2023年12月14日
日本電信電話株式会社(以下、NTT)では超高速・超高信頼・超低遅延な無線アクセスを実現するため、IEEE*1配下のIEEE 802.11部会において無線LANの標準規格策定のための活動を行っています。2023年11月に次世代無線LANの標準規格策定を行うタスクグループ(TG: Task Group*2)bnが立ち上がり、今後議論が本格化します。このTGbnにおいて、NTTアクセスサービスシステム研究所の淺井裕介特別研究員がグループの運営を担うオフィサー(セクレタリ)に就任することとなりました。
今後、NTTがめざす6G/IOWN時代に向けて高い価値を創出する無線アクセスの超高信頼化に貢献して参ります。
NTT研究所では、2022年9月にIEEE 802.11部会配下に設立されたUHR SG(Ultra High Reliability Study Group*3)において、IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)の後継となるメインストリーム規格の策定に向けた議論に参画していました。要求条件としてユーザ体感に資する低遅延性、ならびにユースケースとして市場拡大に資する産業用途のユースケースをそれぞれサポートすることの重要性について意見入力・提案活動を行う[1]とともに、参加企業との間で意識合わせを行いました。その結果、2023年5月に標準規格策定立ち上げに必要となる設立趣意書(PAR(Project Authorization Request)*4およびCSD(Criteria for Standard Development)*5文書)[2][3]にNTT研究所の意見が反映され、その内容に対して大きく貢献しました。その後、IEEE802.11部会の上部組織における承認を経て、新たにTGbnが発足しました。
TGbnは2023年11月に活動が開始され、TGの構成、要求機能、仕様策定の手順等についての議論が開始されました。TGbnの特長としては、高速化がメインのこれまでの主要規格と異なり、無線アクセスの低遅延化・高信頼化を主なターゲットとしています。これを実現するための候補技術として、複数のAP(Access Point)が協調して送受信を行うマルチAP協調・連携技術、非周期で発生するトラフィックの低遅延伝送を優先的に伝送する機能、端末がAPを遷移する際の無瞬断ハンドオーバ、周波数利用効率技術の改善機能などが挙げられています[4]。
免許不要であり誰もが手軽に利用可能である無線LANシステムは、これまで免許システムであり広範なエリアを形成するセルラシステムと互いに補完的に用いられることでモバイルアクセスが発展してきました。6G/IOWN時代に向けて付加価値の高いサービスを実現していくためには、IEEE 802.11無線LANを6Gセルラシステム等の複数無線システムと融合していくことが必要となると考えらえます。TGbnでは、真にユーザの体感品質の改善を実現する効果を目標に掲げています。これにより、特にIOWNのAPN (All Photonics Network)により実現される超低遅延性がスマートフォン・タブレット等のモバイル機器のみならず、ロボット・ドローン等の産業機器にまで拡張されることで、新たなアプリケーション・ユースケースの拡大につながることが大いに期待されます。
TGbnでは、標準化完了時期を2028年5月に定めています[5]。NTT研究所では、6G時代に先駆けた次世代の超高信頼無線LANの実現に向けて、今後もIEEE 802.11部会における標準化に貢献して参ります。
*1IEEE(Institute of Electronical and Electronics Engineers): 世界160ヶ国以上から40万人近くの会員をもつ世界最大の電気電子分野に関する学会。IEEEは標準規格を策定する組織(SA: Standards Association)を持つ。
*2TG(Task Group): 標準規格の技術仕様を策定するグループ。グループ名はアルファベット順に名前が付けられる。規格化された際に、追加規格(Amendment)の名称として用いられる(例: TGaxで策定された追加規格がIEEE 802.11axと名付けられている)。
*3SG(Study Group): 標準規格策定のための技術スコープ・ユースケースならびにその必要性について議論を行うグループ。Study Groupでは後述するPAR/CSD文書を策定し、これをIEEE 802.11部会および上部組織での承認を得ることで、標準規格を具体的に策定するTGを設立することを目的とする。
*4PAR文書: 新たな標準規格を策定するためのTG設立の必要性を取りまとめた文書。標準規格のスコープ(機能面・性能面)、必要性についての論拠がまとめられている。PAR文書がIEEE-SA配下のNesCom(New Standard Committee)に提出し承認されることで、TGが設立される。
*5CSD文書: PARに付随して作成される、新たな標準規格策定における前提条件を記述した文書。新たな標準規格策定の提案に対して、「市場性」「他のIEEE 802規格との互換性」「明確な独自性」「技術的実現性」「経済的実現性」の5項目に対する妥当性が取りまとめられる。
[1]Akira Kishida, Yusuke Asai, Kengo Nagata, Ryo Nagatsu and Yasushi Takatori, "Use Cases for Wi-Fi Business Solutions in UHR," doc.: IEEE 802.11-22/1493r0.
[2]"Project Authorization Request for P802.11bn," IEEE Standard Association, 2023年9月21日.
[3]Laurent Cariou, Lili Hervieu, Chunyu Hu, Brian Hart and Akira Kishida, "IEEE 802.11 UHR Proposed CSD," doc.: IEEE 802.11-23/0079r5, 2023年5月16日.
[4]岸田朗, "グローバルスタンダード最前線 IEEE 802.11be/bnの標準化動向," NTT技術ジャーナル(Web版), 2023年11月28日.
https://journal.ntt.co.jp/article/24219
[5]IEEE P802.11 - Task Group bn (UHR) Meeting Update,
https://www.ieee802.org/11/Reports/tgbn_update.htm
※参考:
淺井 裕介 特別研究員
https://www.rd.ntt/organization/researcher/special/s_084.html
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