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2022年2月25日

日本電信電話株式会社

世界初、60GHz帯無線LANを用いた高速移動環境下での無瞬断大容量無線伝送を実現
~ミリ波帯無線LANのような非移動体無線通信を、車など移動体にも適用可能に~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、世界で初めて※1、端末主導型の動的サイトダイバーシティ制御技術により、60GHz帯無線LAN(WiGig※2)において、高速移動環境下での無瞬断大容量無線伝送を実現しました。

本技術により、WiGigなどのソフトハンドオーバ機能※3を持たない非移動体無線通信においても、高速移動体に対して、無瞬断の大容量無線伝送を実現でき、ドローン・車などのリアルタイム映像伝送や録画データの一括伝送などに活用することが可能となります。

1.研究の背景

6Gに向けた、更なる無線大容量化の実現手段として、ミリ波・サブテラヘルツ波帯の活用が期待されています。このような高周波数帯では、ゾーン半径が小さく、多数の基地局が必要なため、従来の4G/5Gの移動体通信に加えて、無線LANのような非移動体無線通信も、そのサービスエリアの補完や、トラヒックオフロードとして活用することが期待されています。
 WiGigは無線LANの60GHz帯版であり、1周波数チャネルで最大4.62Gbit/s※4の無線伝送が可能です。ただし、ソフトハンドオーバ機能を持たないため、端末が移動しても、接続先の基地局を適切に切り替えることができません。そのため、無線伝送速度を高速状態に保ったまま、複数の無線ゾーン間を移動することが難しく、車、ドローンなどの移動体へ適用することが困難でした。
 この問題に対して、NTTは、WiGigの通信電波を用いた無線端末の自律測位に基づき、適切な切り替えタイミングと切り替え先の基地局を制御する手法(以下、「基地局切り替え制御」、と呼ぶ)(図1)を考案し、上りスループット1Gbit/sのまま、500msec以内に基地局を切り替えることを実証しています※5
 しかしながら、基地局切り替え時の基地局探索動作と初期接続動作に伴い、約500msecの通信断が発生するため、再送遅延やパケット損失が必要となり、リアルタイムを要する映像データや常時高スループットを要するデータ一括転送などへの適用が困難となる問題がありました。

図1 通信電波を用いた無線端末の自律測位に基づく基地局切り替え制御技術 図1 通信電波を用いた無線端末の自律測位に基づく基地局切り替え制御技術

2.技術の概要

上記の問題を解決するために、無線端末内に複数の無線機能部を装備する端末主導の動的サイトダイバーシティ制御技術を考案しました(図2)。移動体内のアプリケーションは制御機能部を介して複数の無線機能部と接続します。各無線機能部は各々が無線基地局と接続し、上記の基地局切り替え制御を行います。その下で、制御機能部は下記①②の制御を行います。

  1. 無線品質の良い無線機能部を随時選択して切り替えます。この切り替えは制御機能部上で無瞬断にシームレスに行われるため、アプリケーションには影響しません(図2の①)。
  2. 各無線機能部が互いに異なる基地局へ接続するよう制御します(図2の②)。

②の制御により、各無線機能部の基地局切り替えタイミングをずらし、両無線機能部が同時に基地局を切り替えることを回避します。これと①の技術を組み合わせることにより、片側の無線機能部が基地局を切り替えている間、もう片側の無線機能部で無線伝送を行い、通信断を回避します。以上により、ソフトハンドオーバ機能の無い非移動体無線通信でも、高速移動環境下において、無瞬断で大容量無線伝送を行うことが可能となります。
 また、①②の技術は、L2以下の下位レイヤに閉じた制御であるため、上位レイヤに対して、複数の無線端末に対応した冗長伝送などの特別な処理は不要です。

図2 端末主導の動的サイトダイバーシティ制御技術 図2 端末主導の動的サイトダイバーシティ制御技術

3.実験の概要

本技術の実証実験を、2021年12月7日(火)~8日(水)に鈴鹿サーキットで開催されました「全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト・ルーキーテスト」で、レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」による超高速移動環境を再現するフォーミュラカーの提供とオペレーション、株式会社NTTドコモおよびドコモ・テクノロジ株式会社による超高速移動実験向けエリアの構築、および移動端末の車両搭載に関する技術協力の下、実施しました(図3)。WiGig無線端末(無線機能部)はフォーミュラカーの両サイドポッド、制御端末(制御機能部)はフォーミュラカーの左サイド内部の空きスペース部分に各々搭載し、WiGig基地局は、コース上で最高速度が出るメインストレートのコース両サイドに各々2台設置しました(図4)。制御端末からデータを転送し、各WiGig基地局が受信するレイヤ2での上りスループットを測定することにより、本サイトダイバーシティ制御技術の性能評価を行いました。
 上記基地局切り替え制御技術を適用した場合に、更に、本サイトダイバーシティ制御技術を適用しない場合と、適用した場合の、スループット計測結果を、各々図5(a), (b)に示します。 (a)の場合、基地局2台のゾーンに渡り無線伝送ができていますが、その切り替え時に、約500msecの間、無線伝送ができていない時間帯が発生していることが分かります。一方、(b)の場合、無線伝送できていない時間帯が無く、基地局4台のゾーンに渡り無線伝送できていることが分かります。すなわち、複数基地局間を無瞬断で無線伝送できることが確認できました。
 また、時速260km(計測ポイント※6)の走行中でも、平均スループット1Gbit/s以上のまま、無瞬断に無線伝送できることも確認しました。

図3 実証実験で用いたフォーミュラカー 図3 実証実験で用いたフォーミュラカー

図4 実証実験の実験系 図4 実証実験の実験系

図5 実験結果(レイヤ2での上りスループット) 図5 実験結果(レイヤ2での上りスループット)

4.今後の展開

本技術により、WiGigなどソフトハンドオーバ機能を備えない非移動体無線通信でも、下記ユースケースへの活用が期待できます。

  • 車のドライブレコーダやエンジンデータなどの移動体センサデータを、ゲート、交差点などの通過時に地上側へ一括転送。通信断に伴う上位レイヤの再送などによるスループット劣化を回避。
  • イベント時や工事現場など、ドローンやロボット、移動中継カメラなど、移動体映像データを地上ネットワークへ連続的に映像伝送。通信断に伴うパケット損失や再送遅延による映像転送品質の劣化を回避。
  • 複数の無線端末が異なる基地局に接続するため、高周波数帯の遮蔽対策にも活用。

今後は、様々な利用環境で安定した無線伝送を実現するための技術検討を進めます。
 また、本技術は、WiGigのみならず、高周波数帯かつ複数無線端末・複数端末アンテナを活用する無線伝送システムへの適用が広く期待できる技術です。6G時代に活用が期待されるミリ波・サブテラヘルツ波帯無線伝送システムへの適用検討も進めてまいります。

※12022年2月25日現在、NTT調べ

※2Wireless Gigabitの略。IEEE 802.11ad規格をベースとした60GHz帯を用いる無線LAN規格

※3端末局が同時に複数の基地局と接続し、無瞬断で基地局を切り替えることができる技術

※4Single Carrier Basic Modeの最大伝送速度 IEEE Std-802.11TM-2016 (Revision of IEEE Std 802.11-2012)

※5https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/02/03/210203a.html

※6メインストリート中の第1コーナ手前の計測ポイント。実験場所のWiGig基地局から200m先

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
TEL:0422-59-3663

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