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2025年5月13日

日本電信電話株式会社

デバイスの装着なしに超音波で空中にリアルな触感を創出
~触れずにつるつる・ざらざらとした多彩な触り心地を演出~

発表のポイント:

  1. 超音波を皮膚に集中させることで生まれる強い力の感覚に特定の周波数の振動を加えることで、何もない空中に力強く多彩な触り心地を提示する新技術を考案しました。
  2. 従来の超音波技術で提示できる触感は弱く、単調なものに限られていましたが、本研究では、超音波に動きの要素を加えることで強い力が提示できることを世界で初めて発見しました。
  3. この新技術を用いることで、デバイスの装着が不要となり、ユーザ負担の低い力強くリアルな触り心地を体験できるXR空間の実現をめざします。

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、超音波を皮膚に集中させることで生まれる強い力の感覚に特定の周波数の振動を加えることで、何もない空中に力強く多彩な触り心地を提示する新技術を考案しました。本成果の一部は、東京大学との共同研究によるものです。
 超音波を肌に集束させ焦点を作ると、その焦点には非接触な触覚が生まれます。この超音波による触覚技術はデバイス装着が不要なため、ユーザ負担の低い触覚技術として注目されています。本成果では、超音波で生まれる力の感覚を増強する刺激条件を特定しました。さらに、複数周波数の超音波による刺激を自在に合成し、多彩な触感を生み出す超音波触感シンセサイザを考案しました。この技術を発展させることで、デバイスの装着なしにリアルな触感が感じられるXR体験の実現に貢献します。
 本研究成果は触覚分野の国際会議Eurohaptics conference 2024で発表し、Best paper awardおよびBest demonstration awardにノミネートされました。また、5月20日より開催される、コミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2025に出展いたします。

1. 背景

NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、人を深く理解し究める人間科学の基礎研究に取り組んでいます。これまで、人の視覚や触覚の仕組みを解明するとともに、その知見をもとに世界初となる高品質な感覚体験を実現してきました(※参考1、2)。
 人やモノに触れた感覚をユーザに伝えられる技術を確立することで、より没入感の高いXR体験や離れた場でのふれあいなど様々な応用が期待できますが、一方で重たいデバイスの装着なしでは実現は困難でした。そのため、この触覚提示を重たいデバイスの装着なく実現する手法として、超音波による非接触な触覚提示技術の研究が進められています。この技術は、超音波を皮膚の狭い領域に集中(集束)させることで、物体に直接触れることなく、超音波の焦点部位に触覚を伝えるものです。しかし、従来の方法では、超音波で提示できる力が弱いこと、および、提示可能な触感が単調なものに限られるという2つの大きな課題がありました。
 今回、新たに多彩な触感を非接触に生み出す超音波提示技術を考案しました(図1)。この成果はXR空間における豊かな触体験の実現に寄与します。

図1:成果の概要。非接触に力強く多彩な触り心地を生み出す超音波技術を考案。(成果1)超音波の力を強める刺激条件が振動でなく回転であることを特定。(成果2)複数周波数の超音波刺激の強度を調整して合成可能な触感シンセサイザを構築。つるつる、さらさら、ざらざらなど多彩な触感を生み出す。将来的には、遠隔でのソーシャルタッチやふれあい体験の実現につながる技術である。 図1:成果の概要。非接触に力強く多彩な触り心地を生み出す超音波技術を考案。(成果1)超音波の力を強める刺激条件が振動でなく回転であることを特定。(成果2)複数周波数の超音波刺激の強度を調整して合成可能な触感シンセサイザを構築。つるつる、さらさら、ざらざらなど多彩な触感を生み出す。将来的には、遠隔でのソーシャルタッチやふれあい体験の実現につながる技術である。

2. 成果の概要

今回、二つの研究を通してこれらの課題の解決に取り組みました。一つ目の研究では、超音波によって生まれる力の感覚を増強するための刺激条件を調査しました。これまでの研究では、より強い力を感じさせるための手法が模索されてきましたが、どの要素が力を強める決定的な要因かは特定されていませんでした。本研究では「超音波焦点の5Hzの回転」が決定的であることを世界で初めて特定しました。二つ目の研究では、一つ目の研究で解明した強い力を生む要因を活用し、多彩な触感を生み出す超音波触感シンセサイザを考案しました。私たちは普段、皮膚に加わる様々な周波数の触覚刺激を統合することで多彩な触感を感じています。本研究ではそのような触感知覚の仕組みに着目し、複数周波数帯の超音波刺激を自在に合成することで、多彩な触感を非接触に生み出す技術を考案しました。

① 超音波によって感じられる力を強める主要因を特定

一般的に、人は超音波焦点に触れると最大で0.01N(※解説1)程度の弱い力を感じますが、この焦点を肌の上で5Hzで回転させると、感じられる力は20倍程度まで増強されます。回転による刺激は、回転と同じ周期の皮膚振動や刺激範囲の拡大など様々な要素を含みます。しかしながら、従来の研究では、超音波焦点の回転刺激のうち、何が感じられる力を強める決定的な要因なのかは特定されていませんでした。(図2)。
 今回、超音波の焦点を回転させたときに皮膚に現れる5Hzの振動に着目し、調査を行いました。

図2:成果1の位置づけ。焦点の5Hz回転で感じる力が強まることは知られていたが、回転は皮膚の振動など様々な要素を含む刺激のため、どの要素が力を強める主要因なのかは不明であった。本研究では、5Hzの皮膚振動と5Hzの回転そのもののどちらが主要因なのかを調査した。 図2:成果1の位置づけ。焦点の5Hz回転で感じる力が強まることは知られていたが、回転は皮膚の振動など様々な要素を含む刺激のため、どの要素が力を強める主要因なのかは不明であった。本研究では、5Hzの皮膚振動と5Hzの回転そのもののどちらが主要因なのかを調査した。

