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2021年5月31日

日本電信電話株式会社

触覚の錯覚現象を応用した触り心地提示の新原理を発見
~様々な触り心地を体験できる、触覚のバーチャルリアリティ技術の創出に期待~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、手で直接触れた物体表面の触り心地を錯覚的に変調するための新原理を発見しました。
 本原理は、ワイヤを両手に挟んで動かすと、本来そこにはないベルベット生地のような触り心地を両手に感じる錯覚現象を、様々な物体の触り心地を変化させる手法に応用したもので、ワイヤの代わりに、手のひらサイズの穴が開いた薄いシートを手と任意の物体の間に挟み、回転させることで、穴越しに触れている物体表面の触り心地を実際より柔らかく滑らかに感じさせることが可能になります。
 今後、この方法を発展させ、より多様な触り心地変調が実現できれば、同じ素材に触れていても様々な触り心地を感じることができる触覚のバーチャルリアリティ技術を創出できることが期待されます。

1.研究の背景

近年、振動提示技術の発達に伴い、ゲームコントローラなどを通じて様々な物体に触れているかのような体験を演出することが可能になってきました。一方で、コントローラ越しではなく、手などの皮膚の上で、直接様々な物体に触れているかのような体験を実現するためには、触れている物体の振動に加えて形状や物性、状態なども次々に変化させねばならないという問題があります。
 本研究では、実際の形状や物性、状態などを変化させることなく、その物体の触り心地を変化させるために、ベルベットハンド錯覚と呼ばれる触り心地の錯覚現象に着目しました。この現象では、両手の間にラケットのガットなどの平行なワイヤを挟んで、ワイヤを前後にこするように動かすと、両手の間に明らかにワイヤとは異なる奇妙な触り心地が生じます(図1)。この錯覚現象において、ワイヤという同じ素材に対して、異なる触り心地が生じていることから、ベルベットハンド錯覚を深く理解し、応用することで、異なる触り心地を作り出すための新原理を発見できることが期待されていました。しかし、実際にはその触り心地がどのような感覚なのかは言語化が難しく、人によって表現がまちまちなため、ベルベットハンド錯覚が何をどのように錯覚する現象なのかというそもそもの問題が整理されていませんでした。このことが原因で、この錯覚を、異なる触り心地を生み出す手法に応用可能か追求することには限界がありました。

図1. 両手の間に平行なワイヤを挟んで前後にこするとベルベットハンド錯覚が生じる 図1. 両手の間に平行なワイヤを挟んで前後にこするとベルベットハンド錯覚が生じる

2.研究の成果

(1)ベルベットハンド錯覚における触り心地を定量的・定性的に評価

NTTコミュニケーション科学基礎研究所においてこれまで蓄積されてきた人間科学研究の知見やノウハウを活かして、人間を対象とした実験を通してベルベットハンド錯覚における触り心地をデータ化しました。このデータに基づいて、ベルベットハンド錯覚とは触れているワイヤの触り心地がまるで布のように柔らかく温かく変調される現象であるといえることを発見しました。
 本研究では、日常生活で触れる様々な素材の触り心地と比較することで、錯覚における触り心地がどのようなものかを評価しました(図2)。その実験結果から、ワイヤに触れていても錯覚がほとんど起こらない条件では、その触り心地が金網の触り心地に似ていた一方で、錯覚が強くなる条件ほど徐々に布のようなより柔らかく温かな触り心地に変化していくことがわかりました。このように、ベルベットハンド錯覚は実際に触れているワイヤの触り心地を徐々に変化させていくことで生じる錯覚現象であるといえます。

図2. ベルベットハンド錯覚における触り心地と、日常生活で触れる様々な物体の触り心地の間の類似度を可視化した結果。実験では、ワイヤの動かし方や間隔を様々に変えることで生じるベルベットハンド錯覚の強さをコントロールしている(図中の青い点)。 図2. ベルベットハンド錯覚における触り心地と、日常生活で触れる様々な物体の触り心地の間の類似度を可視化した結果。実験では、ワイヤの動かし方や間隔を様々に変えることで生じるベルベットハンド錯覚の強さをコントロールしている(図中の青い点)。

