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2021年12月17日

日本電信電話株式会社

あたかもそこに音源が存在するかのような音場の再現によりインクルーシブなスポーツ体験「耳で見るゴールボール」を実施
~史上初、視覚障がい者と健常者が一緒に楽しめる音だけによるゴールボール観戦を盲学校の生徒と実証~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、視覚障がい者と健常者が共に楽しめる、音だけの高臨場なスポーツ観戦を実現します。これまでに開発したあたかもそこに音源が存在するかのような音場を再現する「高臨場音像定位技術」を活用するとともに、ゴールボール選手や視覚障がい者を設計に巻き込む「インクルーシブ・デザイン手法」を用いることで、鳴り響く様々な音から選手が選択的に感じ取っている音の再現を試みました。視覚に頼らず音による臨場感の高いスポーツ観戦の実現は史上初の試みとなります。
 2021年12月17日に、横浜市と連携し、横浜市立盲特別支援学校(以下 盲学校)の小学生に、音によるスポーツ観戦(「耳で見るゴールボール」)を体験いただき実証を行いました。

1.背景

NTTはこれまで「超高臨場感通信技術Kirari!」の実証を、2021年に行われた世界最大のスポーツイベントにてセーリング(※1)や、バドミントン(※2)、マラソン(※3)の競技に適用し臨場感の高い体験を提供してきました。
 また、共生社会の実現に向けて、横浜市と2020年11月30日から共同プロジェクト協定書を締結し、視覚障がい者と健常者が一緒にスポーツ観戦を楽しめる手法についてワークショップなどを通じて共に検討してきました(※4)。
 今回、2021年12月に開催される2021ジャパンパラゴールボール競技大会に検討結果を適用し、競技コート内の選手やボールの動きを立体的に再現し音響空間を作り出す、新たな観戦体験プログラムを実施することとなりました。本プログラムにおいて、横浜市立盲特別支援学校の(小学生15名、教師13名)の皆さんに体験いただき実証を行いました。

2.実施概要

従来、視覚障がい者向けの観戦方法は、ラジオやテレビの実況中継が主流となっていました。しかし、言葉による解説では0.5秒で到達するトッププレイヤの投球速度のすごさや、バウンド投げや回転投げなど多彩な投球の違いが伝わりにくく、プレーの迫力をそのままに感じられないという課題がありました。
 そこで、NTTが開発した「高臨場音像定位技術」をスポーツ観戦に適用し、選手やボールの位置を反映して音を再生することにより、コート内の選手が感じる音響空間を立体的に再現しました。高臨場感音像定位技術を用いた試合観戦は、ゴールボールの競技コートの「オリエンテーションエリア」(選手が守備・投球をするエリア)で選手が聞いている音の空間をつくりだします。
 コートを模した体験エリア(縦4.5m×横7.5m)の前後列に、計100台のスピーカーを配置し、本技術によってそれぞれのスピーカーからの出力音声を制御することで、選手やボールの位置情報を反映して投球音を合成します(図1)。
 視覚に頼らず音による臨場感の高いスポーツ観戦の実現は史上初の試みとなります。

図1. 「耳でみるゴールボール」の体験イメージ 図1. 「耳でみるゴールボール」の体験イメージ

<会場>: NTT横須賀研究開発センタ  神奈川県横須賀市光の丘1-1
<実施日>: 2021年12月17日(金)
<協力組織>: 公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)、横浜市、横浜市立盲特別支援学校

3.技術ポイント

①高臨場音像定位技術

本プログラムで利用した「高臨場音像定位技術」は、音の空間的・物理的な波面を物理モデルに基づき再現する音響再生技術です(※5)。この技術のポイントは、直線状に密に並べた多数のスピーカー群(スピーカーアレイ)にあります(図2)。各スピーカーから放射する音の再生タイミングとパワーを調整して任意の位置に音の焦点を作ることにより、あたかもそこに音源が存在するかのような音場を再現します。

図2. スピーカアレイ 図2. スピーカアレイ

具体的に図3と図4を用いて説明します。赤い円の位置に音源を置いて音を発生すると同心円状に音が広がっていきます(図3)。一方で本技術を使いスピーカーアレイから音のタイミングとパワーを調整して再生した場合、音の波が合成されスピーカーアレイより前方の赤い円の位置に音源を置いた場合と同様の円を描くことができます(図4)。これにより音が飛び出すような体験が可能になります。

図3. 音の広がり方 図3. 音の広がり方

図4. スピーカーアレイから再生した様子 図4. スピーカーアレイから再生した様子

②音によるスポーツ観戦の課題と音響空間設計

(A)音像定位させる音の選択

今回、高臨場音像定位技術を用いて音によるゴールボール観戦を実現するために、ゴールボール選手や視覚障がい者を設計に巻き込む「インクルーシブ・デザイン手法」を用いました(図5)。

図5. インクルーシブ・デザイン手法による調査の様子 図5. インクルーシブ・デザイン手法による調査の様子

競技会場では様々な音が鳴りますが、その中で特に選手は相手チームの錯乱音(床をたたくなどして投球位置を分からなくするために出す音)を意識から除外し、ボールを持った選手の助走音、ボールと床の接地音といった一連の「投球音」を"一筆書きのように"追って、常にボールの所在を探索することが明らかになりました。そのため、物理的な音響空間をそのまま再現するのではなく、鳴り響く様々な音から選手が選択的に感じ取っている音の再現を試みました。これにより、競技の経験がない方々にも、選手の卓越した聴覚の一端を疑似体験できることを狙いました。

(B)音像定位簡易化

投球コースについて、選手はゴールの端から端の距離(9m)を1m間隔の9分割で区別します。しかし非競技者の音による空間分解機能は選手の能力に及ばないため、投球コースの位置情報をありのままに再現すると、位置の把握が難しいという問題がありました。今回、ゴール方向の空間分解能を9分割から3分割(レフト・センター・ライト)に低減したところ、非競技者の音によるボール位置の認識率が向上しました。
 さらに、非競技者である観戦体験者に音による定位のレクチャを目的とした「導入コンテンツ」を制作し、試合観戦に備えて様々な投球コースでの音像定位を事前に体験します。非競技者からは、「徐々に音だけで投球コースが分かるようになった」という意見が聞かれました。以上のように、投球コースのシンプル化および導入コンテンツの制作によって、非競技者でも選手が試合中に聞いている音を追体験できる観戦システムが実現しました。

4.今後の予定

NTTは今後も当事者や地域と関わりあいながら、スポーツ観戦だけではなく、身体感覚に着目した新しいコミュニケーション手法の研究開発を進めます。
 さらには、身体感覚を通じて、自身の在り方を実感し、人と人との共感や信頼を醸成することで、様々な人のウェルビーイングが実現される方法論についての研究を進め、共生社会の実現に向けた成果を提案していく予定です。

※1セーリング競技の全日程で12K超ワイド合成映像を遠隔にライブ配信
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/07/01/210701a.html

※2バドミントン競技ホログラフィック映像のライブ伝送
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/07/29/210729a.html

※3マラソンリアルタイムリモート応援
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/08/07/210807a.html

※4横浜市でのワークショップ
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/shimin/2021/olypara1203.files/0001_20211202.pdf当該ページを別ウィンドウで開きます

※5高臨場音像定位技術の紹介
https://www.ntt.co.jp/journal/1710/files/JN20171024.pdf当該ページを別ウィンドウで開きます

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
サービスイノベーション総合研究所
企画部広報担当
randd-ml@hco.ntt.co.jp

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