2020年11月12日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、ヒト・モノ・コトのセンシングデータを、リアルタイムに高精度空間情報に精緻に統合し、多様な産業基盤とのデータの融合や未来予測を可能にする「4Dデジタル基盤™」の研究・開発を推進しております(※1)。
今回、4Dデジタル基盤の全体像および構成する技術群を紹介するとともに、本基盤の2021年度からの機能の順次実用化にむけた各取り組みの進展について、紹介します。
なお、2020年11月17日~20日に開かれるNTT R&Dフォーラム2020 Connectにて、その全体像と技術開発の取り組み内容の一部を紹介します(別紙)
4Dデジタル基盤は、高精度で豊富な意味情報を持つ「高度地理空間情報データベース」上に、多様なセンシングデータを精緻・リアルタイムに統合・高速に分析処理を行い、様々な産業分野に提供することで、様々な社会課題の解決や新たな価値創造をめざしています。
4Dデジタル基盤は、NTTが持つ様々な技術群と、パートナーの皆様との連携により構成されており、以下にその全体の構成を説明します。(図1)
図1:4Dデジタル基盤の全体像
地理空間情報の基点となる「高精度3D空間情報(※2)」を整備し、そこに様々な意味情報を重ね合わせ、「高度地理空間情報データベース(※3)」を構築します。本データベースの効率的な構築・運用にむけては、「実空間構造化技術」「4D点群符号化技術」を含むMMS点群データ処理技術geoNebula™を活用することを想定しています。(2章)
高精度なセンシングデータのリアルタイム収集にむけ、5G等の高速/低遅延通信、都市部での測位・時刻同期精度を高めるスマート・サテライト・セレクション®、様々な測位要件に柔軟に対応可能とする「クラウドGNSS測位技術」を活用します。(3章) また将来は「光ファイバ環境モニタリング」技術の活用による環境情報の取得も検討しています。
「高速時空間データ管理技術」により、動的オブジェクトから大量に送信される時間・空間情報を保有するデータの高速検索と柔軟な分析を行います。(4章)
精緻・リアルタイムに統合されたセンシングデータに基づく最適化シミュレーション・行動変容により、様々な価値提供を行います。
空間データのデジタル化におけるMMS(Mobile Mapping System)取得の3D点群データの効果的・効率的な活用をめざしたMMS点群データ処理技術 geoNebula™を紹介します。
「高度地理空間情報データベース」の構築は、非常に広範囲かつ多様な物体を対象とした高精度な3D空間情報の整備が必要不可欠です。しかし、そのために高価なLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)と呼ばれるセンシング装置を載せた専用車両と、人手を使った地図生成プロセスが必要となり、膨大な費用と手間がかかるという問題がありました。
これまでNTTでは、LiDAR・高解像度カメラを搭載した車両で計測したデータから、電柱の傾斜やたわみ、またケーブルや支線を抽出する技術を開発し、架空構造物の点検に活用してきました(※4)。
現在、これを進化させ、効率的に高精度3D空間情報を構築する「実空間構造化技術」の研究開発を進めています。
技術概要・利用シーン
「実空間構造化技術」の研究開発の第一弾として、安価なLiDARを使って高精細かつ大規模な実空間DBを構築する「3Dデータ高解像度化技術」に取り組んでいます。
安価なLiDARはレーザー素子数が少ないため、計測結果は低解像となります。このため、3D点群情報も疎となり、対象物を認識しづらくなります。「3Dデータ高解像度化技術」では、疎な3D点群情報を、カメラから得られる高解像度な画像情報を手掛かりに高解像度化します。今回、基礎技術を確立し、画像情報と3D点群情報のクロスモーダル情報処理によって物体境界を導出し、これをまたがないように3D点群情報を平滑化することで、物体境界での不連続性を保ったまま高解像度化することを実現しました(図2)。本技術によって、安価なLiDARで10m離れた垂直な平面を計測した場合に得られる縦33cm,横3cm間隔の疎な3D点群情報を、縦1cm,横1cm間隔と、およそ100倍程度まで高解像度化することが可能となります。
この技術を活用することにより、高価な専用計測車でなく、安価なLidarを多様な車に搭載することで、高精度3D空間情報を低コストに作成することが可能になります。
図2:3Dデータ高解像度化技術
