2023年10月13日
日本電信電話株式会社
日本電気株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:島田 明、以下「NTT」) と日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO:森田 隆之、以下「NEC」)は、通信需要に応じたデータセンタ間の大容量低遅延接続の実現に向け、IOWN (※1) Global Forum (※2) にてアーキテクチャの制定が進んでいるAPN (※3) を活用した光波長パス (※4) 設計技術を確立し、トリノ工科大学、コロンビア大学、デューク大学、ダブリン大学と共同で、National Science Foundation (NSF)の COSMOSテストベッド (※5) を用いてフィールド実証を行いました。
本成果により、これまで、熟練作業者が2~3時間以上かけて行っていた光波長パスの設計・設定を自動化により数分で実施することが可能となりました。これはNTTやNEC等がIOWNにて提唱している、必要な対地間をオンデマンドに光波長パスで接続し、分散されたデータセンタ間で大容量低遅延通信を行うデータセンタエクスチェンジ (DCX) サービス(図1)の実現に大きく貢献します。
本開発実証結果に関してはスコットランドで開催された光通信技術に関するヨーロッパ最大の国際会議(49th European Conference on Optical Communications(ECOC))で報告しBest Paperに選出され、スペインで開催されたTelecom Infra Project (※6) Fyuz event (※7) にて紹介しました。
図1. 分散されたデータセンタ(DC)間で大容量低遅延通信を行うDCXサービス
AIを活用したサービスの普及に伴い、データセンタ需要が急増しています。また、光伝送の分野では、デジタルコヒーレント技術 (※8) やシリコンフォトニクス技術 (※9) などの技術革新を背景にDWDM (※10) トランシーバの大容量化・小型化・省電力化が急速に進んでいます。この潮流は、コヒーレントDSPとシリコンフォトニクスが一つのパッケージに実装されたCoherent co-packaged device等の光電融合技術によってさらに加速すると考えられ、DWDMトランシーバを用いた莫大な数の光波長パスを設定するための自動設計・設定技術が求められています。
一方、コンピューティングリソースを収容するデータセンタの建設・運用の分野においても、これまで都市部に集中していたデータセンタに対し、電力やインフラスペースが豊富で災害リスクを分散できる郊外への移転が進んでおり、遠隔地を高速・低遅延に接続する光波長パスの必要性が高まっています。しかしながら、従来のデータセンタ間通信 (DCI) は一対一のシンプルなトポロジーで、かつ単一ベンダ・単一伝送モードで装置を構成するのが一般的であるため、規模拡張性に乏しく、データセンタの分散化を大規模に進めることが困難でした。
そこでNTTは、IOWN Global ForumメンバーであるNECと連携し、都市部に分散している多数のデータセンタ間を光ファイバーで直接接続するデータセンタエクスチェンジ (DCX) のサービス実現に向け、技術検証を行ってきました。DCXは面的に展開した多対多のデータセンタ拠点間において光波長パスを用いて需要に応じて迅速に接続する構成となります (図2)。従来のDCIとは異なり、ユーザアクセス区間・キャリア区間にまたがって複数ベンダの装置を制御し、リンクの光信号品質に適した様々な伝送モードでオンデマンドに光波長パスを設定する必要があるため、DCXの実現には新たな技術開発が必要でした。
図2. 従来のDCIとDCXの違い
オンデマンドにエンド・ツー・エンドの光波長パス接続を提供するには、ファイバー伝搬や光アンプ・光伝送装置・光スイッチのノイズによる光信号品質の劣化を短時間で算出する必要があります。近年、トリノ工科大学が提案したガウシアンノイズモデルにより、長距離伝送時の光ファイバー非線形光学効果に起因する光信号品質劣化を短時間で計算できるようになり、多くのオペレータによってその精度が証明されてきました。一方でDCXが対象とする100~200km程度の短距離区間においては長距離伝送とは光信号品質劣化の支配要因が異なり、光伝送装置などこれまでに十分に考慮されていなかったノイズの影響を加味したモデル化が必要でした。
NTTは本課題解決に向け、ガウシアンノイズモデルのコンセプトを応用し、短距離区間にも適用可能な光信号品質の計算アルゴリズム [1] を確立するとともに、複数のユーザアクセス区間・キャリア区間にまたがる場合や多種多様なWDMトランシーバを利用した場合でも、最小限のプローブ光を通すだけでオンデマンドにエンド・ツー・エンドの光波長パスを設計・設定可能な手法 [2] を提案しました (図3)。そして、トリノ工科大、及びファイバー非線形光学効果と光伝送システム商用実装の知見を持つNECとともにその検証を行いました。さらにNTTは、これを実現するためのユーザ拠点端末と通信事業者機器が連携・協調するアーキテクチャ及びコントロールプレーンのプロトコル [3] を考案してきました。
