2025年3月30日~4月3日にアメリカのサンフランシスコで開催された光通信技術分野の世界最大級の国際会議OFC(Optical Fiber Communications Conference and Exhibition)2025において、最も革新的なアイデアを提示した39歳以下の若手研究者に毎年1名授与される、The Tingye Li Innovation Prizeを中村政則 特別研究員が受賞しました。また、本会の最難関発表セッションであるPostdeadline Paperに2件の論文が採択されました。
また、著者の所属はそれぞれ以下の記号で示しております。
*1:未来ねっと研究所
*2:先端集積デバイス研究所
*3:NTTイノベーティブデバイス株式会社
【The Tingye Li Innovation Prize】
●受賞者: 中村政則 特別研究員(*1)
論文:
628 Gb/s Net Bitrate IMDD Transmission Using Ultra-Broadband InP-DHBT-Based Electrical Mixer With Upper-Sideband Gain-Enhanced Mode
上側帯波利得強化モードを有するInP DHBT ミキサーICを用いた628 Gb/s 強度変調直接検波(IMDD)光信号伝送
- ・本論文では、データセンタ内超高速光信号伝送におけるアナログコンバータ(DAC)の帯域幅制限を克服する新しい周波数領域多重化技術を提案しました。本提案方式では、上側帯波利得強化モードを有する新開発のインジウムリンダブルヘテロ接合バイポーラトランジスタ(InP DHBT)電気ミキサー集積回路を適用してDAC帯域を拡大するとともに、本デバイスの不完全性を補正しシンボルレート※1 216~232 GBaudの高品質な高シンボルレート信号を生成するための正確な線形および非線形デジタルプリディストーション信号処理を実現することで、信号対雑音比を維持しながら、高シンボルレート信号生成を可能としました。結果、シンボルレート224 GBaudの高度な光変調形式(確率的成形14値パルス振幅変調:PS-PAM14)を適用し、世界最高速の628 Gb/s IMDD※2 光信号11 km伝送を実証しました。今後のデータセンタ内短距離伝送の更なる大容量化が期待されます。
【Postdeadline paper】
●27-THz ISRS-Supported Transmission Over 1040 km in S+C+L+U and Extreme Longer-Wavelength Band
バンド間誘導ラマン散乱を利用したS+C+L+U帯と超長波長帯を用いた27 THz 1040 km伝送
- ・清水 新平 研究員(*1)、木村 光佑 研究員(*1)、川合 暁 研究員(*1)、阿部 真志 主任研究員(*2)、紺野 俊矢 研究員(*2)、風間 拓志 主任研究員(*2)、中村 政則 特別研究員(*1)、濱岡 福太郎 主任研究員(*1)、圓佛 晃次 研究主任(*2)、柏崎 貴大 准特別研究員(*2)、長谷 宗彦 特別研究員(*2)、脇田 斉 主任研究員(*2)、白鳥 悠太 主任研究員(*2)、山崎 裕史特別研究員(*2)、高橋 宏行 主幹研究員(*2)、梅木 毅伺 特別研究員(*2)、小林 孝行 特別研究員(*1)、宮本 裕 フェロー(*1)
- ・基幹光ファイバ伝送システムでは、光信号を波長軸上に多重し光増幅器で一括中継する増幅中継伝送システムが使用されています。光通信波長帯は波長の短いものからO帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯と呼ばれており、3つ以上の波長帯を使用する超広帯域伝送システムの研究が活発化しています。今回、私たちはS+C+L+U帯にさらに長波長の帯域を新たにExtreme longer-wavelength band (X帯) として加え、バンド間誘導ラマン散乱効果を活用することでX帯の信号品質を飛躍的に改善し、従来の約6倍となる伝送帯域27 THzの波長多重伝送実験に成功しました。NTTで開発を進めている周期分極反転ニオブ酸リチウム (PPLN) 導波路型光パラメトリック増幅器 (OPA) を用いた全光波長帯変換によって広帯域な光増幅中継を実現し、シングルモードファイバを伝送路として使用した1000 km超長距離伝送として世界最大容量の160.2 Tb/s伝送を達成しました。
●Uncooled O-band InP MZ Modulator PIC for 3.2 Tb/s (400 Gb/s/lane) Pluggable Transceiver
3.2Tb/s(400Gb/s/lane)プラガブルトランシーバに向けた無冷却O帯InP MZ変調器PIC
- ・小木曽 義弘(*3)、尾崎 常祐(*3)、杉浦 健太(*3)、山崎 裕史 特別研究員(*2)、谷口 寛樹 研究主任(*1)、金澤 滋(*3)、中村 政則 特別研究員(*1)、宮本 裕 フェロー(*1)、石川 光映(*3)、金子 明正(*3)
- ・データセンタ内における通信トラフィックの急激な増加に対応するため、1.6Tb/sや3.2Tb/sといった大容量の次世代イーサネットに向けた技術開発が活発に行われています。とりわけ、1信号線(1レーン)あたり400Gb/sを実現する光変調器技術に注目が集まっていますが、これまでに報告された技術は帯域特性やサイズ、製造技術の面で課題がありました。今回我々は、成熟したInP変調器技術を用い、O帯8レーン集積マッハツェンダ変調器チップを作製、20~80℃における100GHz級の光変調帯域と400Gb/s/レーン(トータル3.2Tb/s)での500m PAM-6伝送を実証しました。わずか5mm角で無冷却動作が可能なこのチップは、次世代3.2Tb/s小型フォームファクタプラガブル(SFP)トランシーバへの適用が期待されます。
NTTのR&Dは、事業領域の拡大、社会に変革をもたらす新原理・新コンセプトの創出、地球環境・人にやさしい技術の実現をめざして、先端技術の研究に取り組んでいます。本成果は、革新的な情報通信ネットワークの実現を目指した通信大容量化技術、次世代情報通信分野を開拓するデバイス技術の発展に貢献します。
【用語解説】
※1シンボルレート
1秒間に光波形が切り替わる回数で、単位はボー(Baud)を用います。本成果で示した224 GBaudの光信号は、光波形を1秒間に2240億回切り替えて情報を伝送しています。
※2IMDD (Intensity Modulation and Direct Detection:強度変調直接検波)
IMDDは、伝送波長に対して光強度に情報を乗せる方式です。IMDD方式は、半導体レーザ、外部光変調器、ドライバアンプ、光検出器のみで構成可能であるため、シンプルで低コストな光送受信機を実現できます。