建物や道路の構造物には普段気づかない変化があります。建物にはある部分が変わることがあり、道路上では様々な物体が移動します。このような構造物の形とその変化を保存することで、過去に遡って再現したり、変化ある部分を検出したりすることが可能となります。
しかし、構造物の形状情報は情報量が膨大で、取扱い・保存にコストがかかる課題があります。都市空間を構成する膨大な点群情報を保存・配信するために、独自の形状表現に基づき効率的に点群を圧縮する技術の研究開発を推進しています。
技術概要・利用シーン
構造物の形状は場所ごとに異なる時刻に点群データで取得されます。4D点群符号化では、取得タイミングの異なる点群データ群を、統一的なブロックで表現し、圧縮符号化して保存します。そして最新の点群データを、全領域の点群データからの差分ブロックで表現します。このような基本となるブロックと差分ブロックで、時間と空間からなる4D(4次元)の構造物の形状情報を表現し圧縮符号化します。
時刻の異なる点群を差分ブロックで表現するため、過去から現在までの構造物の形状情報を、データ量を少なく圧縮符号化することができます。従来は保存コストが大きいために廃棄していたデータを廃棄せずに利用することを可能とします。また差分ブロックを生成する仕組みを応用することで、過去に保存した形状情報を全て復元することなく、現在との差分情報を、高速に検出することが可能となります。これにより保存する過去のデータの利用価値を向上します。
本技術により、都市空間のデジタルツインの基礎となる点群データの保管・流通が容易となり、点群データの多用途活用が可能となります。
図3:4D点群符号化
センシングデータの位置情報を取得する上で、GNSSによる測位精度が課題になります。特に受信地点の周辺に構造物が存在する「アーバンキャニオン」と呼ばれる受信環境では見通し状態で受信可能な衛星数が減少し、衛星信号が構造物で反射・回折するマルチパス信号の受信により測位精度が大きく劣化することが知られています。4Dデジタル基盤のアプリケーションには測位精度や測位頻度に様々な要件がありますが、こうした多様な要件を満たす位置情報を利用可能なシステムを柔軟に構築することが求められます。
技術概要・利用シーン
NTTでは測位演算処理をGNSSレシーバ内部で行うのではなくクラウド上に設置したサーバで行うクラウドGNSS測位アーキテクチャの技術を確立しました。(図4)
クラウドGNSS測位ではレシーバが観測データを送信し、クラウド上の測位エンジンにおいてリアルタイムに測位演算を行います。また、NTTが開発した衛星選択アルゴリズム「スマート・サテライト・セレクション®」の適用により、良好ではない受信環境においても適切な衛星信号を選択することで測位精度を向上します。
今回、ライトハウステクノロジー・アンド・コンサルティング株式会社とのコラボレーションによりクラウドGNSS測位の検証環境を構築、フィールドでの実証実験に成功し、今後パートナー様にもご利用いただけるようになりました。クラウドGNSS測位対応レシーバの導入により受信地点と測位結果を利用するロケーションを分離することができ、位置情報を利用したシステムの柔軟な設計が可能になりました。
本技術により、安価なGNSS測位機器であっても、都市部を含めたエリアにおける測位精度を向上することが可能となります。
図4:クラウドGNSS測位環境構築
また、古野電気株式会社とのコラボレーションにより開発した、「スマート・サテライト・セレクション®」を実装したGNSSレシーバモジュールを組み込んだポータブル周波数・時刻基準信号発生器の紹介もコラボレーションパネルとして展示いたします。
カーナビゲーションの進化や大気汚染や渋滞対策にむけた交通分析の高度化には、現実に走行する大量の車両の位置を、リアルタイムに正確に把握し、高速に分析を行う必要があります。
しかし従来のGNSS技術では求められる測位精度を満たすことが困難で、また、従来のデータ処理技術ではリアルタイムに大量の位置情報の蓄積・分析が困難という問題がありました。
このような課題に対して、GNSS測位誤差を改善する「クラウドGNSS測位技術」と、大量の動的オブジェクトが一斉送信する情報を蓄積し高速に検索・分析をする「高速時空間データ管理技術 Axispot®」を組み合わせることで、大量の車両の正確な位置情報を収集し、リアルタイムに高速に検索し分析を行う技術を確立しました。
技術概要・利用シーン
