検索パネルを開く 検索パネルを閉じる メニューを開く メニューを閉じる

2025年1月17日

国立大学法人東京大学
日本電信電話株式会社
国立研究開発法人情報通信研究機構
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

光量子計算プラットフォームに世界で初めて量子性の強い光パルスを導入
――スパコンを超える光量子コンピュータへ突破口――

発表のポイント

  1. 世界で初めて量子性の強い光パルスに対してさまざまな演算を何ステップでも実行できる汎用型光量子計算プラットフォームを実現。
  2. 従来は扱えなかった量子性の強い光パルスの利用により現代のコンピュータを超える計算の高速化への道が拓かれ、さらに独自方式の光回路により今後のスケールアップにも期待できる。
  3. このプラットフォームを利用すれば最適化や機械学習などのアプリケーションの探索が大きく進展すると共に、将来的にスパコンを超える誤り耐性型万能量子コンピュータへつながる。

概要

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎准教授および吉田昂永大学院生(当時)らの研究チーム、日本電信電話株式会社(以下、NTT)、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT(エヌアイシーティー))は、量子性の強い光パルスで計算できる世界初の汎用型(注1)光量子計算プラットフォームを実現しました。
 近年、光の連続量(注2)方式での汎用的な計算を目指した光量子計算プラットフォームが目覚ましく進展し、量子コンピュータの有望な方式として期待されています。しかし、これまで実現されたプラットフォームは全て、行える演算の種類が「線形演算(注3)」のみに限定された不完全なものであり、この演算だけでは現代のコンピュータより高速に計算できないことが知られていました。今回、本研究グループは、「非線形演算(注3)」も可能にする量子性の強い光パルス(注4)を光量子計算プラットフォームに導入することに世界で初めて成功しました。このプラットフォームをテストベッド(試験用環境)として利用すれば、従来はできなかった非線形演算の実装や、量子誤り訂正処理の評価、さらには最適化や機械学習などの量子アプリケーションの探索が大きく進展します。また、今回のプラットフォームで採用している光回路構成は拡張性に優れた独自方式であり、今後これを多数の光パルスを用いた計算ができるシステムへとスケールアップしていくことで、将来的にはスパコンを超える誤り耐性型万能量子コンピュータ実現へつながるものと期待されます。

発表内容

〈研究の背景〉
 量子コンピュータは、量子力学に基づく新しい計算原理を用いた次世代のコンピュータです。現在、超伝導、中性原子、イオン、シリコン、光などさまざまなアプローチで量子コンピュータの開発競争が繰り広げられています。その中でも、光を用いた量子コンピュータは有力候補の1つです。光量子コンピュータは、他方式とは違ってほぼ常温常圧で動作し、高クロック周波数(演算処理1つ1つが高速)で計算できる上、光通信と容易に接続でき光量子コンピュータネットワークの構築につながるといった利点をもちます。特に近年、光の波に連続的な情報をもたせて計算を行う連続量の手法が目覚ましく進展し、連続量での汎用的な計算を目指した光量子計算プラットフォームが世界でいくつか実現されています。東京大学の武田准教授らの研究チームも、連続量の手法に基づく独自の光量子コンピュータ方式を2017年に提案し(図1)、2023年には3個の光パルスで計算ができるプラットフォームを実現するなど、世界をリードする研究成果を挙げてきました(関連情報(1)~(4)参照)。
 しかし、これまで世界で実現されている連続量の汎用型光量子計算プラットフォームは全て、行える演算の種類が「線形演算」のみに限定された不完全なものでした。「線形演算」だけのプラットフォームは、どれほど大規模化したとしても現代のコンピュータより高速に計算することはできません。現代のコンピュータの性能を超えるには、そのプラットフォームにさらに「非線形演算」を可能にする量子性の強い光パルスを導入することが不可欠です。しかし、そのような量子性の強い光パルスは一般にランダムなタイミングでしか発生させることができません。その発生タイミングと演算処理のタイミングを合わせる技術的な難しさが障壁となり、これまで量子性の強い光パルスを扱える光量子計算プラットフォームは実現されていませんでした。

