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2021年2月 3日

日本電信電話株式会社

世界で初めて、通信電波を用いた測位情報に基づく基地局切り替え制御技術を実証~60GHz帯、時速300kmのフォーミュラカーで大容量無線伝送を実現~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、世界で初めて※1、通信電波による端末測位情報を活用した基地局切り替え制御技術を考案し、60GHz帯無線LAN(WiGig※2)、最高時速300kmのフォーミュラカーを用いて実証しました。

実証実験は、2020年12月22日(火)~23日(水)に富士スピードウェイで開催されました「全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト・ルーキーテスト」で、レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」、株式会社NTTドコモ(以下「ドコモ」)およびドコモ・テクノロジ株式会社(以下「ドコモ・テクノロジ」)の協力の下、実施しました。考案した制御技術はWiGigが通信電波から端末方向・距離の測位情報を取得できることを活用しています。この測位情報を基に、端末へ接続先の基地局の切り替えと切り替えタイミングを指示する基地局切り替え制御技術の実証実験を行いました(図1)。

実験の結果、時速300km(計測ポイント※3)の走行中で、上りスループット1[Gbit/s]以上のまま、500[msec]以内に接続基地局を切り替えることを成功しました。実際の高速移動環境の大容量無線伝送において、通信電波を用いた測位による基地局切り替え制御技術を実証したことは世界初です※1

今回の実験は、WiGigなどソフトハンドオーバ機能※4を持たない無線伝送システムでも、車・ドローンなど高速移動体に対して高精細映像データなどの大容量無線伝送を適用できる可能性を示したものです。また、今回検証した技術は、将来的には、Beyond 5Gに向けたミリ波・テラヘルツ波帯におけるセンシングと制御の融合にも水平展開できる可能性のある技術です。


なお、今回の成果は、2月4日から7日に、ドコモが開催する「docomo Open House 2021」に出展予定です。

図1 実証実験で用いたフォーミュラカー 図1 実証実験で用いたフォーミュラカー


※12021年2月2日現在、NTT調べ

※2Wireless Gigabitの略。IEEE 802.11ad規格をベースとした60GHz帯を用いる無線LAN規格

※3メインストリート中の第1コーナ手前の計測ポイント。実験場所のWiGig基地局から200m先。

※4端末局が同時に複数の基地局と接続し、無瞬断で基地局を切り替えることができる技術


1.研究の背景

Beyond 5Gに向けた、更なる無線通信の高速大容量化の実現に対して、ミリ波・サブテラヘルツ波の活用が期待されています。低い周波数に比べて物陰に回り込みにくいという性質を持つ高周波数帯でも安定した高速無線伝送を実現するために、従来の5Gのような集中制御型の移動体通信に加えて、無線LANのような自律分散型の非移動体無線通信の活用も期待されます。

現在、無線LANに代表される非移動体無線通信システムは、家庭内、オフィス内などの静止環境、駅構内や展示会場などの歩行環境などで主に利用されています。

WiGigは無線LANの60GHz帯版であり、1周波数チャネルで最大4.62[Gbit/s]※5のギガビット無線伝送が可能です。高精細映像伝送や無線中継などのユースケースにおいて、更なる大容量無線伝送への活用が期待されています。ただし、ソフトハンドオーバ機能を持たないため、端末が移動すると、接続先の基地局を適切に切り替えることができません。そのため、無線伝送速度を高速状態に保ったまま、異なる基地局がつくる無線ゾーン間を移動することが困難になります。

具体的には、(i)1つの基地局と接続すると切断するまで他の基地局を検索できないため、一旦接続すると、近くに高速伝送可能な基地局が存在しても、接続中の基地局から遠く離れて接続が切断されるまで基地局を切り替えることが出来ず、無線伝送速度の低い接続状態を維持してしまう、(ii)切断後の基地局検索時に、周辺の基地局状況が分からないため、全ての周波数チャネルを検索し、基地局の切り替え時間に3~4[s]程度かかってしまう、という問題がありました(図2)。従って、車、ドローンなどの高速移動体へ大容量無線伝送を提供することが困難でした。

図2 従来の基地局切り替え制御技術 図2 従来の基地局切り替え制御技術


2.技術の概要

上記(i)(ii)の問題解決策として、受信レベルに応じて、適切な基地局に切り替える手法が考えられます。ただし、受信レベルは、見通し環境では距離が2倍になっても6dBしか変わらない反面、大地反射など反射波の影響により5~10dB程度変動することとから、受信レベルを基に基地局間のゾーン境目を識別することは難しく、適切な基地局の切り替えを行うことは困難です※6。また、GPS(Global Positioning System)など外部測位システムにより取得した端末位置を基に適切な基地局に切り替える手法も考えられます。ただし、適用先が外部測位システムに対応した無線端末・エリアに限定されることや、外部測位システムから位置情報を常時取得する仕組みが必要となるなど、適用条件が外部測位システムに依存します。