図3. 光信号品質(GSNR)の加法性に注目した短時間のエンド・ツー・エンド光波長パスの最適伝送モード導出
NECは、NTTが考案したオンデマンド光波長パス設定手法をIOWN Global Forum, OpenROADM MSA(※11), Telecom Infra Project (TIP)により制定されたオープンなインタフェース・アーキテクチャ・ツールを適用したLinuxベースのオープンプラットフォーム(ハードウェア、ソフトウェア、規格)を活用して実装しました。オープンプラットフォームの構成要素として、TIPにてオープンに仕様化されたトランスポンダであるPhoenix, TIPでオープンソースとして開発された「トランスポンダを抽象化しベンダ間の差異を抽象化するインタフェース」であるTransponder Abstraction Interface, 同じくTIPでオープンソースとして開発されたNetwork OS (NOS) であるGoldstoneをベースとしたNEC NOS、OpenROADM MSAで標準化された伝送モード、IOWN Global Forumにてオープンに規定されたAPN機能アーキテクチャなどを活用しました。なおNECは、NTT、Telia、Telefonica、Vodafone、Deutsche Telekom、MTNが定義したネットワークオペレーターとしての商用利用のための要求仕様約160項目をクリアし、ネットワークオペレーターによるテストをパスしたことを証明するSilver Badge認定を世界で初めて獲得しています(※12)。
またNTTとNECは、コロンビア大学・デューク大学・ダブリン大学の協力のもと、NSF出資による米国の学術網「COSMOSテストベッド」にて本手法のフィールド検証実験を行いました (図4)。COSMOSテストベッドはニューヨーク市に構築された学術網であり、マンハッタンに敷設されたフィールドファイバー(BoldynとCrown Castleにより提供)や光アンプ・光ファイバスイッチ・光波長スイッチ(ROADM)を備えています。このCOSMOSテストベッド上にDCXを模擬した、ユーザデータセンタとキャリア網、それらを繋ぐアクセスファイバから構成される実験系を構築しました。NTTとNECが実装した光信号品質の計算アルゴリズム及び光波長パス設定手法により、短距離と長距離のルートについて光信号品質の計算結果をもとに適切な光伝送装置の伝送モードを設定し、約6分で光波長パスの設計・設定が自動的に完了することと、本方式をDCXサービスに適用した場合の誤差が十分小さいことを確認しました。
図4. COSMOSテストベッドにおける技術検証
今後は、ダブリン大学・デューク大学が推進する転送学習を使った光アンプ特性推定などの新規機能との連携や、トリノ工科大学の推進しているオープンな伝送設計ツール「GNPy」との連携などのさらなる性能向上及び標準化活動を推進します。また、Orangeや中華電信などのIOWN Global Forum内の海外キャリアと協力し、光伝送ネットワーク制御のためのオープンなコントローラであるTransport PCE (※13)も活用して、IOWN Global Forumにおける機能アーキテクチャへの反映と他団体への普及・標準化活動を通じてAPNの普及・商用実装を推進していきます。
[1]T. Mano, A. D'Amico, E. Virgillito, G. Borraccini, Y. Huang, K. Kitamura, K. Anazawa, A. Masuda, H. Nishizawa, T. Wang, K. Asahi, and V. Curri, "Accuracy of Nonlinear Interference Estimation on Launch Power Optimization in Short-Reach Systems with Field Trial," in Proceedings of European Conference on Optical Communication (ECOC) 2022, paper We3B.1.
https://opg.optica.org/abstract.cfm?URI=ECEOC-2022-We3B.1
[2]T. Mano, T. Ferreira de Lima, Y. Huang, Z. Wang, W. Ishida, E. Ip, A. D'Amico, S. Okamoto, T. Inoue, H. Nishizawa, V. Curri, G. Zussman, D. Kilper, T. Chen, T. Wang, K. Asahi, K. Takasugi, "First Field Demonstration of Automatic WDM Optical Path Provisioning over Alien Access Links for Data Center Exchange" in Proceedings of European Conference on Optical Communication (ECOC) 2023, paper Tu.B.5.2.