「クラウドGNSS測位技術」と「高速時空間データ管理技術 Axispot®」技術による車両位置のリアルタイム集計技術により、全国を走行する大量の自動車の位置情報を把握し、走行車線まで判定できる高精度で把握し分析できるようになります(図5)。走行車線単位での混雑状況分析に基づいて空いている車線に誘導する高度なカーナビゲーションの実現や、動的課金やレーン課金を含むロードプライシングによる交通流のコントロールに応用することができます。
図5:高精度な車両位置のリアルタイム収集技術
今後、4Dデジタル基盤に係る技術開発の進展とあわせ、その活用にむけ、NTTアーバンソリューションズ社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 中川 裕)との『街づくりDTC』※5によるデータ駆動・連鎖型Smart Cityの取り組みや、NTTデータ社(本社:東京都江東区、代表取締役社長 本間 洋)との、交通環境情報に係るデータ連携など、様々な領域で検討を進めております。
※1(報道発表) 多様なセンシングデータをリアルタイムに統合し、様々な未来予測を可能とする「4Dデジタル基盤™」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/03/26/200326c.html
※2「高精度3D空間情報」は、エヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社が、通信ケーブル等の地下インフラを統合管理するスマートインフラプラットフォームの位置基点として、高解像度航空写真やMMSにより、道路境界、マンホール、地上地下出入口を、地図情報レベル500(水平位置精度の標準偏差25cm以内)の3D空間データとして整備中。2020年11月までに東京23区を整備し、順次エリア展開。
※3「高度地理空間情報データベース」は、NTTと株式会社ゼンリン(本社:福岡県北九州市、代表取締役社長:髙山 善司)が2020年3月に発表した資本業務提携の取り組みとして、NTTグループの高精度測位技術、高精度地図整備・インフラ維持管理のノウハウと、ゼンリンの多様な収集情報を含む地図制作ノウハウを活用して共同で整備。
(報道発表) 日本電信電話株式会社と株式会社ゼンリンの資本業務提携による協業の推進について
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/03/26/200326b.html
※4(技術ジャーナル) アクセス系における新たな運用を目指した研究開発
https://www.ntt.co.jp/journal/1902/JN20190238_h.html
※5街で提供されるサービス単位で環境・モノ・人をとらえたDT(Digital Twin:デジタルツイン)と、それらを分野横断で連鎖させる機能であるDTC(Digital Twin Computing:デジタルツインコンピューティング)を実現することで、街全体で最適化される新たな価値提供をめざし、実際の都市開発の中で実現を推進中。
2020年11月17日(火)~20日(金)の4日間、「Into the IOWN ―Change the Future 」をコンセプトに、「NTT R&Dフォーラム 2020 Connect 」を開催します。なお、今年のフォーラムは、新型コロナウイルス感染症に関する昨今の状況を鑑み、オンライン開催とさせていただきます。
本フォーラムでは、昨年5月に提唱した「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network) 」構想を実現するための主要技術や、ポストコロナ時代の「リモートワールド」をはじめとするユースケース、さらに環境負荷ゼロの実現に向けて設立した「宇宙環境エネルギー研究所」のビジョンなど、最新の研究成果や取り組みについて分かりやすくご紹介してまいります。
全体像の説明:展示番号D06 「4Dデジタル基盤の全体像」
4Dデジタル基盤の全体像・技術紹介と、クラウドGNSS測位検証環境デモ映像や高度地理空間情報データベース構築の詳細について展示します。
高度地理空間情報データベースの構築(高精度3D骨格空間情報のイメージ)
関連展示:4Dデジタル基盤を構成する技術の関連展示は以下に示す通りとなります。
本件に関する報道機関からのお問い合わせ先
■日本電信電話株式会社
広報室
ntt-cnr-ml@hco.ntt.co.jp
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