図1:独自の光量子コンピュータ方式 2017年に武田准教授らが考案した光量子コンピュータ方式では、量子ビットの情報をもつ多数の光パルスを大きなループ型のメモリの中に蓄え、それらの光パルスに1個のプロセッサによって順々に演算処理を実行する。この方式では、光の種類としてスクイーズド光(注5)のみを用いている限りは、線形演算という限られた演算処理しか実行できない。そこに量子性の強い光パルスを導入することで、非線形演算も可能になり、あらゆる計算が可能な量子コンピュータが実現できる。 図1:独自の光量子コンピュータ方式
2017年に武田准教授らが考案した光量子コンピュータ方式では、量子ビットの情報をもつ多数の光パルスを大きなループ型のメモリの中に蓄え、それらの光パルスに1個のプロセッサによって順々に演算処理を実行する。この方式では、光の種類としてスクイーズド光(注5)のみを用いている限りは、線形演算という限られた演算処理しか実行できない。そこに量子性の強い光パルスを導入することで、非線形演算も可能になり、あらゆる計算が可能な量子コンピュータが実現できる。

〈研究の内容〉
 今回、本研究グループはこの障壁を乗り越え、世界で初めて量子性の強い光パルスを使って計算できる汎用型光量子計算プラットフォームを実現しました(図2)。このプラットフォームは、量子性の強い光パルス1個を発生させ、それに対してさまざまな線形演算を繰り返し何ステップでも実行できる機能をもちます。将来的に、量子性の強い光パルスと線形演算を組み合わせれば、従来できなかった非線形演算も実行可能となります。このため、今回のプラットフォームを拡張していくことで、線形演算も非線形演算も含め、あらゆる計算が実行できる万能な光量子コンピュータの実現へとつながり、現代のコンピュータを超える高速計算が可能になると期待されます。さらに、量子性の強い光パルスを用いれば量子コンピュータで正確な計算結果を得るために不可欠な量子誤り訂正処理も行えるようになるため、誤り耐性型量子コンピュータへの道を切り拓く成果とも言えます。

図2:今回開発した光量子計算プラットフォーム 今回、量子性の強い光パルスをランダムなタイミングで発生させるシステムと、スクイーズド光パルスとプロセッサを用いて線形演算を実行できるシステムを組み合わせ、さらにそれらを時間的に同期させて制御するシステムを組み込むことで、量子性の強い光パルスを用いて計算できる光量子計算プラットフォームが実現した。OPA(Optical parametric amplifier)は光パラメトリック増幅器を表す。 図2:今回開発した光量子計算プラットフォーム
今回、量子性の強い光パルスをランダムなタイミングで発生させるシステムと、スクイーズド光パルスとプロセッサを用いて線形演算を実行できるシステムを組み合わせ、さらにそれらを時間的に同期させて制御するシステムを組み込むことで、量子性の強い光パルスを用いて計算できる光量子計算プラットフォームが実現した。OPA(Optical parametric amplifier)は光パラメトリック増幅器を表す。

〈役割と成果〉
 この光量子計算プラットフォームは、東京大学のチームが蓄積してきた光量子コンピュータの独自の要素技術、NTTが開発した光パラメトリック増幅器(注6)、NICTが開発した超伝導光子検出器を結集させ、既存のプラットフォームを大幅に技術刷新することによって実現しました。このプラットフォームの構成は、武田准教授らが2017年に提案した独自方式に基づいています(図1)。この方式は、量子ビットの光パルスを時間的に一列に並べてループ型の光回路を周回させながら、1つのプロセッサで演算処理を繰り返すもので、コンパクトな光回路で大規模な計算が可能となることが強みです。今回この方式のプロセッサを、量子性の強い光パルス(具体的には「シュレディンガーの猫状態」の光パルス(注4))の発生源と組み合わせたプラットフォームを構築しました(図2)。
 この構築には、光ファイバとの親和性の高い光通信の波長帯(1545nm)に量子性の強い光パルスを生み出す発生源が必要であり、NTTが開発した光パラメトリック増幅器とNICTが開発した超伝導光子検出器を組み合わせることでその実現に至りました。この発生源は、光子検出器が光子を検出したタイミングでのみ光パルスを発生(注7)させるもので、発生のタイミングはランダムです。発生した光パルスに対してプロセッサで演算処理を行うためには、光パルスの発生を知らせる光子検出信号を手掛かりにして、光パルスがプロセッサに到着するタイミングとプロセッサが演算処理の動作をはじめるタイミングを一致させる必要があります。しかし、光子検出信号を受けてからプロセッサを動作させるまでの電気的な処理には時間がかかり、その間にも光パルスは光の速度で進み続けるため、通常はタイミングが間に合いません。そこで、光パルスがプロセッサに至る前に長さ100mの光ファイバを挟み(図2)、光パルスの到着時刻を遅らせることで、光パルスの到着とプロセッサの動作のタイミングを合わせることに成功しました。
 このプロセッサでは、もう1台のNTTの光パラメトリック増幅器で発生させたスクイーズド光と呼ばれる補助的な光パルスを繰り返し入射して用いることで、量子性の強い光パルス1個に何ステップでも線形演算を繰り返すことができます(図3)。実証実験では、線形演算の1つであるスクイージング演算(注5)を最大3ステップまで種類を変えながら実行し、期待通りの演算が行われていることを確認しました。さらに、光パルスの強い量子性を示す特徴が、2ステップの演算の後まで保たれていることも確認し、演算のエラーで失われやすい量子性を維持できるレベルの高い精度で実行できていることも示しました(図4)。今回、量子性の強い光パルスでさまざまな計算ができるプラットフォームの実現が世界初であることはもちろん、実際に3ステップもの演算を行ったのも世界で初めてです。

