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2023年6月 6日

技術の飛躍的進歩と人間の近未来【更新】6/6

進化するテクノロジーと揺れ動く心を描くショートフィルム
『NEO PORTRAITS』

画像:進化するテクノロジーと揺れ動く心を描くショートフィルム『NEO PORTRAITS』

米国アカデミー賞公認でアジア最大級のショートフィルムの祭典、国際短編映画祭 ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF & ASIA)が、2023年6月6日から「UNLOCK(解放)」をテーマに開催されます。NTTとSSFF & ASIAとの制作プロジェクトから『NEO PORTRAITS』は生まれました。

プロジェクトのはじまりは、2022年の映画祭で開催されたイベント「NTT presents 技術革新がもたらす未来を映像化するための国際カンファレンス feat. IOWN」でした。このイベントには、幅広い分野の有識者たちが参加し、NTTが多くの企業と一緒に推進している「IOWN構想」をきっかけとして、技術革新と人間らしい生活に関するディスカッションを行いました。そこから着想を得る形で世界のフィルムメーカーからショートフィルムの企画を募集し、多数の応募企画の中から選ばれて制作された作品が『NEO PORTRAITS』です。技術革新と人間の心を描いており、すでに世界公開されている注目作品です。

(参考)
NTT presents 技術革新がもたらす未来を 映像化するための国際カンファレンス feat. IOWN
https://www.shortshorts.org/content/event/12876/当該ページを別ウィンドウで開きます

近未来の暮らしはこうなる!?を映像化

画像:近未来の暮らしはこうなる!?を映像化

『NEO PORTRAITS』の舞台は少し先の未来。「IOWN」などの様々な技術革新が進んだ未来を想起させるような、近未来の風景が描かれています。例えば、中学生の主人公が朝、ベッドで目覚めたとき、気温や日付、時間などが天井あたりに自動表示されます。神経と連動するデバイスが当たり前のように普及しており、この日常風景に驚く人も多いのではないでしょうか。舞台の中心となる中学校では、規則正しく机と椅子が並び、黒板の前に立ち、生徒と向き合う先生の姿があります。いつもの見慣れた風景のようですが、ちょっぴり違和感があります。机の上にあるはずの教科書やノートが一切なく、タブレットが置かれているだけだからです。教師が本を手に取って紹介すると、初めて目にしたと生徒の間ではどよめきが広がります。

AIは、人の心のすき間を埋められるのか

画像:AIは、人の心のすき間を埋められるのか

映画の中では、死んだはずの母親がAIアンドロイドとして登場します。この世からいないのに、まるで生き続けているかのように母親のAIアンドロイドと会話する家族たち。大きな喪失感を埋めてくれる新たな技術に期待を寄せつつも、人間らしい痛みのような感情を失うかもしれない怖さも同時にわき上がってきます。テクノロジーが進化したとしても、人間の使い方次第で良い方向にも悪い方向にも向かわせることができる――。たとえわかっていても、"人間とテクノロジーは共存できるのか"という根本的な問いからは逃れられません。これまでも私たちは、技術革新のおかげで快適な暮らしをおくれるようになりました。私たちは新たなテクノロジーに内心、おびえつつも、恩恵を享受し続けています。Chat-GPTの登場や「IOWN構想」の推進など、時代が大きく変わろうとしている今、この映画が投げかけるメッセージに多くの人が揺さぶられ、技術革新と人間らしい生活の理想の共存の形について、改めて考える機会になるのではないでしょうか。

最先端技術と人間の心の揺れを描く『NEO PORTRAITS』が見られる、
ショートフィルムフェスティバルの詳細はこちらから▽
https://shortshorts.org/ntt/当該ページを別ウィンドウで開きます

3D空間で映画祭をいつでもどこでも

画像:3D空間で映画祭をいつでもどこでも

画像:3D空間で映画祭をいつでもどこでも

2021年にSSFF & ASIA初の試みとしてはじめられた、オンライン上の3D空間「DOOR」シアターをsupported by NTTコノキューとして、今年も開催します。「DOOR」はNTTコノキューが提供する仮想空間プラットフォームで、今年のアカデミー賞ノミネート作品『真冬のトラム運転手』を含む、世界各国の映画祭で受賞歴のある世界最高峰のショートフィルム、そして『NEO PORTRAITS』をバーチャル空間の映画館で観ることができます。
 「DOOR」シアターリンク:https://door.ntt/ssffa2023_0001/当該ページを別ウィンドウで開きます