[3]H. Nishizawa, T. Sasai, T. Inoue, K. Anazawa, T. Mano, K. Kitamura, Y. Sone, T. Inui, and K. Takasugi, "Dynamic optical path provisioning for alien access links: Architecture, demonstration, and challenges" IEEE Communications Magazine, Vol. 61, Issue 4, April 2023, pp. 136–142.
https://doi.org/10.1109/MCOM.006.2200567
※1Innovative Optical and Wireless Network (IOWN)
あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤。
NTTニュースリリース「NTT Technology Report for Smart World:What's IOWN?」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/05/09/190509b.html
※2IOWN Global Forum
これからの時代のデータや情報処理に対する要求に応えるために、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスデザインの開発を通じ、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進する新たな業界フォーラム。
https://iowngf.org/
※3All Photonics Network (APN)
IOWN Global Forumにてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワーク。IOWNのユースケースを支えるネットワークとして、必要なときに必要な地点間を光パスでダイレクトに接続可能にする。
https://www.rd.ntt/iown/
※4光波長パス
光トランシーバ間で特定の波長を用いて接続されたコネクション。光トランシーバ間で波長を占有することで低遅延・大容量の通信が可能。
※5National Science Foundation (NSF) COSMOSテストベッド
NSF出資による、ニューヨーク市に構築された学術網。
https://www.cosmos-lab.org/
※6Telecom Infra Project (TIP)
世界で必要とされる高品質な接続性を提供するために数百社を含む多様なメンバーが参画し、オープン化・ディスアグリゲーション化・標準化に基づくソリューションを開発・試験・展開するグローバルコミュニティ
https://telecominfraproject.com/
※7Fyuz
TelefonicaやVodafone等のヨーロッパの通信キャリアやMetaなど、オープンネットワークやディスアグリゲーション・ネットワーク・ソリューションのリーダーや、幅広い通信業界関係者が集まり、高度なコネクティビティ・ソリューションの展開についてプレゼンテーションや展示を行うヨーロッパのイベント。
https://www.fyuz.events/
※8デジタルコヒーレント技術
コヒーレント光受信とデジタル信号処理 (DSP) と組み合わせた伝送方式。コヒーレント光受信とは、受信側に配置した光源と、受信した光信号を干渉させることにより、光の強度だけでなく偏波や位相を利用した変調が可能となり、光伝送の大容量化(周波数利用効率の向上)が可能となる。コヒーレント光受信とDSPを用いた高精度な光信号の補償を組み合わせることにより、大幅な受信感度向上を実現する。
※9シリコンフォトニクス技術
シリコンエレクトロニクスの製造技術をベースとした光集積回路技術であり、微細加工性、集積性、経済性、そして省エネルギー性に優れ、近年の光集積回路の大規模化に必須の技術。
※10Wavelength Division Multiplexing (WDM)
異なる波長は互いに干渉しないという性質を利用して、一つの光伝送路に異なる複数の波長を同時に伝送する方式。WDMにおいて波長を高密度に多重化して超大容量光伝送を実現するものを特にDense WDM (DWDM) と呼ぶ。
※11Open ROADM MSA
ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)システムをベンダ間で相互運用できるようにするためのインタフェースや、仕様を定義しているMSA(Multi Service Agreement)。
http://openroadm.org/
※12NECのオープン光400Gトランスポンダ製品がTIP PhoenixのSilver Badge認定を獲得
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000408.000078149.html
※13Transport PCE
光伝送装置をベンダ固有でない汎用的なインタフェースにて制御するコントローラ。
https://docs.opendaylight.org/en/latest/release-notes/projects/transportpce.html
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
E-mail:nttrd-pr@ml.ntt.com
NEC トランスポートネットワーク統括部
E-Mail: openopt_inquiry@domestic.jp.nec.com
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