図3:量子性の強い光パルスに対して演算を実行する場合の手順 今量子性の強い光パルスが発生したら(a)、それに同期して光パルスをループ内へと誘導して(b)周回させる。そこに補助的なスクイーズド光を入射・測定することで繰り返し演算処理を行い(c)、最後に演算後の光パルスを測定器へと送って計算結果を測定する(d)。光パルスがループ内で周回するか、光測定器へと送られるかは、透過率可変ミラーで制御する。 図3:量子性の強い光パルスに対して演算を実行する場合の手順
量子性の強い光パルスが発生したら(a)、それに同期して光パルスをループ内へと誘導して(b)周回させる。そこに補助的なスクイーズド光を入射・測定することで繰り返し演算処理を行い(c)、最後に演算後の光パルスを測定器へと送って計算結果を測定する(d)。光パルスがループ内で周回するか、光測定器へと送られるかは、透過率可変ミラーで制御する。

図4:量子性の強い光パルスに3ステップ演算を行った実験結果の一例 演算が期待通り実行されたかどうかを評価するため、演算の前と後の光パルスそれぞれに対して、光の振幅と位相の疑似確率分布を表すWigner関数を測定し、3次元プロットとして示した(xとpが振幅と位相、縦軸が確率に相当)。Wigner関数の負の領域はその光の状態の強い量子性を表しており、2ステップ演算後にも負の領域が残っていることから、演算が高い精度で行われていることがわかる。下の図はWigner関数を上方から見た2次元プロットであり、実験結果とシステムの不完全性を考慮に入れた理論予測を示している。ここで行っているスクイージング演算では、横方向(x方向)成分を小さく減衰させ、縦方向(p方向)成分を大きく増幅する演算で、期待通りWigner関数が変化しているとともに、実験結果と理論予測がよく一致していることがわかる。 図4:量子性の強い光パルスに3ステップ演算を行った実験結果の一例
演算が期待通り実行されたかどうかを評価するため、演算の前と後の光パルスそれぞれに対して、光の振幅と位相の疑似確率分布を表すWigner関数を測定し、3次元プロットとして示した(xとpが振幅と位相、縦軸が確率に相当)。Wigner関数の負の領域はその光の状態の強い量子性を表しており、2ステップ演算後にも負の領域が残っていることから、演算が高い精度で行われていることがわかる。下の図はWigner関数を上方から見た2次元プロットであり、実験結果とシステムの不完全性を考慮に入れた理論予測を示している。ここで行っているスクイージング演算では、横方向(x方向)成分を小さく減衰させ、縦方向(p方向)成分を大きく増幅する演算で、期待通りWigner関数が変化しているとともに、実験結果と理論予測がよく一致していることがわかる。

