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2021年5月31日

日本電信電話株式会社

人が触れた場所を可視化する機能を実環境で簡単に実現
~コロナ禍で知りたい:みんなが触ったのはどこ?~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて人が触れた場所を可視化するシステムを実現しました。
 本技術では、人の手が環境表面(公共の空間の壁、扉、机などの表面)に触れた後に残る熱痕跡をサーマルカメラ(※1)で撮影することで人が触れた場所を検出します。撮影可能な波長の異なる2種類のカメラを組み合わせて使用することでアルゴリズムの軽量化に成功しました。これにより、触れた場所の検出を高速かつ高い確度で実現し、さらに検出結果を実際の環境表面の上に投影することで、そこを訪れた人に他の人が触れた場所を知らせます。
 本技術により、人が触れた場所を直感的に理解できるようになり、人が触れた場所を避けたり、他の人が触れた場所を確実に消毒したり、といったことが可能になります。
 今後、環境表面の素材の差への対応、実際の環境での実証などを行い、実応用に向けて検討を進めます。

1.研究の背景

新型コロナウイルス感染防止には様々な対策がとられており、私たちが日常的に触れる棚や扉、机といったさまざまなものの表面(環境表面)に付着したウイルスを介して感染が広まる可能性があるという問題に対しては、定期的な消毒を行って、表面に付着した恐れのあるウイルスを除去することが有効とされています。しかし、定期的に消毒を行うのみでは、消毒された後に誰かが触っていないか、正しく他の人が触れた場所が消毒されているのか、といった不安を感じる人も多いのではないかと考えられます。また従来からある、薬品とブラックライトを使って痕跡を可視化する手法では、薬品を使うため利用できる状況に限りがあり、他にも一般的なカメラを用いて触った場所の推定を行う手法(バーチャルキーボードなどで利用されている)や、深度センサを用いた手法も考えられますが、確実に人が触れた場所を判定することは困難です。そこで、熱痕跡を検出することで、人が触れた場所を可視化する方法を開発しました(図1)。この技術により、このような不安の解消や、効果的な消毒の実現をめざします。

図1:人が触れた場所の可視化 図1:人が触れた場所の可視化

2.技術のポイント

人の手が環境表面に触れると、一般的に人の手は周囲より温度が高いため、触れた熱が表面に残ります。このように環境表面に残った熱を熱痕跡と呼びます。サーマルカメラ(遠赤外線を利用)で撮影すると、この熱痕跡をとらえることができます(図2)。本技術はこの原理を用い、熱痕跡を検出することで、実際に人が触れた場所を検出します。

図2:熱痕跡 図2:熱痕跡

一方で、この熱痕跡は、可視光や近赤外といった他の波長には影響を及ぼさず、通常のカメラなどには映りません。本技術では、サーマルカメラと可視光あるいは近赤外のカメラを併用し、背景差分アルゴリズム(※2)で、サーモグラフィ画像のみに変化が残り、他のカメラでは変化のない熱痕跡の部分を人が触れた場所として検出する手法を実現しました。
 さらに本技術では、プロジェクタを用いた投影表示により、上記の手法で検出した、人が触れた場所を、実際の物体の表面に重ね合わせて提示します。プロジェクションは可視光の領域で行われるため、図3のように近赤外線領域で人の動きを撮影し、光の波長を切り分けることで、軽量なアルゴリズムでも識別が可能となります。
 このアルゴリズムは小型のセンサノード(※3)に実装することができ、さまざまな場所に設置可能です。サーマルカメラなどを備えたこのようなセンサノードを多数設置することにより、人が触れた場所を広く記録したり、発熱者が触れた場所を追跡したり、といった応用も考えられます。

図3:システム構成 図3:システム構成

本技術では、コロナウイルス自体を可視化することはできませんが、今まで行われてこなかった「人が触れた場所の可視化」の実現により、それを見ることで他の人が触れた場所を避けて安心感を得たり、消毒のモチベーションが上がったりすることで、ウイルスの拡散防止につながる可能性があります。さらに、統計的に人が触れる場所を集計し、公共空間における設計や消毒のマニュアルに活かして効率化を図るといったことも可能になります。

3.今後の展開

今回実現した技術について、環境表面の素材の差への対応、実際の環境での実証などを行い、実応用に向けて検討を進めます。

用語解説

(※1)サーマルカメラ
温度を持つ物体が発している赤外線を撮影するカメラ。物体は温度が高いほど強い赤外線を発しているため、これを撮影することで温度の高低を計測できる。8㎛~14㎛の波長の赤外線を利用する。

(※2)背景差分アルゴリズム
あらかじめ用意した背景以外に何も写っていない背景画像と、入力画像の各画素を比較することで、変化のあった差分を抽出する画像処理アルゴリズム。前景として映り込んだ物体を検出するためによく使われる。

(※3)センサノード
ネットワークに接続された、簡単なデータ処理機能を持つセンサ。たくさんの場所に配置し実世界データを収集・処理することで、スマートシティなどの展開に活用される。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
℡ 046-240-5157

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