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2020年11月17日

日本電信電話株式会社

生体音を遠隔に伝送できる装着型音響センサアレイシステムを開発
~「テレ聴診」や生体音に基づく体の状態の可視化の可能性~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、多数の音響センサにより生体の各部分から生じる音響信号(生体音)を収集し、ネットワークを通じて遠隔伝送する機能を備えた装着型(ウェアラブル)の音響センサアレイシステムを開発しました。
 開発したシステムは、多チャンネルの音響センサを備えた検査着、送信端末、及び受信端末から構成されます。対象者が検査着を着用すると、音響センサが各部分の生体音をとらえ、送信端末を通じて遠隔にある受信端末に送信します。受信端末を操作することで、対象者の身体各箇所の生体音を聴取したり記録したりすることができます。
 本システムが医療用として実用化されれば、医療者が患者と直接接触することなく様々な場所の生体音を聴取することが可能となり、オンライン診療などに有用であると期待されます。また本システムは、様々な場所の生体音を同時にかつ高音質で収集する機能をもつため、生体音に基づく体の状態の可視化など、新しい技術の研究開発に役立つと考えられます。
 なお、2020年11月17日~20日に開催致しますNTT R&Dフォーラム2020 Connect(https://www.rd.ntt/forum/当該ページを別ウィンドウで開きます)にて、本研究をご紹介します。

1.背景

生体からは、心音や呼吸音をはじめとして様々な音(生体音)が発生しています。これらを聞き取ることで体の状態を把握することは聴診と呼ばれ、健診や医療の現場で長年にわたり活用されています。聴診は、体への侵襲が無く繰り返し実施できる、その場ですぐに結果が得られる、大規模な設備が不要であり在宅や介護などの居住系施設などでも実施できる、といった長所があります。その一方で、聴診は患者と医療者とが1対1の接近した状況で行われますので、新型コロナウィルス感染症のような感染性疾患の場合には実施に困難を伴います。オンライン診療で電子聴診器を用いる場合でも操作者との近接は避けられません。患者自身が聴診器を当てることはできますが、非医療者が行う場合には位置の設定などに不便さや困難さを伴いました。さらに、高齢者人口の増大等により患者数が増加した場合に、聴診を実施する専門医の負担増にどのように対応するかも懸念事項です。

2.システムの概要

本システムは、検査着、送信端末、及び受信端末から構成されます。検査着には内側に多数の音響センサが設置されています。聴取の対象者がこの検査着を着用すると、それぞれの音響センサが体の各部分における音をとらえます(図1)。これらの音は送信端末から、ネットワークを介して遠隔にある受信端末へと伝送されます。
 受信端末では、画面上に人体の形が表示されており、音を聴きたい箇所を指やマウスなどで指定することで、その箇所における音(複数のセンサの信号から合成された推定音)を聴くことができます(図2)。また、各センサがとらえた音響信号波形が表示されており、波形を指定することで、その音を直接聴くこともできます(図3)。受信した全ての音響信号の記録や再生も可能です。
 本システムでは、生体から生じる音響信号を網羅的に取得できるよう多数のセンサを使用します。現在の試作機では、18チャンネルの音響信号と1チャンネルの心電波形を同時に収集します。従来の聴診で主に用いられている周波数帯域だけではなく、それ以外の帯域も含め、より多くの情報を多次元的に得られるように設計されています。
 本システムは、NTTの医療健康ビジョン()のもとに研究開発されました。

3.テレ聴診への活用

本システムが医療用として実用化されれば、遠隔での聴診(テレ聴診)が可能になると考えられます。本システムでは、患者が各自の体型に合った検査着を自ら着用することで、音響センサが体に装着されます。したがって、スマートフォンを用いた画像通信などによって患者と医療者とがコミュニケーションをとりながら、患者と医療者とが直接接触することなく、検査着が覆う領域(例えば胸部)の聴診を行うことができると期待されます。

4.AI聴診(音に基づく体内状況の分析)への活用

本システムは、様々な場所の生体音を同時にかつ高音質で収集する機能をもつため、日常生活における健康のセルフケアに向けた新しい技術の開発にも役立つと考えられます。
 その例として、NTTでは、生体音に基づいて体内の状況を分析する「AI聴診」の研究を進めています。例えば、とらえた生体音を基にどのような体の状態であるかを文章で説明する技術もその一つです。この技術は、音の信号の時系列を、単語の系列に変換する系列変換モデルと呼ばれる手法に基づいています。これにより、異常の有無や病名といった分類の情報だけではなく、例えば病状や異常が疑われる箇所の推移、疑われる異常の程度の情報などを含めて、指定した詳しさの文章を生成することができると期待されます(図4)。
 また、AI聴診の別の例として、生体音に基づく体の状態の可視化の研究にも取り組んでいます。熟練した専門医は、聴診をしながら、体の状態を頭の中に詳細にイメージできると言います。本研究ではその技能に着目し、体の各部分でとらえた音を入力として、体の状態を把握して動画で表現することをめざしています。今回、心音を入力として心臓の状態を推定し、その推定された状態に基づき、別途蓄えていたMRI画像からの心臓3次元形状推定結果を対応させて動画を生成することに成功しました(図5)。
 以上のように、本システムでとらえた多チャンネルの音の情報は、計算機により他の情報とも組み合わせて分析し、文章や画像といった分かりやすい表現に変換することなどに活用できます。また、本システムを用いて多くのデータを収集することができれば、ビッグデータとしての活用も可能と考えられます。

5.将来の展望

本システムは、今後、使いやすさや聴きやすさの更なる向上を図り、テレヘルス時代の診療支援の一環として、病気の予防や早期発見に資する「テレ聴診器」として早期の実用化をめざします。また、日常生活の中でとらえた生体音やその変化から、異常が疑われる箇所を図示したり、その音の意味するところを文章にしたりする技術の研究を更に進めるとともに、生体モデルやビッグデータに基づく予知・予防指標の定量評価による健康マネジメント支援など、Well-Being 向上への活用をめざします。

用語解説

医療健康ビジョン
NTTは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の構成要素の一つであるデジタルツインコンピューティングによって人それぞれの身体および心理の精緻な写像(バイオデジタルツイン:Bio Digital Twin以下、BDT)を実現し、これを通じて心身の状態の未来を予測し、人間が健康で将来に希望を持ち続けられる医療の未来への貢献を医療健康ビジョンとして定めることと致しました。

図1 検査着の例 図1 検査着の例

図2 受信端末の操作の様子 図2 受信端末の操作の様子

図3 受信端末画面の表示例 図3 受信端末画面の表示例

図4 患者シミュレータで発生した僧帽弁閉鎖不全の心音に対する説明文の生成例 図4 患者シミュレータで発生した僧帽弁閉鎖不全の心音に対する説明文の生成例

図5 MRI画像からの右心室・左心室の3次元形状の推定例 図5 MRI画像からの右心室・左心室の3次元形状の推定例

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

先端技術総合研究所 広報担当

E-mail: science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel: 046-240-5157

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