〈今後の展望〉
 今回、量子性の強い光パルスを初めて組み込むことで、従来できなかった非線形演算を含む高度な計算へと展開可能な全く新しい光量子計算プラットフォームが実現し、スパコンを超える量子コンピュータ実現への突破口を切り拓きました。このプラットフォームは、ハードウェアは同じまま、プログラムを変更して異なる動作をさせればさまざまな計算を行うことが可能です。このプラットフォームをテストベッドとして利用することで、実際の非線形演算の実装や、量子誤り訂正処理の評価、さらには最適化や機械学習などの量子アプリケーションの探索が大きく進展します。また、今回のプラットフォームで採用している光回路構成は拡張性に優れた独自方式であり、今後これを多数の光パルスを用いた計算ができるシステムへとスケールアップしていくことで、将来的にはスパコンを超える誤り耐性型万能量子コンピュータ実現へつながるものと期待されます。

○関連情報:

(1)「プレスリリース:究極の大規模光量子コンピュータ実現法を発明 ―1つの量子テレポーテーション回路を繰り返し利用―」(2017/9/22)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/foe/press/setnws_201709221056102300122908.html当該ページを別ウィンドウで開きます

(2)「プレスリリース:最小限の光回路で様々な光の量子もつれを効率的に合成 ―『究極の大規模光量子コンピュータ』の心臓部を実現―」(2019/5/18)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/foe/press/setnws_201905201322203614181652.html当該ページを別ウィンドウで開きます

(3)「プレスリリース:様々な計算を何ステップでも実行できる万能な光量子プロセッサを開発 ―日本発『究極の大規模光量子コンピュータ』実現に道―」(2021/11/16)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/foe/press/setnws_202111161112513957617710.html当該ページを別ウィンドウで開きます

(4)「プレスリリース:3個の光パルスで様々な計算ができる独自の光量子コンピュータを開発 ―日本発『究極の大規模光量子コンピュータ』のプロトタイプを実現―」(2023/7/26)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2023-07-26-001当該ページを別ウィンドウで開きます

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科
 武田 俊太郎 准教授
 吉田 昂永 研究当時:修士課程
 奥野 大地 研究当時:助教

日本電信電話株式会社 先端集積デバイス研究所
 柏﨑 貴大 准特別研究員
 梅木 毅伺 特別研究員

情報通信研究機構 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター 超伝導ICT研究室
 三木 茂人 室長
 知名 史博 研究当時:研究員
  現:産業技術総合研究所 研究員
 藪野 正裕 主任研究員
 寺井 弘高 上席研究員

各機関の役割

  1. 東京大学:実験系の設計・構築、データ取得・解析など実験・理論全般
  2. NTT:光パラメトリック増幅器の作製・提供
  3. NICT:超伝導光子検出器の作製・提供

論文情報

雑誌名:PRX Quantum
題 名:Sequential and Programmable Squeezing Gates for Optical Non-Gaussian Input States
著者名:Takato Yoshida, Daichi Okuno, Takahiro Kashiwazaki, Takeshi Umeki, Shigehito Miki, Fumihiro China, Masahiro Yabuno, Hirotaka Terai, and Shuntaro Takeda
DOI:10.1103/PRXQuantum.6.010311
URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PRXQuantum.6.010311当該ページを別ウィンドウで開きます

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業「光量子技術の汎用化による量子アプリケーション創出(JPMJFR223R)」、同 ムーンショット型研究開発事業目標6「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発(JPMJMS2064)」、同 共創の場形成支援プログラム「量子ソフトウェアとHPC・シミュレーション技術の共創によるサスティナブルAI研究拠点(JPMJPF2221)」、キヤノン財団による支援を受けて行われました。

用語解説

(注1)汎用型
量子力学に基づく計算原理を用いたコンピュータの中には、特定の種類の計算だけを行う専用マシンとして開発された「特化型」の量子コンピュータもあります。その具体例は、超伝導回路を用いて開発された量子アニーリング専用マシンや、光を用いて開発されたガウシアンボソンサンプリング専用マシンなどです。これに対して、「汎用型」とは、量子コンピュータで高速化できると期待されているさまざまな種類の計算を全て実行できることを目指して開発された汎用性の高い量子コンピュータを指します。

(注2)連続量
一般的な量子コンピュータでは、「0と1の重ね合わせ」である量子ビットを情報単位に用いて計算を行います。一方、「連続的な値(実数値)の重ね合わせ」を情報単位に用いる手法を連続量と呼びます。特に、光の波の振幅や位相は連続的な値を取ることから、光の振幅と位相に連続量の情報を乗せて計算処理を行うことが可能で、本研究もその手法を用いています。

