2022年5月27日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、ソーシャルメディア上のテキストデータを解析することで、新型コロナウイルス感染拡大時に、他者、動物、物など、何かに触りたいという日本人の欲求(触りたさ)に変化が生じたことを発見しました。本成果は東京大学との共同研究において得られたものです。
本研究では、ソーシャルメディアに投稿された「○○を触りたい」「〇〇を触りたくない」というフレーズを含むテキストデータに着目しました。これらのテキストデータを解析することで、新型コロナウイルス感染拡大時に、触りたい欲求の程度がどのように変化したかを調べました。その結果、人や動物など生物の肌のぬくもりを求めるスキンハンガー(※1)の慢性化が起きていることや、ドアノブなどの物への接触を避けたいという欲求が強くなっていることを発見しました。これらの触りたさの変化は、新型コロナウイルス感染拡大時のいわゆるソーシャルディスタンス(※2)の確保や外出制限が影響したと考えられます。
本研究で得られた、人のもつ触りたさに関する発見は、幅広い実世界の問題に応用できる見込みがあります。日常生活において人が何かに触りたいと思う時に働く心理メカニズムの解明、消費者が自然と触りたくなる製品設計、感染拡大などの実問題が人々の意識に与える影響の予測などに貢献することが期待されます。
日常生活の中で人はさまざまな対象に触ります。例えば、衣服の表面を指でなぞって感触を確かめたり、身近な人や動物に触れてコミュニケーションをとったりします。何かに触る、という行動は人の日常生活に溶け込んでいます。ところが2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染が広がるにつれ、人どうしのいわゆるソーシャルディスタンスの確保や不要な外出の制限などにより、人や物との接触の機会が減りました。その結果として、何かを触ることに対する人の意識はどのように変化したでしょうか。本研究では特に、人が他者、動物、物などの何かに触りたいという欲求(触りたさ)の変化に着目します。
「触りたさ」について調べられたこれまでの研究は、日常で触れる機会の少ない物体(3D印刷した物体など)を実験室にて見たり触ったりした時に人が感じる触りたさを解析しており、人が日常生活の中で感じる触りたさを調べたものではありませんでした。また、このような目の前にある物体に対してその場で人が感じた触りたさを調べる方法では、過去のある時点でその物体に対して感じた触りたさについて調べることができません。
本研究ではTwitterに投稿された「〇〇に触りたい」「〇〇に触りたくない」というフレーズを含むテキストデータを解析しました。これらのテキストデータは、人が日常生活で何かに触りたいと感じたときに投稿されたものと考えられます。新型コロナウイルス感染拡大前からのデータも含めて解析することで、新型コロナウイルス感染拡大時の、人が感じる触りたさの変化を定量的に調べることができます。
解析の流れとして、まずテキストデータに対してノイズ除去などの前処理を施し、次に機械学習を用いてテキストデータの構文を解析することにより、そのテキストにおいて人が触りたい対象を抽出しました。最後に後述する差分の差法により、新型コロナウイルス出現後に、人や動物など生物への触りたさがどのように変化したかを解析しました。「〇〇(人や動物など)を触りたい」というフレーズを含むテキストデータの量の増減を図1に示します。生物への触りたさに関しては、新型コロナウイルス出現直後は平常通りですが、第1回の緊急事態宣言頃から強くなり、その後も続いていることがわかります。これは身体コミュニケーションへの強い欲求(いわゆるスキンハンガーと呼ばれる現象)が慢性化している可能性を示しています。感染拡大時の、ソーシャルディスタンスの確保や外出制限が影響して、このような触りたさの変化が起きたと考えられます。
一方、ドアノブなど非生物に対して、人が他者、動物、物などの何かに触りたくないと思う欲求(触りたくなさ)についても同様に解析しました。「〇〇(ドアノブなど)を触りたくない」というフレーズを含むテキストデータの量の増減を図2に示します。ドアノブなどの非生物を触りたくないという欲求は、新型コロナウイルス出現とともに敏感に強くなっていることがわかります。
