2024年12月11日
日本電信電話株式会社
国立大学法人北海道大学
発表のポイント:
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と国立大学法人北海道大学(北海道札幌市、総長:寳金 清博、以下「北大」)は、1本の通信用光ファイバで10倍以上の大容量化を実現する新たな構造設計を世界で初めて考案・実証し、2024年9月にフランクフルトで開催された光通信技術に関する世界最大の国際会議(50th European Conference on Optical Communications(ECOC))でトップスコア論文として採択され発表しました。
本研究成果は、IOWN※1がめざす現在比125倍の大容量化を実現する要素技術の1つとしてさらなる発展が期待されます。
NTTはIOWNの大容量光伝送基盤を実現する要素技術の1つであるマルチコア光ファイバ(MCF)の研究開発を進めており、これまでに現在の光ファイバと同じ細さのガラスの中に、4個の光の通り道を多重した4コアMCF※2の研究開発を推進してきました。さらにIOWNでは将来的に現在の伝送容量の125倍を実現することを目的としており、光伝送路のさらなる大容量化では光の多重度(4コアMCFの場合は4)を10以上に拡張する新たな実現技術の探索が求められています。10以上の多重度を実現する1つの選択肢として、1つのコア内に複数の種類の光(モード)が伝搬するマルチモード光ファイバ(MMF)や、コア間の距離を小さくし、コア間で光信号が結合するように設計された結合型MCFが研究・報告されています※3。これらの光ファイバでは、光信号間の伝搬遅延差が大きいと伝送特性が劣化しますが、結合型MCFはMMFに比べ伝搬遅延差を低減しやすいことが知られています。このため、MMFと結合型MCFを融合させることができれば、光ファイバの細さを維持したまま、10以上あるいは数10以上の光の多重度が実現できると期待されます。しかしこれまでは、1つのコアで複数のモードが伝搬する場合、隣接コア間でモードの異なる光信号同士を結合させることができませんでした。
本研究ではコア間・モード間の完全光結合を実現する新たな構造設計を世界で初めて考案・実証しました。
図1:新たに考案・実証したコア間・モード間光結合型光ファイバの概要
コア間の同モードの光信号の結合は、コア間隔を適切に設定することで実現でき、光ファイバに加わる自然な曲がりやねじれによって結合が加速されます。実際の光ケーブルでも実装された光ファイバにはランダムな曲がりやねじれが加えられており、これを積極的に制御・活用することで結合型MCFケーブルが実現できることが実証されています※4。しかし、各コアが複数の光信号を有する場合、異なる光信号間の隣接コア間における結合を実現するには光ファイバに極端な(小さな半径の)曲がりを付与する必要があり、光信号自身が光ファイバの外部に漏れてしまい、光通信を行うことができませんでした(図2左参照)。本研究では光結合のモデルを隣接2コア間から隣接3コア間に拡張した新たな光ファイバ設計技術を見出し、結合特性の制御に必要な曲がり条件(曲がり半径)を大きく緩和し、コア間・光信号間の完全結合が実現できることを世界で初めて考案しました。
図2:隣接2コア間における光結合のイメージと曲がり条件(曲げ半径)との関係(左:従来の設計モデル)と隣接3コア間における光結合のイメージと曲がり条件(曲げ半径)との関係(右:提案の設計モデル)
一例として、1つのコアで3つのモードの光信号を伝搬可能なコアを六方最密状に7個配列し3モード7コア光ファイバを試作し(図3中:の挿入写真参照)、その光結合特性と曲がり条件(曲げ半径)との関係を評価しました。図3の評価結果は、曲がり条件(曲げ半径R)で3モードの光信号の光ファイバ1km伝搬後における到達時間の偏差を時間軸上で観察したものです。Rが140mmの場合、青の信号と黄もしくは橙の信号の到達時間に大きな偏差が見られますが、Rの縮小とともに到達時間の偏差も減少し、本設計例の最適条件としたR=50mmにおいて3モードの光信号の到達時間分布が一致し、全光信号の完全結合が実現されていることが確認されました。これにより、提案モデルにより全コア間・全光信号間の完全光結合を世界で初めて実証し、本検討例では7コア×3モードで、合計21の光信号結合が実現できることを示したものです。
図3:試作光ファイバにおいて3つのモードの光信号がコア間で結合する状態を観察した実験例(設計した曲げ条件(曲げ半径R=50mm)で3種類の光信号の遅延分布が時間軸上で一致)
NTT:3モード7コアMCFの試作および完全光結合の実証
北大:全コア間・全モード間の結合特性とその曲げ半径依存性の解析
今回の研究成果は、限られた光ファイバ断面内で10以上の空間多重を実現するこれまでの実現技術※3に新たな選択肢を示したもので、光ファイバの細さを活かしたまま空間多重度を飛躍的に向上できる可能性を有します。今後、2030年代以降における伝送容量需要のさらなる増大に備え、10以上の多重度を実現するMCFの基盤研究および接続や増幅等のシステム構築に必要な要素技術を引き続き推進します。
※1IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想
https://www.rd.ntt/iown/index.html
※24コアMCFの検討例
https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/08/08/170808b.html
※310以上の空間多重を実現する光ファイバの例
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/03/21/240321a.html
https://doi.org/10.1109/JLT.2023.3275074
※4NTTニュースリリース 世界初、光ケーブル構造により光ファイバ内の伝送特性を制御
~モード多重による長距離・大容量光伝送路の実現に向け大きく前進~
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/03/09/200309a.html
本件に関する報道機関からのお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
情報ネットワーク総合研究所 広報担当
https://tools.group.ntt/jp/rd/contact/index.php?param01=R¶m02=302
国立大学法人北海道大学
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北海道大学大学院情報科学研究院
教授 齊藤 晋聖(さいとう くにまさ)
TEL:011-706-6541 Email:ksaitoh@ist.hokudai.ac.jp
<2>報道に関するお問い合わせ
北海道大学 社会共創部 広報課 広報・渉外担当
TEL:011-706-2610 Email:jp-press@general.hokudai.ac.jp
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