(注3)線形演算、非線形演算
連続量の量子コンピュータでは、連続的な値(実数値)を1個か2個入力すると、あるルールで別の連続的な値に変換して出力するような基本的な演算を何種類か組み合わせて計算を行います。出力値が、入力値の定数倍や足し算・引き算の関係にあるような演算を線形演算と呼び、そうでない演算(入力値同士の掛け算など)を非線形演算と呼びます。線形演算と非線形演算を組み合わせると、どのような入出力関係でも作り出すことが可能であるため、あらゆる計算ができる量子コンピュータが実現できます。

(注4)量子性の強い光パルス、「シュレディンガーの猫状態」の光パルス
量子性の強い光パルスとは、光子が1個だけの状態や、「シュレディンガーの猫状態」と呼ばれる振動のタイミングが反転した2つの波の量子力学的な重ね合わせ状態など、量子力学的性質を顕著に表す光の状態を指します。これらの光の状態は特殊な非線形光学プロセスでしか発生させることができず、多くの場合にその発生タイミングはランダムになります。このような光パルスは、非線形演算を実行するためのリソースとして利用できるほか、量子誤り訂正のために必要な特殊な光量子ビットの状態を作り出すためにも利用できます。

(注5)スクイーズド光、スクイージング演算
光の波の振幅や位相は、たとえ光が全く無い(真っ暗な)状態であっても完全にゼロにはならず、常にランダムに揺らいでいます(量子揺らぎ)。振幅もしくは位相のいずれかの揺らぎを通常よりも小さくした光をスクイーズド光と呼びます。スクイーズド光は、光パラメトリック増幅器を用いていつでも好きなタイミングで発生させることが可能で、線形演算、例えばスクイージング演算を実行するためのリソースとして利用できます。スクイージング演算は、入って来た光の波の振幅もしくは位相いずれかの成分を小さく減衰させ、もう片方の成分を大きく増幅して出すような演算です。今回の実証実験では、光の振幅と位相のどちらの成分をどの程度減衰・増幅させるかで、複数種類のスクイージング演算をテストし、いずれも期待通り動作していることを示しました。

(注6)光パラメトリック増幅器
非線形光学効果をもつ特殊な結晶を利用して、入って来た光の波の振幅もしくは位相いずれかの成分を小さく減衰させ、もう片方の成分を大きく増幅して出すような光の変換を行うデバイスです。本研究では、導波路型の非線形光学結晶を用いた光パラメトリック増幅器モジュールが、線形演算を行うために必要なスクイーズド光を発生させる部分と、量子性の強い光パルスを発生させる部分で利用されています。

(注7)光子検出器が光子を検出したタイミングでのみ光パルスを発生
今回、以下のような手順で量子性の強い光パルスを発生させます(図2青色部分)。まず、光パラメトリック増幅器を用いてスクイーズド光パルスを常に発生させ続けます。次に、このスクイーズド光パルスをわずか4%だけ反射するミラーに送ります。この結果、「スクイーズド光パルスがそのまま全て透過するケース」と、「スクイーズド光パルスのほとんどは透過するが、そこに含まれるたかだか1個の光子が反射されるケース」のいずれかがランダムに起こります。後者のケースが起こると、反射された光子が光子検出器に到達し、光子検出信号が得られます。その場合、透過した方の光パルスは「スクイーズド光から1光子引き去った光」となり、これが「シュレディンガーの猫状態」と呼ばれる量子性の強い光パルスとなっています。このようにして、光子検出器が光子を検出したタイミングでのみ、量子性の強い光パルスが発生することになります。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院工学系研究科
准教授 武田 俊太郎(たけだ しゅんたろう)

〈報道に関すること〉
東京大学大学院工学系研究科 広報室

日本電信電話株式会社 先端技術総合研究所 広報担当
https://tools.group.ntt/jp/rd/contact/index.php?param01=R&param02=402当該ページを別ウィンドウで開きます

国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部 報道室

科学技術振興機構 広報課

〈JST事業に関すること〉
科学技術振興機構 創発的研究推進部
加藤 豪(かとう ごう)

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。
現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。