焦点の回転により、軌道上の各点において5Hzの皮膚振動が生じていることがわかっています。また、過去の研究では、振動子を用いて皮膚の1点に5Hz振動を提示した場合でも特異的に力の感覚が生じることが示されてきました。このため、超音波の焦点を皮膚上で回転させた際に感じられる力を増強するための決定的な要因が「刺激点の5Hz回転」なのか、「5Hzの皮膚振動」なのかは解明されていませんでした。
 本研究では感じられる力を強める要因を調査するため、一定強度の超音波焦点の位置を皮膚上で5Hzで回転させた刺激と、超音波の強度をゼロから最大値の間で5Hzで変化させた振動刺激を生成し、それらによって感じられる力の強さを比較しました(図3)。参加者の左手には超音波刺激が、右手にはロボットアームによる押し込み刺激がそれぞれ提示され、この両者の刺激を比較することで超音波によって感じられる力の強度を定量化しました。
 実験結果より、5Hzの回転刺激は5Hz振動刺激より6倍強いことが分かりました。超音波によって感じられる力を強める主要因は「5Hzの回転」であることを示しており、超音波によってより強い力を提示するための技術の設計に貢献します。本研究成果は触覚分野の国際会議Eurohaptics conference 2024で発表し、Best paper awardにノミネートされました。

図3:(A)実験に用いた超音波刺激。(B)実験の結果。5Hzの回転が、一点への5Hz、10Hzの振動よりも強い力を生み出すことを発見。 図3:(A)実験に用いた超音波刺激。(B)実験の結果。5Hzの回転が、一点への5Hz、10Hzの振動よりも強い力を生み出すことを発見。

② 超音波の音圧をある周波数で揺れ動かす刺激を合成し、多彩な触感を生む超音波触感シンセサイザ

人は、様々な周波数を含んだ刺激を皮膚に受けることで、様々な物体の触感を知覚しています。本成果では、その中でも触覚受容器が敏感に反応する周波数である5Hz, 30Hz, 200Hz(※参考3)を選び、これらの周波数の超音波刺激を自在に合成することで、多彩な触感を創出する新たな超音波触感シンセサイザを考案しました(図4)。まず、①の研究で明らかになった知見を活用し、強い力を生み出す刺激として、5Hzで回転する焦点を提示しています。さらに、その回転する焦点の提示力を30Hz, 200Hzで変調させることで、超音波焦点を肌の上で振動させています。提示力変調の振幅を調整することで、最終的に提示される振動の強さが決定されます。3つの周波数帯の超音波刺激を合成し、ユーザの肌に提示します。
 本技術を用いることで、様々な触感をユーザに提示できます。まず、物体に触れている感覚を焦点の5Hz回転による力の提示で再現できます。さらに、物体の表面を撫でた時に指に加わる振動を、30Hz, 200Hzの合成で再現できます。結果的に、つるつる、さらさら、ざらざらといった様々な強さの粗さ感を自在に調整できるようになりました。本研究成果は触覚分野の国際会議Eurohaptics conference 2024で展示し、Best demonstration awardにノミネートされました。本成果は東京大学との共同研究によるものです。

図4:成果2で考案した触感シンセサイザ。超音波焦点を回転させながら、その提示力を変調することで複数の周波数を合成する。その強度比を変化させることで、多彩な触感を創出する。 図4:成果2で考案した触感シンセサイザ。超音波焦点を回転させながら、その提示力を変調することで複数の周波数を合成する。その強度比を変化させることで、多彩な触感を創出する。

3. 今後の展開

本研究では、超音波の力に回転の動きや特定の周波数の振動を加えることで多彩な触感を力強く提示できる新技術を考案しました。この成果を更に追究することにより、デバイスを身に着けることなくリアルな触感を再現できる触覚インターフェースや触覚コンテンツ(遠隔でのソーシャルタッチやXRでのふれあい体験等)の実現をめざします。今後は、人が様々な物体に感じる触感の忠実な再現や感じられる力を強める触覚の仕組みの解明、更には人間の脳が触感を知覚する仕組みの解明にも発展させ、XRにおける世界初の触体験の実現に貢献します。

【発表した国際会議の情報】

成果1
会議名:Eurohaptics conference 2024
題名:Towards Intensifying Perceived Pressure in Midair Haptics: Comparing Perceived Pressure Intensity and Skin Displacement between LM and AM Stimuli
著者:Tao Morisaki and Yusuke Ujitoko
DOI:https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-031-70058-3_9当該ページを別ウィンドウで開きます

成果2
会議名:Eurohaptics conference 2024
題名:Midair 3D Texture Display Using Focused Ultrasound Based on Superimposing Pressure Sensation and Vibration Sensation
著者:Tao Morisaki, Yasutoshi Makino and Hiroyuki Shinoda

【参考文献】

※1報道発表「同じ速さのはずなのに、手で感じる速さが変わる新たな触覚錯覚を発見~XRでの豊かな触体験につながる世界初の成果~」 https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/03/19/250319b.html

※2報道発表「世界初、錯覚利用で複数モニタの枠を超えて飛び出す巨大3D空中像の提示システムを実現~透明視錯覚を活用した映像の欠損補完により3D映像を汎用的なデバイスで提示可能~」 https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/06/17/240617d.html

※3S. J. Bolanowski et. al., "Four channels mediate the mechanical aspects of touch", The Journal of the Acoustical Society of America, 1988.

【用語解説】

※11Nは約100gの質量の物体を把持して支える力に相当

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所
企画部 広報担当
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