検索パネルを開く 検索パネルを閉じる メニューを開く メニューを閉じる

2023年12月 4日

日本電信電話株式会社
国立大学法人九州大学

NTTと九州大学、世界最大規模の開発データに基づくOSSコミュニティの活動実態の調査レポートを発表
~次世代のソフトウェア開発ワークスタイルの構想に向け、「OSSの神話」を検証~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と、国立大学法人九州大学(総長:石橋 達朗、以下「九州大学」)は、次世代のソフトウェア開発ワークスタイルの構想を目的として、OSS(オープンソースソフトウェア)コミュニティの活動実態に関する調査レポート「OSS Myths and Facts(OSSの神話と真実)」を、本日12月4日に公開しました。
 近年、ワークスタイルの先進性や柔軟性から注目を集めているOSSコミュニティに対しては、様々な情報や意見が通説として飛び交っています。本調査では、これらの通説を「OSSの神話」として取り上げ、OSS開発のリポジトリ(注1)に蓄積された開発データの分析・評価等により科学的な検証を行いました。OSSの複数の通説を検証する研究としては、過去最大規模(開発者数:40万人超、コミュニケーション件数:230万件)のデータ量です。調査結果の内容は、ソフトウェアを開発する企業や組織の従業員体験(Employee Experience(EX))向上等への活用が期待されます。
 調査レポートの詳細な内容は、NTTと九州大学が共催する韓国で開催される国際ワークショップ「EEE-OSS 2023」(注2)にて、現地時間の12月4日にワークショップ内の特別チュートリアルで発表します。

1.調査の背景

新たな働き方(ワークスタイル)が浸透する中、インターネット上に形成されたコミュニティにおいてソフトウェア開発を行う、OSS開発のワークスタイルに注目が集まっています。世界中の開発者がインターネット上で協働することで数多くの価値のあるソフトウェアが生み出されていることから、多くの企業や組織においてOSS開発のワークスタイルを参考にしたソフトウェア開発の方法論やプラクティスが提案・実践されています。

一方、OSS開発は、ワークスタイルの柔軟性や先進性のイメージから、その特徴に関しては様々な情報や意見が通説として存在していますが、それらの通説の多くは科学的な根拠が示されていないものでした。これまでのOSSの活動実態に関する研究において、幾つかの通説を個別に取り上げた調査はありましたが、各研究が用いる対象データはそれぞれの研究で独自に用意したものであり、対象データの収集方法、規模や期間等が異なるため、複数の調査結果の横並びで評価や比較が困難であるという課題がありました。

そこで、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所 斎藤忍 特別研究員、九州大学 システム情報科学研究院 鵜林尚靖 教授・副研究院長らの共同研究グループは、複数の通説を「OSSの神話」として体系化し、40万人を超える開発者の活動データや約230万件を超えるコミュニケーションデータ等を対象に調査を行いました。OSSの複数の通説を、同一のデータで検証する取り組みとしては、世界最大規模の調査です。

2.調査の内容

今回の調査では、OSSで広く使われているバージョン管理システム「GitHub」に存在する4万件を超えるリポジトリからデータを収集して分析・評価を実施し、調査レポート「OSS Myths and Facts(OSSの神話と真実)」を日本語版・英語版の双方をインターネット上に公開しました。
OSS Myths
https://oss-ebook.github.io/当該ページを別ウィンドウで開きます

本調査で取り上げた6つのOSSの神話(通説)、及び検証結果(真実)の概要は以下の通りです。

※横スクロールできます

神話の内容 検証結果(真実)
神話1
OSSコミュニティのコミュニケーションは緩やかである
真実
議論の種類によらず、約半分のコミュニケーションは4時間以内のやりとりをしている
  1. OSSコミュニティは、企業の開発者と同等かそれ以上の素早いコミュニケーションを行っている

Pull request の議論の時間間隔(中央値=約38分) Pull request の議論の時間間隔
(中央値=約38分)

Issue の議論の時間間隔(中央値=約4時間) Issue の議論の時間間隔
(中央値=約4時間)

