2021年11月 2日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、国内外で広がりを見せつつある eスポーツ(※1)において遠隔開催を可能とする光ネットワーク技術を実証しました。大容量・低遅延・遅延ゆらぎゼロの特徴を持つIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(以下、APN)(※2)実証環境にAPNユーザ向け装置(試作機)を接続することで、HDMI/DisplayPort映像信号とUSB信号を100 Gbps超の光信号に乗せて非IP方式で長距離伝送する技術を実証しました。さらにAPNユーザ向け装置に搭載した高精度なネットワーク遅延測定機能と遅延調整機能により、遠隔地の複数会場間であっても公平な対戦を可能とします。本技術により、複数会場のeスポーツイベントでも、まるで単一会場開催であるかのようなゲーミングUXを実現できます。
なお、本研究成果は2021年11月16日から19日まで開催されるNTT R&Dフォーラム2021にて展示を予定しております。(*)
(*)本成果を出展します11/16より開催のNTT R&Dフォーラムの詳細については、以下のサイトをご覧ください。
http://www.rd.ntt/forum/
国内外でeスポーツに関するさまざまな取り組みが進んでおり、今後、さらなる広がりが期待されます。多くのプロフェッショナルレベルの大会や国際オリンピック委員会によりオリンピック・バーチャル・シリーズ(※3)が開催され、各種競技会においてeスポーツを正式種目とする動きが見られます。
さらに、新型コロナウイルスの影響により生活様式の変革が進展しており、eスポーツイベントにおいても遠隔開催が広がりを見せています。そのため、遠隔開催を支えるネットワーク技術の重要性が高まっています。(図1)
従来、eスポーツイベントを遠隔開催する際には、インターネットを利用することが多く、そのベストエフォートな通信特性からネットワーク遅延が大きく、さらに遅延ゆらぎを含むものでした。複数のプレイヤが異なる拠点から参加する場合には、参加拠点によりネットワーク遅延が異なるため不公平な対戦となってしまうことが課題であり、特にプロフェッショナルレベルのeスポーツ大会を、インターネットを用いて遠隔開催することは困難でした。
NTTでは、近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤としてIOWN構想を発表し、2030年頃の実現をめざし研究開発を進めております。IOWNの3つの主要技術分野のひとつとしてオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を掲げており、光ベースの技術を用いることで、従来とは別格の通信パフォーマンスを実現します。
今回の実証では、ユーザ要望に応じて動的に、拠点間で1波長あたり100 Gbpsを超える大容量、物理限界に迫る低遅延性、ネットワーク遅延の時間変動がない遅延ゆらぎゼロの特徴を持つ光伝送パスを提供可能にするAPN実証環境を構築しました。光信号を電気信号に変換することなく光のまま扱う光処理ノードとそれらを制御するAPNコントローラにより従来にない特徴を持たせることが可能となります。そして試作したAPNユーザ向け装置をユーザ拠点に設置することで、ユーザの手元まで100 Gbps超の通信回線を提供する技術を実現しました。(図2・技術ポイント1)
APNユーザ向け装置では、非圧縮あるいは低圧縮のHDMI/DisplayPort映像信号とUSB信号を100 Gbps超の光信号に乗せてAPN上に送信し、100 kmや1000 kmといった長距離の伝送を可能とします。このような機能の実現により、ユーザ拠点ではPCやゲーム機を設置することなく操作入力と映像表示だけを行い、遠隔地のデータセンタに設置されたサーバ等を利用することが可能となります。(図2・技術ポイント2)
さらに、APNユーザ向け装置はネットワーク遅延測定機能と遅延調整機能を備えており、1マイクロ秒精度でネットワーク遅延を測定し、さらに必要に応じて遅延を調整(付与)することが可能です。ネットワーク遅延は、光ファイバ中の光信号の伝搬遅延と通信装置での処理にともなう装置遅延からなります。光信号の伝搬速度は光ファイバ中では毎秒20万kmであり、例えば1000 kmの光ファイバの場合、伝搬遅延は5ミリ秒となります。これは物理的に避けられない遅延です。一方、装置遅延については、APNでは電気処理を主体とする通信装置(ルータ、レイヤ2スイッチ、再生中継器)を無くし、さらに使用する通信装置内の信号処理の工夫により物理的極限に迫る低遅延化を図っています。その上で、個々の通信回線のネットワーク遅延を測定し、必要に応じて遅延を付与することで所望の遅延に調整することが可能です。このような特徴により、遅延センシティブな用途において極めて良好な特性を持つ通信回線を提供することが可能となります。(図2・技術ポイント3)
