2024年5月26日~30日にスイスのチューリッヒにて開催される暗号分野の難関国際会議Eurocrypt 2024において、NTT社会情報研究所から4件の論文が採択されました。採択論文は以下の通りです。
■The Exact Multi-User Security of(Tweakable)Key Alternating Ciphers with a Single Permutation
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- ○内藤 祐介(三菱電機), 佐々木 悠 特別研究員(社会研), 菅原 健(電気通信大学)
- ○現代社会で実利用されているブロック暗号には多様な設計があり、すべてについて個別に安全性を議論することは困難です。Key Alternating Cipher(KAC)はそれらの設計に共通する演算構造を抽出したモデルであり、KACの安全性を証明することでモデルが包含する設計の安全性の理論的根拠を与えることができます。本研究では、すべてのラウンド関数が同一、任意のラウンド数、マルチユーザ設定という実利用に即した設定でKACの安全性証明に成功しました。これは実用的なブロック暗号に対する安全性の証明に利用することができます。
■Certified Everlasting Secure Collusion-Resistant Functional Encryption, and More
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- ○廣岡 大河(京都大学), 北川 冬航 特別研究員(社会研), 森前 智行(京都大学), 西巻 陵 特別研究員(社会研), Tapas Pal(KIT), 山川 高志 特別研究員(社会研)
- ○量子力学の原理を応用すると、暗号文などを完全に削除したことを証明するという古典計算機では絶対に不可能なことを実現できるようになります。本研究では、関数型暗号について、暗号文を削除したことを証明可能な方式を初めて実現しました。関数型暗号とは公開鍵暗号の発展系であり、復号鍵に計算処理手続きが埋め込まれており、暗号文を復号すると平文にその計算処理を施した結果を得られるという暗号です。本成果は、将来の量子コンピュータ時代における安全なデータ管理の実現に寄与します。
■Improving Key Recovery Linear Attacks with Walsh Spectrum Puncturing
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- ○Antonio Flórez-Gutiérrez(社会研), 藤堂 洋介 特別研究員(社会研)
- ○線形解読法とは、共通鍵暗号方式に対する汎用的な解析手法の一つです。本研究では、線形解読法を用いて秘密鍵を解読する際に用いる鍵回復関数のWalshスペクトラムを適切に改変することで、秘密鍵解読に要する計算時間を大幅に削減する新たな手法を提案しました。提案手法の汎用性は高く、多くの暗号方式の既存安全性評価を改良に成功し、共通鍵暗号の安全性理解を大きく進展させ、現在利用している共通鍵暗号の安全性の確認が精緻にできるようになりました。
■Key Recovery Attack on the Partial Vandermonde Knapsack Problem
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- ○Dipayan Das(社会研), Antoine Joux(CISPA)
- ○より効率的な耐量子計算機暗号を構築するために、近年は新たな計算問題が数多く提案されてきましたが、その安全性評価が重要な課題です。2014年に導入された、効率的な暗号や署名の安全性根拠となる「部分的ヴァンデルモンドナップザック(PVK)問題」がその一例です。本研究では、PVK問題の巧妙な代数構造を考慮した新しい攻撃手法を考案し、完全な鍵回復を初めて達成し、PVK問題を安全性の根拠としたすべての方式が脆弱であると示しました。本成果により、現在議論が進められている安全な耐量子計算機暗号や署名の選定に寄与します。
本会議の議事録は、SpringerのLecture Notes in Computer Science(LNCS)に掲載されています。NTT社会情報研究所は引き続き、暗号技術の研究開発を通じて、安心・安全なサービスの実現に貢献していきます。