2021年10月 1日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、長期的視野に立った研究開発を一層強化するために、基礎数学研究を推進する組織「基礎数学研究センタ」 Institute for Fundamental Mathematicsを2021年10月1日(金)にNTT研究所内に新設します。本組織は現代数学の基礎理論体系構築に取り組むとともに、未だ明らかになっていない量子コンピューティングの速さの根源の解明などに挑みます。また、未知の疾病の解明や新薬の発見など、IOWN構想実現に向けてNTT R&Dで取り組んでいる様々な研究課題に対し、現代数学の手法を駆使した今までにないアプローチの提案を通じた貢献をめざします。
NTTでは、「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、メディア処理、知識処理、人間科学、脳科学などに取り組み、あわせて知の泉の源としてそれらを支える情報基礎理論や量子情報理論および量子暗号通信の基礎理論などにも取り組んでいます。今後IOWN構想を実現していくにあたっては、現在のインターネットの限界、スマート社会の処理限界、デジタル技術の限界、ヒトの能力の限界などから浮き彫りとなる、ますます複雑化・多様化する社会課題の解決が求められています。これらの課題解決には、現在の最先端技術の単なる組合せや近視眼的な改良ではない、これまでとは抜本的に異なる長期的視野に立ったアプローチが必要です。
数学は時代を超えて普遍の価値を持ち、異なる分野のまったく予想外の文脈に共通して存在する数理構造を炙り出し、「自然科学において理不尽なまでの有効性」(※1)を発揮する学問です。現代においてもなお、大きく進歩する数学理論の深い探求と幅広い活用が、これまでとは根本的に異なる新たなアプローチの提案につながる可能性があります。そこで、NTT R&Dにおける「知の泉」の源を一層強化すべく、現代数学の基礎理論を研究する組織「基礎数学研究センタ」Institute for Fundamental Mathematicsを新設します。
基礎数学研究センタでは、現代数学の多様かつ広範にわたる未知なる課題に取り組み、必要な言葉・概念の整備のもとに数学の真理の探究を推進します。さらに新たな数学問題の発掘を行い、数学的自然の沃野の開拓を通じて、以下のような課題の解決への寄与をめざします。
リーマン予想(※3)や、ラングランズ予想(※4)など、現代数学において重要な未解決問題への挑戦を通じて新たな基礎理論体系の構築を進めることにより、未だ明らかになっていない量子コンピューティングの速さの根源の解明や、量子計算機でも破ることのできないことが保証される新たな暗号方式の考案など、デジタルを超える量子技術の革新に向けた研究を加速します。
また、生命科学・脳科学・社会科学等におけるさまざまな現象の相互作用や未解明な振る舞いに関しても、トポロジーと幾何学、数論、群論・表現論、関数解析、微分方程式・力学系、確率論、圏論、グラフ理論、ゲーム理論などの現代数学をさらに発展させるなか、それぞれの研究領域の研究者との連携の機会が見込まれます。各研究領域における現代数学の手法を駆使したアプローチによる数理的な記述方法の探索を通じて、未知の疾病の解明および新薬の発見や、超大規模なシミュレーションと進化するAIの融合による災害予測、災害救助を本格的に担えるアバターやロボットの構築などへとつながる貢献が期待されます。さらには、究極の多体系である人間の脳のダイナミクスや人の行動メカニズム、「記憶」「思考」「意識」が生まれるメカニズムの解明や、新たな脳型計算機実現に向けた理論の発展への寄与も期待されます。
今後、社外から基礎数学に関する第一級の研究者を招き入れることにより広く学術貢献すると同時に若手研究者を育成し、IOWN構想実現に向けて立ちはだかる諸問題に対し、各分野の研究組織と共に最新の現代数学手法を駆使しながらアプローチし解決していきます。
(※1)ユージン・ウィグナーによる言葉。ユージン・ウィグナー(1902〜1995)は米国の物理学者。ハンガリー生まれで、1930年に渡米。原子核と素粒子の構造の研究で、1963年にノーベル物理学賞受賞。
(※2)若山正人氏のプロフィール:1978年東京理科大学理学部卒、1985年広島大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。鳥取大学と九州大学の助教授、プリンストン大学数学教室客員研究員、九州大学教授、九州大学大学院数理学研究院長・学府長、マス・フォア・インダストリ研究所(初代)所長、九州大学理事・副学長、東京理科大学副学長などを経て2021年10月1日よりNTT数学研究プリンシパルに就任。九州大学名誉教授。専門は表現論、数論。最近はリーマン予想や数論幾何の課題にも関連して、非対称量子ラビ模型等の量子相互作用の数学構造の解明に従事。
(※3)リーマン予想:リーマンゼータ関数と呼ばれる複素数を値に取る関数の虚数の零点(その点を入力として与えると関数の値が0となる点)が、実部が 1/2 の複素数に限られるという予想で、ドイツの数学者ベルンハルト・リーマン(1826〜1866)により1859年に提出された。この予想は、素数の分布について、それ以上には期待できないという意味で「究極の素数定理」 (素数の個数の究極の数え上げ)と同等であることが知られている。数論における最も重要な未解決問題の一つとされている。
(※4)ラングランズ予想:ラングランズ・プログラムとも呼ばれる。カナダの数学者ロバート・ラングランズ(1936〜)により提唱(1967,1970年)された非常に広汎な予想の集まりであり、一部しか解決されていない。全てを解決すれば数学の大統一理論につながるとされ、世界中の数学者たちが様々な観点から挑戦している。多くの数学者のこのような持続的努力が、数学の進歩を大きく促している。
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