さらに図1と図2のグラフを見比べると「生物への触りたさ」と「非生物への触りたくなさ」の時間変化の性質が違うのがわかります。生物への触りたいという欲求は感染拡大直後には変化せず、第一回の緊急事態宣言の頃から変化し始めました。一方、非生物への接触を避けたいという欲求は感染拡大直後から変化し、第一回の緊急事態宣言の頃に一時的に更に高まりました。この時間変化の性質の違いは、リスクを回避することを優先するという人間の性質と関係があるかもしれません。
本研究では、人の感じる触りたさがテキストとして表れるソーシャルメディアに着目しました。過去に触りたさを実験で調べた研究では、実験参加者に体験してもらう触覚刺激が日常で触る機会の少ない物体に限定されていたこと、過去のある時点における触りたさを調べることができないこと、などの問題がありました。今回、ソーシャルメディア上のテキストデータを解析に使うことでメリットとして、触りたさを抱く対象の制限がなくなること、人が触りたいと感じたタイミングでのデータが取得できること、過去の触りたさに関しても現在の触りたさと同様にデータが取得できること、が挙げられます。これにより、日常生活において人が感じた触りたさについて、新型コロナウイルス感染拡大前後で、定量的に比較できました。
解析にあたって、ソーシャルメディアにおけるユーザ数の増減やユーザごとの投稿数の変化が問題となります。例えば、ソーシャルメディアにおける投稿数が全体的に新型コロナウイルス出現後に増えた場合、それが今回着目した「〇〇に触りたい」「〇〇に触りたくない」というフレーズを含むテキストデータの量に影響してしまいます。本研究では、ユーザ数やユーザごとの投稿数の変化の影響を排除するため、ソーシャルメディアに投稿された全テキストデータの概数を推定し、その推定量で正規化することで得られた指標を評価対象としました(図1、図2の縦軸)。
また、季節などの周期性や長期的なトレンドも問題となります。例えば、2010年代に人や動物への触りたさが強まり続ける長期的なトレンドがあった場合、新型コロナウイルス感染拡大による影響と分離できないため、長期的なトレンドを排除する必要があります。本研究では、差分の差法を活用することで周期性や長期的なトレンドの影響を排除しています。図3に差分の差法の概略を示します。今回の解析では、各年度8月からスタートし次年度の12月までの1年半の期間から構成されるグループを2013年から2019年まで7グループ用意しました(図3 (A))。7グループの中で、新型コロナウイルス感染拡大期間を含む2019年のグループを「新型コロナウイルス出現群」、新型コロナウイルス感染拡大期間を含まない2013年~2018年の6つのグループを「対照群」と呼びます。各グループは初年度8月から次年度1月までの新型コロナウイルス出現前の期間と、次年度2月から12月までの新型コロナウイルス出現後の期間から構成されます。差分の差法では、新型コロナウイルス出現前後の期間の差分と、対照群と新型コロナウイルス出現群の差分を比較・分析します(図3 (B))。新型コロナウイルス出現前後の期間の差分を比較することで、長期的なトレンドを排除できます。また、同じ季節に対して新型コロナウイルス出現群と対照群を比較するので、周期性を排除できます。
本研究で得られた人の感じる触りたさに関する発見は、幅広い実世界の問題に応用可能です。日常生活において人が何かに触りたいと思う時に働く心理メカニズムの解明、消費者が自然と触りたくなる製品設計、感染拡大などの実問題が人々の意識に与える影響の予測に貢献することが期待されます。
図1:人や動物など生物への触りたさの変化
図2:ドアノブなど非生物への触りたくなさの変化
図3:差分の差法の概略
※1スキンハンガー:肌の温もりへの強い欲求
※2ソーシャルディスタンス:感染防止のために確保する人と人の間の距離
本件に関するお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com
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