2026年9月14日
受賞・表彰
Eurohapticsは触覚工学・心理学分野の主要な国際会議であり、2026年の口頭発表の論文採択率は17%でした。会議ではBest paper awardおよびBest student paper awardがそれぞれ1件ずつ授与され、NTT研究所からの発表論文はBest paper awardに選出されました。
(以下、NTTコミュニケーション科学基礎研究所はCS研、京都大学を京大と略します)
黒木 忍 主任研究員(CS研)、吹上 大樹 主任研究員(CS研)、西田 眞也 教授/客員研究員(京大、CS研)
人は指先に加わる細かな空間パターンを感じ取ることができ、この能力は点字をはじめとする触覚情報の提示や伝達に広く利用されています。一方で、皮膚に与えられたパターンが、視覚で形を見る場合と同じような「形」としてそのまま知覚されているのかは、これまで十分に分かっていませんでした。実際、先行研究からも、触覚による形の知覚には視覚とは大きく異なる性質があることが示されてきています。
本研究では、触覚パターンを人が実際にどのような「形」として感じ取っているのかを大規模に可視化してその知覚像が大きく揺らぐことを示し、さらに触覚で保持されやすい情報と失われやすい情報があることを明らかにしました。8×8のピンアレイ型触覚ディスプレイを用いて31種類の空間パターンを指先1cm角に提示し、実験の参加者が感じた形をそのまま8×8のマス目上に描いて回答する「描画再生法」を用いています。実験には16名が参加し、約1万試行からなる、これまでにない規模の触知覚像データを収集しました。その結果、同じ人が同じパターンに触れた場合でも、感じ取られる形は試行ごとに大きく変化すること、さらにその知覚像には大きな個人差があることを可視化しました。提示した形がそのまま再現されることは少なく、特に複雑な形状では、一部分だけが断片的に知覚される場合が多く見られました。
さらに、得られた知覚像を画像解析や表現類似性解析によって定量的に調べたところ、パターンのおおまかな位置や広がり、粗密や規則性といった情報は比較的保たれる一方、精密な輪郭や複雑な幾何学的形状は失われやすいことが明らかになりました。これは、触覚による空間パターン知覚が、視覚による空間パターン知覚を単に低解像度にしたものではなく、位置や空間的な統計情報など、限られた特徴を選択的に取り出している可能性を示しています。こうした知見は、人に伝わりやすい触覚情報とは何かを考える上で新しい指針を与えるものであり、今後の触覚インタフェースやバーチャルリアリティ技術の設計に重要な示唆を与えるものとして高く評価されました。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、引き続き人間と情報の本質に迫る基礎理論の構築をめざすとともに、社会に変革をもたらす革新技術の創出をめざした基礎研究を推進します。
図1:さまざまな空間パターンを指先に提示し、そのときに感じた形をマス目上に描いて回答してもらうことで、触知覚像を取得した。同じパターンに触れた場合でも回答は試行ごとに大きく変化し、個人間にも大きな違いが見られた。さらに、提示パターンと回答パターンについて、位置、空間周波数、規則性、構造などの特徴やパターン間の類似関係を解析することで、触覚で伝わりやすい情報と失われやすい情報を定量化した。その結果、おおまかな位置や広がり、粗密や規則性などは比較的保たれる一方、精密な輪郭や複雑な幾何学的形状は伝わりにくいことが示された。
*Best paper award
https://eurohaptics.org/ehc2026/awards/
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