APNではユーザ拠点とデータセンタ拠点に設置される複数のAPNユーザ向け装置を管理し、APNコントローラを用いてAPNユーザ向け装置が要求するサービス特性に応じた最適な光伝送パスを選定し光処理ノードに光伝送パスを設定することでエンド・ツー・エンドのサービスを実現することが可能になります。
本技術が有用な領域として複数会場分散開催のeスポーツイベントが挙げられます。本技術を適用することで単一会場でのeスポーツイベントと遜色のないゲーミングUXを実現できます。
例えば、東京、大阪、札幌、福岡といった4都市に会場が分散したeスポーツイベントを開催する場合に、東京エリアに立地するデータセンタに設置されたゲーミングサーバから各開催地のプレイヤにゲーム画面を、反対にプレイヤのゲーム操作情報を各開催地から東京のデータセンタに低遅延で長距離伝送することが可能となります。
また、各開催地までの物理的な距離の違いによりネットワーク遅延が異なりますが、遅延測定機能と遅延調整機能を用いることで、マイクロ秒精度で同一の遅延に調整することが可能になり、プロフェッショナルレベルにおいても公平な対戦を実現することができます。このことにより、従来のインターネットでは困難であった、プロフェッショナルレベルのeスポーツイベントの遠隔開催が可能となります。さらに、プレイヤはもとより、実況拠点や観戦会場を本ネットワークで結ぶことにより圧倒的な臨場感を持つ遠隔実況や遠隔観戦をも可能とします。(図3)
今後、本技術を適用したeスポーツのフィールド実証を進めて参ります。また、eスポーツ業界やゲーム業界とのコラボレーションを通じて、新たなゲーミングUXをもたらすeスポーツの発展に貢献していきます。さらに、APNの持つ大容量・低遅延性から映像信号を圧縮・伸張なしでの転送が可能になるため、本技術のクラウドゲーミングへの適用も模索していきます。本ネットワーク基盤技術によって実現される通信回線の特性を前提としたサーバやソフトウェアの在り方について、関連業界とのコラボレーションを通じて究極のUX実現にチャレンジしていきます。
また、新型コロナウイルスの影響により変革が進展している我々の社会生活においてあらゆるリモート活動を支えるネットワーク基盤となります。この基盤技術を、eスポーツを含むエンターテイメント領域のみならず、リモートワーキング、教育、文化芸術、遠隔医療、遠隔コラボレーションなど幅広い領域への拡大をめざして実証を続け、IOWN構想の実現に邁進していきます。
図1: eスポーツイベントの遠隔開催形態
図2: IOWNオールフォトニクス・ネットワークとAPNユーザ向け装置によるユーザの手元への100 Gbps超の通信回線提供
図3: 4都市分散開催(東京、大阪、札幌、福岡)のeスポーツイベントへの本技術の適用イメージ
(※1)eスポーツ
「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称です。
(※2)IOWN オールフォトニクス・ネットワーク
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、主に、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタル・ツイン・コンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。
APNは、ネットワークから端末、チップの中にまで新たな光技術を導入することにより、これまで実現が困難であった超低消費電力化、超高速処理を達成します。
1本の光ファイバ上で機能ごとに波長を割り当てて運用することで、インターネットに代表される情報通信の機能や、センシングの機能など、社会基盤を支える複数の機能を互いに干渉することなく提供することができます。
(※3)オリンピック・バーチャル・シリーズ
国際オリンピック委員会(IOC)が「新しいオリンピックのデジタル体験」として初めて公式開催するもので、2021年5月から6月にかけて、第一回目として、野球、自転車、ボート、セーリング(ヨット)、モータースポーツの5種目の決勝が行われました。
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