日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、新中期経営戦略「IOWNによる新たな価値創造(構想から実現へ)」の一環として、電力負荷問題への問題提起とそれにつながる解決策「光電融合技術」を取り上げ解説します。
コロナ禍をきっかけに急速に普及したテレワークをはじめ、クラウドやAIを活用したサービスの利用拡大、さらには自動車の自動運転システムにいたるまで、私たちの暮らしのデジタル化に伴って発生するデータ量は増加の一途を辿り、今後もさらにその需要は広がっていくことが予想されます。
これらのサービスを維持するために欠かせないのが大規模なデータセンターです。データセンターとはサーバーやネットワーク機器を設置するために作られた建物のことで、その内部にはサーバーを収納するラックが並び、インターネットなど外部と接続できる高速回線や冷却装置、大容量電源など、サーバー設置に必要なすべての設備が整えられています。現代社会の根幹を支えているのがデータセンターであると言っても過言ではありません。このままデータ量が増加し続けたら、データセンターにはどのような問題が生じるのでしょうか。
このままデータ量が無尽蔵に増加した場合、問題となるのはデータセンターの消費電力です。データセンターで消費される電力は、現時点では世界の総電力消費の数パーセント程度とされていますが、その比率は今後さらに大きくなり、現在の技術のままでは2030年には総電力の10パーセント程度を占めることになるとの予測がされています。脱炭素化・カーボンニュートラルが迫られるなか、デジタル社会が求める需要に応えつつ、消費電力をいかに抑えていくかが、データセンターにおける喫緊の課題となっています。
データセンターの消費電力問題を救う技術として注目を集めているのが「光電融合技術(こうでんゆうごうぎじゅつ)」です。これは電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合する技術のこと。たとえば従来のコンピューターでは、電気のオンとオフを切り替えることで、それぞれ数字の1と0に対応させた「2進数」を用いて計算を実行してきました。しかし電気は回路を流れる際に熱を発生させます。パソコンに複雑な処理をさせると、パソコン本体が熱くなるのはこのためです。パソコンが熱くなるということは、本来必要のない熱を発生させることにエネルギーが使われているということを意味しています。さらに、発熱すると電気の通り道の抵抗が大きくなり計算速度の低下にもつながります。
そこで、これまで電気で行なっていた計算を、光を用いた処理に置き換える研究が進められています。つまり、コンピューターの内部回路を、できるだけ電気を使わず光でつなぐことを目指し、省電力かつ低遅延を実現させる研究です。光には電気に比べてエネルギー消費が小さく、遅延も起きにくいという大きなメリットがあります。エネルギーの無駄遣いや処理の遅れを大幅に減らすことができるのです。
ちなみに、皆さんが耳にされたことがある光ファイバーは高速信号を長距離に伝送できるインターネット回線で、この技術は既に実用化がされ、私たちはすでに日常的に利用しています。
光電融合技術を実現するためには、これまで電気での処理を行っていたコンピューター内の計算チップや周辺部品に、段階的に光を導入していくことになります。まず2024年を目標に行われているのが、計算に使うチップと周辺部品を光でつなぐ技術の確立。そして2025年の次の段階ではチップ同士を光で接続したうえで、2030年の最終段階において光で計算する光電融合チップの実用化をめざしています。
光電融合技術の普及によって、2030年までに現在の最先端データセンターと比較しても、40パーセント以上の省エネが実現すると言われています。よりクリーンで計算能力の高いデータセンターが増えることで、インターネットはますます便利に。また光電融合技術を活用したデバイスの低価格化・小型化が進めば、将来は電気自動車や家電など、私たちの身近な製品にも組み込まれ、暮らしがよりクリーンに、便利なものへと変わっていくことでしょう。
NTTグループの事業活動・研究にご期待ください。
IOWN構想特集 ─オールフォトニクス・ネットワーク実現に向けた光電融合技術─ | NTT技術ジャーナル
https://journal.ntt.co.jp/article/5979
NTT R&D Website
オールフォトニクス・ネットワークとはなにか
https://www.rd.ntt/iown/0002.html