2021年6月18日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を支える光アクセス網構成法として、多段ループ型光アクセス網構成法を確立しました。この光アクセス網構成法はアクセス系通信網における光ファイバケーブル敷設ルートの設計法であり、従来の光アクセス網を超える高い信頼性、不確実な発生需要に応える需要変動耐力※1、自由度の高い光経路選択性を実現するものです。これによって、さまざまなサービス事業者の多様なニーズに応える光ファイバ回線を提供することができます。
今回確立した多段ループ型光アクセス網構成法では、複数のループ配線※2を多段型に組み合わせる構成とすることで、高い信頼性と需要変動耐力、光経路選択性を同時に達成しました。さらに、ループ配線の大きさや複数のループ配線で共用する光ファイバ心線数といった、設計に必要となる指標の適正値を明確化することで、最適な多段ループ型光アクセス網構成を導出しました。本網構成法は、IOWN構想におけるオールフォトニクス・ネットワークを支え、多様なサービスを包摂する汎用的光ファイバ網を提供するものです。
光アクセス網は、光ファイバ通信網において最もお客さまに近い部分の通信網です。NTTでは、2001年のBフレッツ提供開始以来、FTTH(Fiber-to-the-Home)サービスの早期提供を目的に、FTTH向け光配線の経済性を最優先に設計されたスター配線※3に基づく光アクセス網を多くのエリアで構築してきました。一方、近年では第5世代移動通信システム(以下、5G)の商用サービスが開始され、既に5Gの次の世代となるBeyond 5Gについても研究開発が活発化しており、今後ますますネットワークサービスの多様化が想定されます。今後の光ファイバ回線需要は、5G/Beyond 5G基地局等を中心に、高度な信頼性要求や発生需要の不確実性等の点でFTTHとは性質が異なるため、従来のスター配線では対応が困難になる場合が想定されます。NTTとして、B2B2Xモデルを推進し、多様なネットワークサービス事業者のニーズに柔軟に応える安心・安全な通信設備を提供していくためには、今後の需要の性質に適した新たな光アクセス網構成法が必要になります。そこでNTTアクセスサービスシステム研究所(以下、NTT AS研)では、今後の光アクセス網のあるべき姿を検討し、次の三点を光アクセス網のめざす方向性として定めました(図1)。
図1 今後の光アクセス網のめざす方向性
今回確立した光アクセス網構成法は、複数のループ配線を多段型につなげた構成が特徴です(図2)。ループ配線は信頼性や需要変動耐力に優れた配線方法として知られていましたが、従来のループ配線法ではループ配線から離れた場所では十分な信頼性や需要変動耐力を得られないという問題がありました。そこで本網構成では、複数のループ配線を多段型につなぎ合わせることで、エリアのあらゆる場所で高い信頼性と需要変動耐力を確保することができます。さらに、複数のループ配線を介して光経路選択の自由度も高め、上記三点の課題を同時にクリアする光アクセス網構成法を実現しました。また、ループ同士の接続点に光ファイバ心線の切替機能点を設けることで、必要となる心線切替稼働を削減し、運用の効率化もめざしています。本網構成を既存の光アクセス網にオーバーレイ※4することで、従来のFTTHサービスに影響を与えることなく本網構成を展開し、既存網との共存を図っていきます。
本網構成を設計する上では、ループ配線の大きさや複数のループ配線で共用する光ファイバ心線数といった、従来にはなかった新たな設計指標が必要となります。そこでNTT AS研では、信頼性工学や確率論に基づく理論計算により、これらの設計指標の適正値を明確化しました。ループ配線の大きさについてはアベイラビリティ※5が最も高まる条件を導出し(図3)、複数のループ配線で共用する光ファイバ心線数については発生需要を確率関数でモデル化してシミュレーションを行うことで、需要変動耐力の確保に必要となる設計条件を導出しました(図4)。これらの理論計算に基づく網構成法は光アクセス網の設計に新たな知見を与えるものであり、多様なサービスを包摂する汎用性指向という新たな設計思想に基づくものです。これをNTT AS研ではIOWN構想を支える新たな光アクセス網構成法として確立しました。
図2 多段ループ型光アクセス網構成の概要
図3 アベイラビリティ計算によるループ配線の大きさの適正値導出
図4 確率論に基づくシミュレーションによるループ配線で共用する心線数の適正値導出
今後は、スマートシティ等への導入を進めながら実フィールドで本網構成法の実現性を検証するとともに、運用方法を検討していきます。また、本網構成の運用効率化に向けた心線切替機能の遠隔制御技術を始めとする関連技術の研究開発も進め、IOWN構想の実現に向けた研究開発を推進していきます。
※1需要変動耐力
アクセス系通信網において、設計時に予測した発生需要数と実際の発生需要数が異なる場合に、増設工事を行うことなく需要に即応できる能力。
※2ループ配線
環状に光ファイバケーブルを敷設することで一つの需要発生地点に対して二通りの光経路を提供する配線形態。ルート冗長化により高い信頼性を確保できるとともに、光ファイバ心線の空き状況に応じて二通りの光経路のうち任意の経路を選択できるため需要変動耐力に優れるという特徴を持つ。
※3スター配線
放射状に光ファイバケーブルを敷設し、光ファイバケーブルでつなぐ拠点間には一通りの光経路のみ提供する配線形態。ループ配線と比べて、初期構築コストを抑えられるが信頼性や需要変動耐力に劣るという特徴を持つ。
※4オーバーレイ
既存のネットワークに変更を加えることなく、別のネットワークを新たに構築すること。
※5アベイラビリティ
信頼性の度合いを表す指標であり、全体の運用時間に対するシステムを利用可能な時間の割合。
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