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2023年11月 9日

マルチエクスペリエンスとデジタルツインでNTTが取組む技術研究

新型コロナウイルス感染症の拡大で社会のあり方は大きく変化しました。特に医療の分野ではICTなどの技術の積極的導入が進み、リモート診療や電子カルテの普及率が高まっています。日常生活のなかにAIスピーカーやスマートウォッチなどのスマートデバイスが浸透し、人々とITの接点が多様化する昨今、「マルチエクスペリエンス(MX)」という考え方に注目が集まっています。

NTTでは、ウェアラブル端末などから得られる身体データを収集・分析し、デジタルツインコンピューティング技術によってサイバー空間上に写像する「バイオデジタルツイン」の実現をめざしています。
 そこで、今回はマルチエクスペリエンスの意味やメリットをわかりやすく解説しながら、日常での事例、今後の展望、NTTの取組みなどについて紹介します。

マルチエクスペリエンスとは?

画像:マルチエクスペリエンスとは?

マルチエクスペリエンスとは、さまざまなデバイスやテクノロジーを通じて得られる、総合的なデジタル体験を意味します。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)、Webサイト、アプリ、IoTなどを利用して、現実世界で体験できないようなユーザー体験を得ることができます。

マルチエクスペリエンスが注目される理由は、以前にも増してユーザーが体験価値を求めるようになったからです。ものがあふれる現代において、商品やサービスの機能・品質以上に、一連の体験を通じて得られる喜びや共感を重視するユーザーが増えています。その満足度が高いほど商品やサービスのファンになりやすく、競合商品やサービスとの差別化の要因につながることは言うまでもありません。ユーザーのニーズを満たすために、マルチエクスペリエンスを通じた体験価値の向上に注力する企業が増えています。

また、スマートデバイスが普及したことに加えて、VR・AR・IoTなどの技術が著しく発達したこともマルチエクスペリエンスが注目される理由です。
 さまざまな技術を活用し、ユーザーに一貫した体験を提供するマルチエクスペリエンスの存在感が高まっています。

マルチエクスペリエンスの活用シーン(事例)

画像:マルチエクスペリエンスの活用シーン(事例)

マルチエクスペリエンスは、あらゆる場面で活用されています。ここでは日常におけるマルチエクスペリエンスの活用シーンを紹介します。

ARで物件を探す不動産向けのスマートフォンアプリが登場しています。これは建物にカメラを向けるだけで、空室になっている部屋の間取りや家賃といった物件情報をその場で確認できる機能を備えています。実際に街を歩いていて、「この辺りに住みたい」「この物件に住みたい」と思った瞬間に、その場ですぐに調べられる感覚は心地よく、また人どおりや交通量、周辺環境を把握しながら物件を調べられるため、楽しみながら物件を探すことができます。

私たちが日頃から利用する「宅配ピザシステム」にもマルチエクスペリエンスが活用されています。ある宅配ピザ会社では、アプリやスマートフォン、スマートウォッチなどからピザを簡単に注文できるシステムを構築しました。注文したピザの配達状況や配達までの道順、到着時間をマップ上でリアルタイムに追跡することも可能です。退屈しがちな待ち時間を、ワクワクしながら過ごすことができます。

スマートフォンのカメラを使い、家具配置のシミュレーションを行うことも可能です。ある家具メーカーでは、実際に販売している家具を間取り図に自由に設置できるアプリを開発しています。カメラで写した空間に照明や収納グッズ、ソファなどの家具データを配置できるため、配置のアイディアを得たり、購入時の参考にしたりすることができます。

今後のマルチエクスペリエンスに期待できること

企業側にとっては、マルチエクスペリエンスに取組むことで、ユーザーに一貫した体験を提供できるようになり、顧客満足の向上が望めます。ユーザー側にとっても、さまざまなデバイスを通じて良質な体験を得ることができ、生活における利便性が高まるでしょう。マルチエクスペリエンスの活用は、企業側とユーザー側の双方に多くのメリットをもたらします。

