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2020年8月 5日

日本電信電話株式会社

テラヘルツセンシングに適用可能な500GHz帯20dB利得の増幅器ICを実現 ~台風や集中豪雨などの気象予報精度の向上につながる技術として期待~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、増幅器の周波数を制限する要因となっていたトランジスタの寄生容量成分をインダクタ成分で中和する中和回路※1を500GHz帯で初めて増幅回路に適用し、500GHz帯での20dBの高利得増幅器ICの実現に成功しました。

500GHz帯は、テラヘルツ波※2として知られる高い周波数帯のひとつであり、センシングなどへの適用が期待されています。マイクロ波やミリ波よりも高いこの周波数帯を利用するためには、高い利得を持つ増幅器ICの実現が期待されていました。

NTTは、独自の中和回路技術を適用した500GHz帯増幅器ICをInP※3-HEMT※4で実現し、20dBの電力増幅率(利得)を確認しました。現在まで報告されている500GHz帯増幅器ICの2.5倍の利得であり、台風や集中豪雨などの気象予報精度の向上につながる技術として期待されます。本技術の詳細は、米国時間8月4日からインターネット上でオンライン開催される国際会議IEEE IMS2020(IEEE International Microwave Symposium)に新設のLate News※5にて発表予定です。

1.研究の背景

500GHz帯を含むテラヘルツ波は、他のシステムや他の自然放射波との干渉が少ない周波数帯域であり、水蒸気や酸素の濃度を正確に把握可能な電気的特性を有しているため、既存の気象観測の利用周波数( 7GHz-80GHz )に加えて観測に利用することにより、台風や集中豪雨などの気象予報精度の向上が期待されています。

2.研究の成果

今回、独自の中和回路技術を適用した500GHz帯増器ICをInP-HEMTで実現し、20dBの高利得の増幅器ICの実現に成功しました。これまでに報告されている500GHz帯増幅器ICの2.5倍の利得であり、台風や集中豪雨などの気象予報精度の向上につながる技術として期待されます。

3.今後の展開

本増幅器ICは、これまで世の中で実現が困難であった、500GHz帯での信号増幅を20dBの高利得で実現できるので、センシングだけでなく、イメージングや大容量無線通信等様々な分野での活用が期待されます。本技術を深化していくことにより、人々の生活の安心安全、豊かさ、便利さを向上させ、人類の未来に希望を与える科学技術の進展に貢献していきます。

4.技術のポイント

高速・高利得に優れたInP-HEMTにて増幅器ICを実現しました。従来、増幅器の動作周波数は、トランジスタの性能(fMAX※6)の6割程度の周波数に留まっていました。NTTは、増幅器の周波数を制限する要因となっていたトランジスタの寄生容量成分をインダクタ成分で中和する図1に示す中和回路を提案しました。本回路技術をテラヘルツ波に適用した増幅器IC(図2)を試作し、トランジスタの性能(fMAX)の8割を超える500GHz帯において利得20dBの増幅動作に成功(図3)しました。

なお、本成果の一部は、平成30年~令和2年度総務省委託研究「テラヘルツセンシングシステム基盤技術の研究開発」の一環として行われました。

図1 中和回路 図1 中和回路

図2 試作した増幅器IC 図2 試作した増幅器IC

図3 本成果の位置づけ(増幅器ICの周波数vs利得) 図3 本成果の位置づけ(増幅器ICの周波数vs利得)

用語解説

※1中和回路:
トランジスタに寄生して付随する不要な容量(寄生容量)成分を除去(中和)する回路。中和回路の構成としては、寄生容量と同一の容量を付加して逆相の信号を与えて打ち消す構成、あるいは、容量と逆の性質を持つインダクタを付加する構成などがある。

※2テラヘルツ波:
103を「キロ(k)」と呼ぶのと同様に、109を「ギガ(G)」、1012を「テラ(T)」と呼ぶ。「ヘルツ(Hz)」は交流電気信号や電磁波が、1秒間に波打つ回数が何回かを示す、周波数と呼ばれる物理量の単位。つまり、1テラヘルツ(1THz=1,000GHz)は、1秒間に1×1012回波打つ電磁波の周波数である。一般に、テラヘルツ波は、0.3THzから3THzの電磁波を指し示すことが多い。

※3InP:
インジウムリン。インジウムとリンからなるⅢ-Ⅴ 族の化合物半導体。高速性や高出力性が求められるアプリケーション向けの機能を実現する場合に用いられる。

※4HEMT(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
高電子移動度トランジスタ。

※5Late News:
国際会議等によっては、通常の論文投稿締切時期を過ぎていても、特に顕著な成果をLate News Paperとして採択するというシステムをとっているケースがある。Post Deadline Paperとも呼ばれる。本成果が発表される国際会議IMSでは今年Late Newsが新設され、通常の投稿論文よりも厳しい採択条件をクリアした厳選された論文がLate News Paperとして採択されている。

※6fMAX(fMAX : Maximum Oscillation Frequency):
最大発振周波数。トランジスタの高周波特性の良さを示す指標の一つであり、トランジスタが信号を増幅できる周波数の理論的な上限値を表す。トランジスタのfMAXが大きいほど、高い周波数の信号の増幅が可能となる。

発表予定

この成果は8月4日からオンライン開催される国際会議IMS 2020(International Microwave Symposium 2020)において、「475-GHz 20-dB-Gain InP-HEMT Power Amplifier Using Neutralized Common-Source Architecture(中和回路を適用したソース接地増幅器を用いた475GHz 20dB利得 InP-HEMT電力増幅器)」の講演タイトルで、現地時間8月5日午前11時00分から発表されます。

講演セッション Th2B: Late-breaking News from Terahertz Frontier
講演時間 現地時間8月5日午前11時00分より視聴可能
講演タイトル 475-GHz 20-dB-Gain InP-HEMT Power Amplifier Using Neutralized Common-Source Architecture(中和回路を適用したソース接地増幅器を用いた475GHz 20dB利得 InP-HEMT電力増幅器)
会議Webサイト https://ims-ieee.org/当該ページを別ウィンドウで開きます
https://ims-ieee.org/technical-program/technical-sessions当該ページを別ウィンドウで開きます

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp

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