2023年11月29日~12月2日に台湾の台北にて開催される暗号分野の難関国際会議TCC 2023(Theory of Cryptography Conference 2023)において、NTT社会情報研究所から4件の論文が採択されました。採択論文は以下の通りです。
- ■Holographic SNARGs for P and Batch-NP from(Polynomially Hard) Learning with Errors
- □清島 奨 研究主任
- □短時間での検証が可能な形式で所与の命題が真であることを証明する技術としてSNARG(Succinct Non-interactive Argument)があります。本研究では、Holographic SNARGと呼ばれるSNARGの特殊形を、特定の命題クラスに対して従来よりも信頼度の高い暗号学的仮定を用いて実現しています。Holographic SNARGを用いるとラウンド効率の良いゼロ知識証明などの様々な暗号技術が実現可能なため、本成果を用いると、これらを信頼度の高い暗号学的仮定を用いて実現できます。
- ■Publicly Verifiable Deletion from Minimal Assumptions
- □北川 冬航 准特別研究員, 西巻 陵 特別研究員, 山川 高志 特別研究員
- □量子力学の原理を応用すると、暗号文などを完全に削除したことを証明するという古典計算機では絶対に不可能なことを実現できるようになります。本研究では、公開鍵暗号をはじめとする様々な暗号機能について、暗号文を削除したことを公開情報のみで誰でも検証可能となる方式を最小限の暗号学的仮定のみから実現しました。
- ■3-Party Secure Computation for RAMs: Optimal and Concretely Efficient
- □市川 敦謙 研究員, Ilan Komargodski(Hebrew University, NTT Research), 濱田 浩気 准特別研究員, 菊池 亮 主任研究員, 五十嵐 大 主任研究員
- □Oblivious RAM(ORAM) はアクセス位置を秘匿しつつデータの読み書きを実現する技術です。Distributed ORAM(DORAM) は複数台のサーバを用いて秘密のデータを管理する手法で、特にマルチパーティ計算との親和性が高い方式です。本研究では、理論上最適な漸近的効率であるO(log N)の計算量(N:データ総数)を達成しつつ、同じ漸近的効率を持つ既存方式より実速度が25倍以上高速な新たなDORAMを提案しました。また、効率性を保ったまま、サーバがデータの改ざんやプロトコル上の不正を試みても検知可能な、より高い安全性を持つ方式も同時に提案しました。
- ■One-out-of-Many Unclonable Cryptography: Definitions, Constructions, and More
- □北川 冬航 准特別研究員, 西巻 陵 特別研究員
- □量子力学の原理を応用すると、暗号文などをコピー不可能にするという古典計算機では絶対に不可能なことを実現できます。本研究では、「コピー不可能」の新しい妥当な定義を導入し、秘密鍵暗号や公開鍵暗号、属性ベース暗号などについて暗号文がコピー不可能な方式を標準的な暗号学的仮定のみで実現しました。また秘密鍵暗号について復号鍵がコピー不可能な方式も標準的な暗号学的仮定のみから実現しました。
本会議の議事録は、SpringerのLecture Notes in Computer Science(LNCS)に掲載されています。NTT社会情報研究所は引き続き、暗号技術の研究開発を通じて、安心・安全なサービスの実現に貢献していきます。