日本では、マルチエクスペリエンスの活用に積極的な企業は多くなく、事例は限定的です。とはいえ、IoTや5G、XR(クロスリアリティ)などの技術進展により、デジタルツインをはじめとした新しいテクノロジーも実現しています。デジタル技術のさらなる普及によって、マルチエクスペリエンスの重要性はより高まっていくと考えられます。

マルチエクスペリエンス化を加速するデジタルツイン活用

画像:マルチエクスペリエンス化を加速するデジタルツイン活用

デジタルツインとは、現実空間にあるものや人のさまざまなデータをIoTデバイスなどから収集し、仮想空間上でリアルに再現する先進テクノロジーのことです。現実空間とそっくりな双子を仮想空間上に作り出すため、デジタルツインと呼ばれます。
 デジタルツインが注目される理由は、仮想空間上で限りなく現実に近いシミュレーションを実施できる点にあります。たとえばアメリカの電機メーカーでは、航空機エンジンのメンテナンスにデジタルツインを活用し、エンジンの状態を分析したり、適切な検査時期を予測したりするのに役立てています。仮想空間上で行われた意思決定を迅速に現実に反映できるデジタルツインは、さまざまな業務プロセスを最適化させる技術として、医療分野や自動車の自動運転分野、ロボット制御分野などで応用が進んでいます。

企業がデジタルツインを活用する際には、あらゆる場所からリアルタイムにユーザーの状況を把握し、次の行動につながる複数の選択肢のなかから、迅速に意思決定を行う必要があります。そのため、Webブラウザやスマートフォン、XR(クロスリアリティ)を組み合わせたマルチエクスペリエンス化が加速すると考えられています。なかでも、Webブラウザを通じたクラウドベースのデジタルツインプロダクトは注目されており、今後もさまざまな企業の参入が活発になるでしょう。

NTTの「バイオデジタルツイン」研究

画像:NTTの「バイオデジタルツイン」研究

人類は過去に類を見ない新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経験しました。特に医療機関では患者数の増加に伴い、医療現場のひっ迫が叫ばれ、ICTなどの技術の積極的導入による生産性向上がより見直されるに至っています。これらの教訓を活かし、NTTは2020年11月に医療健康ビジョン「バイオデジタルツインの実現」を発表しました。

「バイオデジタルツイン」とは、人それぞれの身体および心理を精緻にデジタルデータとして写像する技術のことです。心身の状態の把握、さらには未来予測を通じて未知なるリスクを回避し、健康で将来に希望を持ち続けられる医療の未来の実現に貢献する最新技術です。

この技術は、スマートウォッチなどの運動量を計測する機器によって得られる身体データや、医療機関や薬局で取り扱われる診察や検査、処方された薬などの医療データを収集しAIによる情報解析を介して、仮想空間上に写像を実現します。最終的に、個人の特徴を反映したリスク予想・要因分析、診断や治療方針を出力するというものです。

「バイオデジタルツイン」技術を利用できるようになれば、次なるパンデミックが人類に襲いかかったとしても、速やかに対処法を見出すこともできますし、データの蓄積が進めば早い段階から重症化しやすい患者、軽症で済む患者を判定でき、医療現場のひっ迫を緩和する効果が期待できます。また、投薬においても、禁忌、副作用や期待できる効能の程度などを事前に把握できれば、治療を効率よく行うことも可能となります。

多種多様かつ膨大なデータをいかに集めるのかなど、まだまだ多くの課題がありますが、NTTグループでは、すでにこれら医療にかかわる一部データを収集し、それを情報処理することでサービスを開始しています。今後も、「バイオデジタルツイン」の実現に向け、必要な要素技術を確立するとともに、医療およびヘルスケアにかかわるデータを収集・解析するサービスを展開していきます。

「バイオデジタルツイン」について、詳しくは「NTTの研究開発ホームページ」でご確認ください。 以下のリンクから「バイオデジタルツイン」のコンセプトビデオがご覧になれます。

画像:NTTの「バイオデジタルツイン」研究

https://www.youtube.com/watch?v=4GWlTpccBSE当該ページを別ウィンドウで開きます

NTTグループR&Dの最新成果については「NTT R&D FORUM 2023 ― IOWN ACCELERATION」にて、講演や展示を通じて分かりやすくご紹介いたします

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