神話2
OSSコミュニティは眠らない
真実
OSSコミュニティの活動時間帯は北米のオフィスアワーに偏っている
  1. 北米の深夜時間帯には、世界中のOSSコミュニティの人々も活動していない(眠っている)
神話3
OSSコミュニティは終わるのも早い
真実
OSSコミュニティの4年後の生存確率は50%を超える
  1. 今活動をしているOSSコミュニティの半数は、4年後も継続して活動している可能性が高い

OSSの経過期間(横軸)と生存率(縦軸)(48カ月経過後の生存率が約50%) OSSの経過期間(横軸)と生存率(縦軸)
(48カ月経過後の生存率が約50%)

神話4
OSSコミュニティはクラッカーに負けない
真実
開発者の多いOSSコミュニティでも脆弱性の解決期間は概ね3カ月を要している
  1. OSSもクラッカーの後塵を拝している可能性がある
神話5
OSSコミュニティは要求に素早く応える
真実
OSSコミュニティにおけるバグ修正や機能追加の要求の多くは2週間以内に解決されている。一方、全体の4分の1は3カ月以上要している
  1. OSSコミュニティでも素早く対応するものと、そうでないもので対応期間のばらつきが大きい
神話6
OSSコミュニティの参加者はトップ開発者だ
真実
OSSコミュニティにおける役割はプログラミングだけではなくバラエティに富んでいる
  1. OSSコミュニティには他人のコメントにリアクション(スタンプ等)するだけの人もいる

エンドースメント

九州大学 システム情報科学研究院 鵜林尚靖 教授

「世の中の働き方がソフトウェア化しているなか、その代表的なものがOSSコミュニティのワークスタイルである。世の中的にはOSSコミュニティは理想郷(ユートピア)であるような通説も存在している。一方、今回の調査結果からは、必ずしもそれらは真実ではなかった。OSSの活動に関する研究として、これだけの大規模データを用いた体系的な調査は今回が初めてであり、調査結果の信頼性も非常に高いと考えられる。調査の内容は今後の企業や組織での新たな働き方に対しても示唆に富む内容であった」

今回の調査レポートの詳細な内容は、韓国で開催されるNTTと九州大学が主催する国際ワークショップ「EEE-OSS 2023」にて、現地時間の2023年12月4日に本ワークショップの特別チュートリアルで発表します。なお、本ワークショップは、ソフトウェア工学に関するアジア太平洋地域で最大の国際会議「APSEC 2023」(注3)と併催となります。

3.今後の展望について

今回の調査レポートでは、これまでに言われてきたOSSの神話(通説)を取り上げ、それらの内容に対して、客観的なデータに基づいた科学的な検証を行いました。調査結果の内容は、研究と実務の両面への活用が期待されます。研究面では、OSSのコミュニティの開発実態を分析・評価する研究(ソフトウェアリポジトリマイニング研究等)の取り組みに対して、新たな事実や知見を提示することにより、後続の研究活動を喚起します。実務面では、OSSコミュニティの活動実態や特徴を正しく理解することにより、企業や組織の開発者(従業員)にとって働きやすい環境整備や動機付けの取り組みへの活用、特に従業員体験(Employee Experience(EX))向上への寄与が期待されます。NTTと九州大学では今後も引き続きOSSの調査を進め、得られた知見に基づき次世代のソフトウェア開発ワークスタイルの構想・提言を行っていきます。

注1:プログラムの変更履歴や開発者のコミュニケーション履歴が保管・管理されているオンラインのデータベースシステム

注2:Exploring Employee Experience in Open Source Software(EEE-OSS 2023)
https://eee-oss.github.io/当該ページを別ウィンドウで開きます

注3:30th Asia-Pacific Software Engineering Conference(APSEC 2023)
https://conf.researchr.org/home/apsec-2023当該ページを別ウィンドウで開きます

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
サービスイノベーション総合研究所
広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com

国立大学法人九州大学
広報課
TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139
koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。
現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。