(2)ベルベットハンド錯覚を様々な物体の触感変調へ応用

本研究では、上で述べたようなベルベットハンド錯覚の理解の上に立ち、この錯覚を応用することで、ワイヤではなく、様々な物体の触り心地の変調を試みました。ベルベットハンド錯覚のように、手と任意の物体の間にワイヤを挟んで動かすと、肝心の物体よりもワイヤの触り心地が強く目立ってしまうこと、粗い物体表面の上ではそもそもワイヤを安定的に動かせないといった問題が生じるため、ワイヤ以外の物体の触り心地の変調にはこれまでとは異なる方法が必要です。これまでに、ワイヤを前後に動かす方法以外では、穴の開いた薄いシートを両手に挟んで前後に動かすことでも起こることが知られていましたが、この方法を手と物体の間に適用するとワイヤと同様に、穴のエッジによる刺激が強くなってしまい、また、安定的に動かしづらくなるという問題がありました。
 今回新たに、手のひらサイズの穴が開いた薄いシートを両手に挟んで、穴を中心に回転させることでも錯覚を起こせることを発見し、手と物体の間に穴の開いた薄いシートを挟んで回転させる手法「フレーム回転法」を考案しました(図3)。この手法では、手のひら部分にワイヤや穴のエッジを横断させる必要がないので、穴越しに触れた物体の触り心地の知覚を阻害しません。この手法によって色々な物体の触り心地が実際より柔らかく、滑らかに変調できることがわかりました(図4)。

図3. 手のひらと物体の間に穴の開いた薄いシートを挟んで回転させることで、その物体の触り心地の変調を実現 図3. 手のひらと物体の間に穴の開いた薄いシートを挟んで回転させることで、その物体の触り心地の変調を実現

図4. 穴の開いた薄いシートを回転させることによる物体の触り心地の変化を可視化した結果 図4. 穴の開いた薄いシートを回転させることによる物体の触り心地の変化を可視化した結果

3.フレーム回転法の詳細

フレーム回転法のポイントは、(1)シートに開ける穴のサイズと(2)シートの厚みの二点が適切であることです。

(1) シートに開ける穴のサイズ

シートにあける穴のサイズの大きさを様々に変えながら、手のひらで感じられる触り心地変調の大きさを調べる実験を行い、穴の直径が80mmのときに最も強く錯覚が生じることを確かめています。また、指腹で同様の触り心地変調を起こすためには、直径12-14mmの大きさの穴が最適であることも確かめています。

(2) シートの厚み

今回の実験では、フレーム回転法の再現や追試が容易になるように、シートの素材として誰でも簡単に入手できるフラットファイルの厚紙を利用しました。フラットファイルの厚紙は0.5mm程度の厚みを持っています。これよりも薄すぎると回転させたときにシートが変形してしまい、また厚すぎると物体と手の間が十分に接触できなくなるという問題があることがわかりました。また、指腹で同様の触り心地変調を起こすためには、名刺のような0.2mm程度の厚みで生じやすいこともわかりました。

4.今後の展開

ベルベットハンド錯覚や、今回実現したフレーム回転法によって生じる物体の触り心地変調錯覚が、どのようにして起こるのかという手や脳のメカニズムは未だに明らかになっていません。今後はこのメカニズムの解明を進めていくことで、触り心地をより柔軟に変調させる技術の創出をめざします。

【論文掲載情報】

Yokosaka, T., Kuroki, S., & Nishida, S., "Describing the sensation of the 'velvet hand illusion' in terms of common materials," IEEE Transactions on Haptics (2020). doi: 10.1109/TOH.2020.3046376.

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
℡ 046-240-5157

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