距離を超え、時間を超える、新体験を!
スポーツ競技では史上初となるホログラフィック映像のライブ伝送実証
今まで、競技会場で繰り広げられる熱戦のリアリティは、その会場の観客だけのものだった。会場にいない場合の観戦手段は、テレビやパブリックビューイングなどの、平面的なディスプレイ映像を通して視聴することが一般的だが、この常識を変える新たな通信テクノロジーが、2021年に行われた国際的なスポーツ大会で実装された。
その名は、超高臨場感通信技術「Kirari!」。。それは、遠く離れた観戦会場に、競技会場で起きている熱戦空間そのものを伝送するというもの。当初、「実際の会場に来られない方にも、あたかも会場にいるかのような体験を届けたい」という想いで開始されたこのプロジェクトは、新型コロナウイルスの感染拡大により、より重要な価値を持つことになった。コロナ禍で、多くのコンサートやスポーツ等のイベントが中止となり、オンライン配信が急速に浸透。その一方で、失ってしまった"リアルだからこその臨場感や一体感"。そういった観賞者にとって重要な感覚を、どう回復し、どう再現するのか?そんな新たな問いと共に、まさに未来のスポーツ観戦の再創造に向けた挑戦となった。
競技会場で起きているリアルを、別の会場で丸ごと再現するには、それぞれの競技の特性や競技空間のスケール、伝送先の会場の環境など、様々な条件に合った最適な手法を加味しながら、「映像」と「音響」を空間レベルで正確に再現することが重要になる。特に、スポーツ競技の場合は「スピード」「立体感」「臨場感」など、再現の為のハードルは多い。それらの課題を突破しながら、新たな観戦体験を再創造するには、NTT が持ついくつもの最先端技術をさらに進化させながら、いかに最適に連携させるか?、その高度な結集力こそが、鍵となった。
競技会場である武蔵野の森総合スポーツプラザで行われたバドミントンの熱戦を、約23km 離れた日本科学未来館に伝送。それは、縦横無尽に躍動する選手のパフォーマンスだけでなく、高速でラリーされる小さなシャトルのふるまいすらも再現する、難易度の高い挑戦となった。核となったのは、複雑に動く被写体を高速で切り出す「任意背景リアルタイム被写体抽出技術」、映像・音声・空間などのデータを同期伝送する「超高臨場感メディア同期技術(Advanced MMT)」、そして、従来のホログラフィック表示では難しかった、奥行きをも表現する「俯瞰観戦型多層空中像表示技術」。それら最先端の技術を高度に連携させ、立体的かつ安定的なホログラフィック映像で、臨場感そのままに、リアルタイムの伝送を実現した。
これまでは双眼鏡やモニタでの観戦が主体だったセーリングでは、5G 通信サービスと「Kirari!」を活用し、リアルを超えるような迫力と臨場感溢れる観戦体験へ再創造。「超ワイド映像合成技術」で、複数台の4K カメラを搭載したボートやドローンからの迫力ある撮影映像を、4K 映像を3 つ並べた横12K 解像度の超ワイド映像としてリアルタイムに合成。セーリング競技観戦場所前に浮かべた、長さ55m の洋上ワイドビジョンにライブ伝送した。4K カメラが捕らえた迫力の映像は、大会期間中リアルタイムで各国のメディアが集う、東京ビッグサイトのメインプレスセンターにも届けられた。また、コロナ禍で応援に来られない家族などが、遠隔地から現地の選手へ応援を届けられるバーチャルスタンドも実施。現地観戦とリモート観戦の双方で、新たな臨場感のある観戦体験をつくりだした。
札幌で開催されたマラソンでは、「リアルタイムリモート応援プロジェクト※」が発足。NTT の「超低遅延通信技術」を駆使し、東京にいる観戦者が、あたかも選手が走っている沿道で応援しているかのような空間の創造をめざした。開催地の札幌を秒速5m で駆け抜けるマラソン選手に、東京からの応援をリアルタイムでズレなく届けるためには通信の遅延が最も大きな課題となる。競技会場である札幌と、リモート会場となる東京のそれぞれの場所で、幅約50m・高さ2m のLED ディスプレイを設置し、双方の映像をリアルサイズかつリアルタイムで表示。4K レベルの映像データを圧縮する際に発生する遅延を「超低遅延メディア処理技術」によって、低遅延化。また、伝送時には「ディスアグリゲーション構成技術」で、4K 映像の非圧縮映像・音声を、光の長距離伝送路にダイレクトにSMPTE ST2110 形式で送出し、送信側での映像入力から受信側での映像出力までの遅延を約1msec に抑えた超低遅延伝送を可能にした。これらの最先端通信技術により、東京と札幌間の伝送処理遅延片道わずか約100msec(ミリ秒=1,000 分の1 秒)という超低遅延を達成。リモート時代における、新たな観戦体験の未来を示すものとなった。
リアルな感動を、どこでも、誰でも。
会場の熱気も、選手の汗も、再現できるか。
今回「Kirari!」を活用した競技だけでなく、たとえば野球・サッカーなどの大型競技や、音楽フェスなどでこの技術を応用していくには、さらなる技術革新が必要になっていく。より大きな空間、複雑なモーションの再現は、現在の技術のアップデートや、さらなる高速大容量通信の発展と共に可能になっていくだろう。
「Kirari!」の社会実装が進めば、物理的な距離や障がいなどの理由で、直接会場に行けなくても、誰もが競技会場のリアルな感動を体験できるようになる。それだけでなく、この「 Kirari!」だからこその新たな感動体験も不可能ではないはずだ。
例えば、会場に漂う見えない熱気も再現できるとしたら。さらには実際の会場での観戦よりも近い距離、例えば1m 先の目の前で、アスリートの呼吸や飛び散る汗までも感じられるようになるとしたら、どうだろう。世界中のあらゆる場所で、観る人の心に直接触れ、感動を生み出すテクノロジーであること。それこそが「Kirari!」のめざすべき未来だ。いつの日か、リアルを超える新たな感動がこのテクノロジーから生まれているかもしれない。観る人たちの目を、心を、輝かせるために、私たちの挑戦はつづく。
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