NTTは、WiGigのアナログビームフォーミングと信号帯域幅1.76GHzという広帯域性に着目し、外部測位システムを使用することなくWiGig通信電波自体で端末測位を行い、この測位情報に基づいて適切な基地局を切り替える制御手法を考案しました。具体的には、WiGigが、60GHz帯の大きな電波伝搬損失を補うため、高利得な狭アンテナビームを用いた、定期的なビームサーチにより端末移動を追従することを活用して、接続端末の方向を推定します。更に、基地局のアンテナビーム方向とビームサーチ中の端末間との制御信号の往復転送時間の情報を取得することにより、接続端末の距離を推定します。このように方向と距離から端末位置を推定します(図3)。

そして、この位置情報を基に、適切な接続切り替え先となる基地局を判定し、端末へ切断命令と新規接続先の基地局を指示します。これにより、端末は、無線伝送速度を高速状態のままで基地局へ切り替えることができます。また、切断後の基地局検索時に、指示された基地局の1周波数チャネルのみを検索するため、基地局切り替え時間を500[msec]以内に抑えることも可能となります(図4)。

本技術は、このように端末測位もWiGigの制御信号を用いて行うため、外部測位システムや特別な通信プロトコルが不要です。すなわち、WiGigシステムだけで、端末測位に基づく適切な基地局切り替え機能を実現しています。

図3 WiGig通信電波による接続端末の距離・方向(測位)の推定 図3 WiGig通信電波による接続端末の距離・方向(測位)の推定


図4 通信電波による端末測位情報を活用した基地局切り替え制御技術 図4 通信電波による端末測位情報を活用した基地局切り替え制御技術


3.実験の概要

本実験では、「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」による超高速移動環境を再現するフォーミュラカーの提供とオペレーション、ドコモおよびドコモ・テクノロジによる超高速移動実験向けエリア構築および移動端末車両搭載に関する技術協力の下、スーパーフォーミュラの富士スピードウェイでの合同テスト・ルーキーテストで行いました。WiGig無線端末はフォーミュラカーの両サイドポッドに搭載し、WiGig基地局は、コース上で最高速度が出るメインストレートのコース両サイドに各々2台設置しました(図5)。基地局切り替えを指示する制御サーバはスタンド上に設置しました。WiGig無線端末からデータを転送し、各WiGig基地局が受信するレイヤ2でのスループットを測定することによる、本基地局切り替え制御技術の実証実験を行いました。両サイドポッドに搭載したWiGig無線端末は、各々コース右側、左側に接続するようにし、各々独立に本実験を行いました。通信電波を用いた端末測位は、上空電波を用いるGPSと異なり、基地局との地上電波を用いるため、見通し環境でも大地反射やコースサイドの壁反射、さらには近接に走行する他フォーミュラカーからの横反射や遮蔽の影響により、測位誤差を生じる可能性があります。また、端末の移動速度が速いほど、この反射角や遮蔽の変動が大きくなり、端末測位誤差の揺らぎがより大きくなる可能性があります。本実験は、このような実伝搬環境において、本基地局切り替え制御の有効性を実証しました。

本切り替え制御技術を適用しない場合のスループット計測結果を図6(a)に示します。基地局2台のゾーン間を移動しても接続先の基地局が切り替わらず、基地局1台分のゾーン内でしか伝送できてないことが分かります。一方、本切り替え制御技術を適用した場合のスループット計測結果を図6(b)に示します。スループット1[Gbit/s]以上のまま、500[msec]以内に接続先の基地局を切り替えることに成功しており、基地局2台のゾーンに渡り無線伝送できていることが分かります。すなわち、本切り替え制御技術により、実伝搬環境、超高速移動環境でも、適切に基地局を切り替えることが可能となり、高速伝送継続時間を基地局数分だけ拡大できることが確認しました。

また、時速300km(計測ポイント※3)の走行中でも、スループット1[Gbit/s]以上のまま、500[msec]以内に接続先の基地局を切り替わることも確認しました。

図5 実証実験の実験系 図5 実証実験の実験系


図6 実験結果(レイヤ2での上りスループット) 図6 実験結果(レイヤ2での上りスループット)


4.今後の展開

本実験では、本切り替え技術により、WiGigを用いて、時速300kmでも複数基地局がつくる無線ゾーン間を移動しながら1[Gbit/s]以上の無線伝送が可能であることを確認しました。

これにより、WiGigなどソフトハンドオーバ機能を備えない無線伝送システムでも、下記ユースケースへの活用が期待できます。

  • 車のドライブレコーダやエンジンデータなど移動体センタデータを、ゲート、交差点など通過時に地上側へ一括転送
  • イベント時や工事現場など、ドローンやロボット、移動中継カメラなどのローカルエリアでの移動体映像データを地上ネットワークへ転送

今後は、今回の実証実験結果を活用し、様々な利用環境で安定した無線伝送を実現するための技術検討を進めます。

また、本技術は、通信電波だけで端末測位を行う特長を活用しており、WiGigのみならず幅広い適用先が期待できる技術です。今後のBeyond 5G時代に活用が期待されるミリ波・テラヘルツ波帯無線伝送システムへの適用検討も進めてまいります。


※5:Single Carrier Basic Modeの最大伝送速度 IEEE Std-802.11TM-2016 (Revision of IEEE Std 802.11-2012)

※6:岩國他, "高周波数帯無線通信システムにおける測距機能を用いたハンドオーバ制御のための実験評価", B-5-56, 2020年電子情報通信学会ソサイエティ大会

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
TEL:0422-59-3663

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