 本サービス/取り組みはNTTグループが展開するXR※サービスブランド「NTT XR(Extended Reality)」の取り組みの1つです。

XRとは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった先端技術の総称です。

渡邊淳司研究員インタビュー!
『NEO PORTRAITS』から見える未来

2023年6月6日

NTTにおけるウェルビーイング研究の第一人者である渡邊淳司研究員にショートフィルム『NEO PORTRAITS』から思い描く未来についてお話をうかがいました。渡邊研究員は「NTT presents 技術革新がもたらす未来を映像化するための国際カンファレンス feat. IOWN」にも有識者の1人として参加されています。

インタビューに答えてくれたのは...

日本電信電話株式会社 渡邊淳司

入社よりコミュニケーションに関する研究を人間情報科学の視点から行う。特に触覚によって人と人との共感や信頼を醸成し、ウェルビーイングな社会を実現する方法論について探求している。

―ショートフィルム『NEO PORTRAITS』(https://shortshorts.org/ntt/当該ページを別ウィンドウで開きます)を鑑賞された感想をお願いします。

渡邊淳司研究員(以下渡邊):
 何より、この取り組み自体がとても興味深いものでした。SF小説や、SF映画とは異なり、20分程度のショートフィルムというコンパクトなかたちで、身近なエピソードを取り上げ、ひとつのテクノロジーに焦点を当てたということもあって、そのインパクトは非常に強く感じられました。

また、メイキングビデオ(https://www.youtube.com/watch?v=6OcQ2aWVmxg当該ページを別ウィンドウで開きます)では、出演した役者の皆さんに、演じた感想だけでなく、「どんな未来が来て欲しい?」「近年の技術で便利だな、幸せだなと感じた瞬間は?」などの問いかけもされていて、それらに対する役者さんたちの回答が、自分で擬似体験したテクノロジーに対する率直なフィードバックとなっていて興味深かったです。

―映画では主人公の亡くなった母親がAI アンドロイド(母親の写真がフレームに入れられて、自然な表情で会話する存在)として登場します。どのような印象を受けましたか。

渡邊:
テクノロジーが「わたしたちの未来に何をもたらすのか」考えるとき、今回のように映像として見せてもらった方が、「未来の技術は、人々にどのように受容されるのか」考えやすいと感じました。逆にいえば、テクノロジーの未来を物語なしに説明されても、伝わりづらいのかもしれないです。

―AIアンドロイドは、NTTが持続可能な社会に向けて基本の考え方に据えている「Self-as-We」(京都大学出口康夫氏が提唱する自己観:われわれとしての自己、https://group.ntt/jp/csr/selfaswe/当該ページを別ウィンドウで開きます)の考え方からは、どのように捉えればいいでしょうか?

渡邊:
 映画では、主人公がはじめのうち、母親のAIアンドロイドの存在をどう受け止めてよいか葛藤を抱える様子が描かれています。人は、自分にとって大事な存在、今回の場合は血のつながった母親ですが、そのような存在はかけがえのない唯一無二のものであって欲しいと思います。そして、その特別な存在と主人公はWe(われわれ)であったわけです。しかし、それが声や表情を真似ただけのAIアンドロイドに代替されたとき、Weとは捉えられなかったのでしょう。

―Weと捉えられないということについて、もう少し詳しくお話しいただけますか。

渡邊:
 母親と親密さや信頼を感じながらWeとして生きてきたなかで、その存在が突然消えてしまった。そのぽっかりと空いた穴をAIアンドロイドで埋め、これまでのWeのあり方を存続させようとしたから、おかしなことが起きてしまったのです。生物としての人間を考えたとき、それぞれの人間はかけがえのないものであって、別の存在で置き換えることはできません。その意味で、違和感を覚えるのは当たり前です。
 一方で、人間は社会的な存在でもあります。さまざまな存在とWeとしてかかわりながら生きています。そして、そのWeも新しく生まれたり、形を変えたり、消えたり、動的に変化します。
 興味深かったのは、映像の最後のシーンです。主人公が「AIアンドロイドは本人ではない」と発言するのですが、それにAIアンドロイド自身が「わたしもそう思う」と答えたんですね。その答えは印象的でした。そこから、AIアインドロイドは、その人とそっくりの振る舞いをする社会的なエージェントではあるけど、元の人とはまったく別の存在であることを、主人公は理解したのでしょう。主人公が、AIエージェントを新しいWeを構成するエージェントとして受け入れるきっかけとなったのではないかと思ったんです。

