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2021年9月27日

日本電信電話株式会社

世界初、通信用光ファイバの感じる振動状態をセンサとして活用し、通信設備のモニタリング技術を実証
~街の環境情報を面的に把握し、災害対策への活用をめざす~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、通信用の既設光ファイバケーブルをセンサとして利活用し、ケーブル周辺の環境情報を取得する環境モニタリングの実現に向け、光ファイバに加わる振動を極めて高精度に測定する技術を実証しました。本技術を用いて世界で初めて架空光ファイバケーブル※1に加わる微小な振動が光ファイバの長手方向に伝搬する様子(振動伝搬パターン)を捉え、それが電柱等の通信設備の周辺や前後で異なることを見出しました。この振動伝搬パターンの変化点は、振動分布波形上のどの地点に通信設備があるか特定するための指標となり得るため、各種光ファイバ測定技術で得られる様々なイベントの発生地点を、これまでの測定器からの光ファイバ長だけでなく、振動分布波形上の設備位置を起点として高精度に特定可能にすることが期待できます。
 本技術の確立を進めることにより、IOWN時代において既設光ファイバケーブルネットワークをセンサとして活用した環境モニタリングを実現し、さらに、得られた環境情報を多様な産業分野で利用してもらうことで、様々な社会課題の解決に貢献することをめざします。本成果は、12月発行のIEEE Journal of Lightwave Technology に掲載予定です。

1.研究の背景

これまでの光ファイバ振動分布測定技術は空間分解能※2が数mオーダであり、この空間分解能よりも短い波長を持つ振動や振動状態の変化を正確に測定できません。光ファイバケーブルを伝搬する振動の波長や振動状態が変化する区間長は1m程度になることがあるため、従来の測定技術では振動様相を正確に捉えることが困難でした。また、無理に空間分解能を改善しようとしても測定で得られる信号パワーが低くなるため測定の感度が低下して正確な振動波形を得ることができませんでした。

2.技術の特徴

NTTは1m以下という優れた空間分解能での測定が可能なOFDR (Optical Frequency Domain Reflectometry) ※3という光測定方式を用いることで、光ファイバケーブルネットワークへ適用可能な高精度光ファイバ振動分布測定技術を実現しました。
 これにより、世界で初めて打撃等の意図的な加振や明らかな異常振動が加わっていない状態でも、
1.風等によって架空光ファイバケーブルに自然発生する微小振動が光ファイバの長手方向に伝搬する様子(振動伝搬パターン)を捉えました
2.振動伝搬パターンが電柱、クロージャ※4等の通信設備の周辺や前後で異なる/不連続となることを見出しました
 この振動伝搬パターンの変化点は、通信設備が振動分布波形上のどの地点にあるか特定するための指標として利用することが期待できます。

図1 架空光ファイバケーブルの振動伝搬パターンと通信設備地点での伝搬パターンの変化 図1 架空光ファイバケーブルの振動伝搬パターンと通信設備地点での伝搬パターンの変化

3.本技術の利用イメージ

これまでの光ファイバ振動分布測定では、振動イベントが発生した場所は測定器からの光ファイバ長で表されるため、通信ネットワークで利用されているような比較的距離の長い光ファイバを測定する場合、正確な場所の特定が難しいという課題がありました。
 本技術では通信設備位置が振動パターンの変化点として振動分布測定波形上に現れるため、波形上のどの地点に電柱やクロージャ等の通信設備があるかを把握できます。これは、異常振動等の振動イベントが観測された際に、どの設備からどれくらいの距離でその振動イベントが発生しているかが分かることを意味しています。つまり、自動車走行、工事、設備点検等、光ファイバ測定で得られる様々なイベント発生地点を、従来のような測定器からの光ファイバ長だけでなく、通信設備位置を起点として高精度に特定可能となります。
 環境モニタリングは、測定された振動波形を解析・解釈することにより、周辺で生じている事象を特定できるような環境情報を生成することをめざしています。さらに、この振動波形や環境情報をストックして様々なプレーヤーに利活用してもらうことで、社会課題の解決や安心で豊かな生活の実現に貢献することを志向しています。このような世界の実現には、第一に、解析・解釈の元になる振動波形が高精度なものでなければなりません。この観点で、本技術は環境モニタリングを実現するための要素技術の一つとして期待されています。

図2 既設通信用光ファイバケーブル上で観測される様々な振動パターン例 図2 既設通信用光ファイバケーブル上で観測される様々な振動パターン例

4.今後の展望

環境モニタリングの実現には様々な要素技術を確立し、組み合わせることが必要です。今後は、測定技術のさらなる高度化による位置特定精度の向上、外乱耐性の検討、高精度測定に由来する大量測定データの取り扱いに関する検討、AIや機械学習等を活用したデータ分析・解釈の検討などに取り組みます。これらにより、IOWN時代において既設光ファイバケーブルネットワークをセンサとして活用した光ファイバ環境モニタリングを実現し、災害対策やインフラ設備の監視など、様々な社会課題の解決に貢献することをめざします。

用語解説

※1架空光ファイバケーブル
電柱等を利用し屋外に設置された光ファイバケーブル。

※2空間分解能
光ファイバに沿って分布的に情報を取得する光ファイバ測定において、どれだけ細かく位置を特定できるかを表す性能のこと。
空間分解能1mとは1m離れた2地点の情報を区別して測定できるということを意味する。

※3OFDR (Optical Frequency Domain Reflectometry)
光の周波数を掃引した光を光ファイバに入射し、光ファイバの各地点からの反射光の周波数により反射。
光の反射位置を区別することによる、光ファイバを分布的に測定する手法。空間分解能に優れるという特徴を持つ。

※4クロージャ
屋外の光ファイバケーブルルート上で光ファイバ同士の接続を実施する際に、接続点を保護収容する箱。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
TEL:0422-59-3663

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