するWSを設計・実施しました(図3)。その結果、選手の目標が具体化され(図4)、目標記述の具体度とストレングスの数値向上との関連(r=0.344,p=0.043)が確認できました。このことから,WSでの目標設定を通じ選手の行動変容が促され,ストレングスの数値向上が実現されたと考えられます。この取り組みは、選手自身が体力的基盤の増強を計画実行する過程を通じて、柔軟かつ迅速に意思決定する選手の人間的育成に役立つ可能性を持っております。

  • 図3.対話研究の知見を活用したWSにより、選手の自主的な取り組みの実効性が向上 図3.対話研究の知見を活用したWSにより、選手の自主的な取り組みの実効性が向上
  • 図4.WSを続けるに従い、トレーニング目標と実行に関する記述の具体度(第三者評価に基づく)が向上 図4.WSを続けるに従い、トレーニング目標と実行に関する記述の具体度(第三者評価に基づく)が向上

これらの成果は、第56回全国大学ラグビーフットボール選手権大会に優勝した早稲田ラグビー蹴球部において科学的トレーニングをめざすS&C強化に実際に活用されました。

今後の展開

本実験の成果を踏まえ、NTTは引き続き選手たちの取り組みを科学的に支援する技術の研究活用を進めます。データを測定する最新の装置や快適性の高いウェア、測定データを解析するシステム、人の行動や心理を加味したコーチング方法など多岐わたるNTT技術を組み合わせることにより、総合的にヒトとしての選手の成長をサポートする世界をめざします。

用語解説

※1hitoe®東レとNTTが開発した機能素材です。最先端繊維素材であるナノファイバー生地に高導電性樹脂を特殊コーティングすることで、衣服や帽子など人の体に密着した形に縫製できます。家庭洗濯などの耐久性にも優れ、非金属素材でありながら心拍数や心電波形などの生体信号を高感度に検出できます。
「hitoe」は東レ株式会社および日本電信電話株式会社の登録商標です。

参考文献

[1]Higuchi, Yuichi, et al. “New Wearable Heart Rate Monitor for Contact Sports and Its Potential to Change Training Load Management,” 41st Annual Int. Conf. IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC), IEEE,2019.

[2]中谷桃子、他、“リビングラボにおける対話の場がもたらす価値-「ともに育むサービスラボ」を事例として、”ヒューマンインタフェース学会論文誌、Vol.21(4),pp.391-404,2019.

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社

研究企画部門プロデュース担当
TEL:03-6838-5650

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