―亡くなった母親と全く同じ存在ではなく、別の存在という捉え方をしたときに受け入れられるようになるというのは面白いですね。次に、渡邊さんが研究されているウェルビーイングの観点から見たときに感じられたことを教えていただけますか。

渡邊:
 日常生活では、人と人がかかわり続けるなかで、その人が大切にしているものが見えてきます。やがて、それが"その人らしさ"につながるのだと思います。映像では、AIアンドロイドの"その人らしさ"がひとつのテーマになっていますが、わたしが研究するウェルビーイングでも、その人が大事にしている価値観は重要です。
 たとえば、ウェルビーイングの研究のなかで、それぞれの人のウェルビーイングにとってどんなことが大事であるか、ウェルビーイングの価値観を可視化・共有するためのツール「わたしたちのウェルビーイングカード」(https://socialwellbeing.ilab.ntt.co.jp/tool_measure_wellbeingcard.html当該ページを別ウィンドウで開きます)を制作しました。
 カード32枚それぞれには、人がウェルビーイングを感じるときの心理的な要因が書かれていて、わたし(「I」)、わたしたち(「WE」)、みんな(「SOCIETY」)、あらゆるもの(「UNIVERSE」)のカテゴリにわかれています。これらのカードのなかから自分のウェルビーイングに大事なものを3枚選んで、その要因と選んだ理由を周りの人と共有します。その3枚というのは、さまざまな組み合わせがあって、その組み合わせは"その人らしさ"と言うことができるのではないかと思います。もしかしたら、AIアンドロイドも故人のウェルビーイングの価値観が強く反映されるほど、"その人らしさ"が感じられるのではないでしょうか。

画像:わたしたちのウェルビーイングカード

―渡邊さんは触覚伝送や、心臓の鼓動などさまざまなものを触れられるようにする研究(https://socialwellbeing.ilab.ntt.co.jp/tool_connect_heartbeatpicnic.html当該ページを別ウィンドウで開きます)もされていますが、触覚伝送の技術をAIアンドロイドと融合させる可能性はあるのでしょうか。

渡邊:
 もちろん、技術的には触覚伝送とAIの融合は可能です。ただ、そのよい影響とわるい影響は分けて考える必要があると思います。AIとの対話を通して、人はコミュニケーションを動機づけられますが、さらに、振動などが伝えられることで、その行動が後押しされるでしょう。AIの存在感というか、それがもたらす人の行動への影響は大きくなると思います。一方で、その影響が大きくなるということは、制御する力が強くなるということでもあります。AIの示したことしかできなくなる、選択肢がなくなるというのは、人の自由を奪い、ウェルビーイングを棄損することにもつながります。触覚伝送とAIが融合したとき、社会がどう変わるのかは、ぜひ続編として観てみたいです。

―最後に技術が進歩した未来がどうなっているのかというビションがあれば、お話しいただけますでしょうか。

渡邊:
 技術はこれまで人の能力を拡張してきており、多かれ少なかれ、人間にとって有用なものであったと思います。しかし一方で、それが、一人ひとり異なるそれぞれの人の「よいあり方」を担保しているのか、これからますます注意を払う必要があります。あるひとつの理想のウェルビーイングがあって、それに向かって誰もが進むべきという未来はかなり窮屈な世界です。
 「よいあり方」というのは一人ひとり違いますし、かといって、その人だけが「よい」と思えばそれで終わりでもありません。周囲の人々や社会とのかかわりのなかで、「よい」は決まるものであり、その人々の関わりの選択肢を広げるものとしてテクノロジーは重要ですし、そのようなことを誰もが少しずつ意識できると、わたしたちにとって「よい未来」が思い描けるのではないでしょうか。

―本日は貴重なお話をありがとうございました!


 今回、25周年を迎える米国アカデミー賞公認でアジア最大級のショートフィルムの祭典、国際短編映画祭 ショートショート フィルムフェスティバル & アジアが2023年6月6日から「UNLOCK(解放)」をテーマに開催中!
 https://shortshorts.org/2023/当該ページを別ウィンドウで開きます

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