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2025年6月27日

折り返し地点迎えたIOWN、ストックホルムで5周年総会

スウェーデンの首都、ストックホルムで4月下旬、次世代光通信基盤「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の国際推進組織「IOWN Global Forum」の年次総会と情報発信イベントの「Futures(フューチャーズ)」が開かれた。フォーラムは2020年1月の設立から5年が経過し、2030年代の実用化に向けた折り返し地点となるため、様々な議論が活発に交わされた。イベントを現地で取材した(株)MM総研の関口和一代表取締役所長のレポートとしてお知らせします。

IOWN Global Forumが設立5周年に

「IOWN Global Forumは今年で5周年を迎えました」。イベントが開かれたストックホルムのヒルトンホテルで、代表の川添雄彦NTT副社長が開会の挨拶を述べると、約250人の聴衆から大きな拍手が巻き起こった。コロナ禍に設立されたフォーラムは当初、オンライン形式でスタートし、2023年4月に大阪市で初めて対面で総会が開かれた。会員数も順調に増え、通信会社や通信機器メーカー、ユーザー企業などメンバーは160社・団体を超えた。

画像:IOWN Global Forumで開会の挨拶を述べる川添雄彦NTT副社長 IOWN Global Forumで開会の挨拶を述べる川添雄彦NTT副社長

総会では昨年10月に台北市での全体会合で示された3つのPoC(概念実証)に加え、4つめのPoCともいえるIOWNの新たな活用法が示された。ホスト役を務めたスウェーデンの通信大手、エリクソンのゴンザロ・カマリロ氏は「IOWNは携帯通信システムのフロントホールとしても大きな期待が持てる」と訴えた。フロントホールとは携帯電話基地局で制御装置とアンテナを結ぶ光ファイバー回線を指すが、IOWNを応用することで通信の大幅な効率化と信頼性の向上が図れるという。

最初の3つのPoCである「金融機関向けのデータセンターの遠隔配置」「放送局向けの番組リモート制作」「GPU(画像処理半導体)データセンターの遠隔利用」に対し、携帯フロントホールへの活用は通信事業者内部の話だが、「IOWNの新たな活用法が見えたことは極めて有意義だ」とカマリロ氏は指摘する。フィンランドのノキアのリーヴン・レヴロー氏も「通信会社がIOWNのフロントホール活用に足並みをそろえれば通信市場全体の効率化に大きく役立つ」と語る。

画像:IOWN Global Forumでスピーチするエリクソンのカマリロ氏 IOWN Global Forumでスピーチするエリクソンのカマリロ氏

放送番組のリモート制作でエンタメ市場を底上げ

放送局向けの番組リモート制作のPoCにおいても「新たな進展が見えた」とユースケース・ワーキンググループのリーダーを務めるソニーの伊東克俊氏はいう。コンサートやスポーツなどのイベント番組制作ではこれまで現地に派遣した中継車で編集作業をして完成した動画を放送局に送信していた。中継するマイクロ派や衛星回線の伝送容量に限界があるためだが、IOWNを活用すれば素材動画をそのまますべて放送局に送り局側で編集作業ができるようになる。放送局の経営効率化につながるというわけだ。

番組リモート制作にはソニーのほか、TBSテレビなどが参画し、昨年11月にTBSの昼の番組で成果を挙げたことから、いよいよ今年9月の「世界陸上」で本格的な運用を開始するという。伊東氏は「PoCの段階からPoV(価値実証)の段階に移った」と強調する。リモート制作が可能になれば、高額な中継車を現地に送る必要がなくなり、コスト的に中継が難しかった小規模なイベントにも放送カメラを持ち込めるようになる。「エンターテインメント市場の底上げが期待できる」という。

さらに次のPoCの候補として期待できるのが「建設機械の遠隔操作によるリモートコンストラクション」だと伊東氏は指摘する。通信遅延があっては安全性が求められる建設機械の遠隔操作は難しいが、超低遅延のIOWNならそれが可能になる。IOWNを広めるには「わかりやすい事例を示していくことが重要」という。

画像:IOWN Global Forumでスピーチするソニーの伊東克俊氏 IOWN Global Forumでスピーチするソニーの伊東克俊氏

求められる光電融合デバイスの早期実用化

IOWNのネットワークは「APN(All-Photonics Network)」と呼ばれ、100分の1の消費電力、125倍の伝送容量、200分の1の低遅延という3つの特長を持つ。2023年に実用化された「APN 1.0」により高速化と低遅延化にメドをつけ、装置間のデータ伝送効率が上がることで消費電力の低下にもつながった。しかし100分の1の低消費電力化を実現するには、装置間だけでなく、半導体回路の中まで光で接続する必要がある。今回の総会ではそうした電気信号と光信号を相互に置き換える光電融合デバイスの早期実用化へ向けた技術展示もなされた。

フォーラムは原則非公開だが、IOWNの価値を内外に広く知らせようと始めたのが「Futures」だ。1回目は昨年2月にカナダのバンクーバーで開かれた総会で実施され、2回目は昨年10月の台北市での全体会合で催された。3回目が今回の総会で開かれ、5年間に及ぶフォーラムの歩みが示された。解説を務めた米インテルのゲン・ウー氏はスペインのバルセロナで毎年春に開かれる国際モバイル見本市の「MWC(Mobile World Congress)」に言及し、「昨年のMWCで初めてフォーラムのセミナーを実施したが、今年はセミナー以外にフォーラムのブースも出展した」と成果を強調した。

画像:「MWC2025」に出展したIOWN Global Forumのブース 「MWC2025」に出展したIOWN Global Forumのブース

IOWNの推進を応援するスウェーデン政府

ストックホルムの総会にはスウェーデン政府で国際開発協力と国際貿易を担うホーカン・イェヴレル国務長官も駆けつけ、IOWNの推進がスウェーデン経済にとっても重要であることを強調した。イェヴレル氏は「世界経済において地政学的リスクが高まっている」と指摘し、そうした問題を回避するためにもイノベーションの推進が重要だと訴えた。

イェヴレル氏によれば、ノーベル賞を生んだスウェーデンは人口あたりの特許出願数が世界2位を誇り、人口あたりのユニコーンの数も米国に次いで2番目に多いという。最近は生成AI(人工知能)の重要性が高まったことから、そうした技術革新を推進するために政府が8700万ユーロ(約150億円)を充てると表明した。またLLM(大規模言語モデル)技術の育成を図るため政府が持つ公文書へのアクセスを開放し、日本政府とも昨年6月にデジタル分野における戦略的パートナーシップを結んだことを明らかにした。

画像:挨拶を述べるホーカン・イェヴレル国務長官 挨拶を述べるホーカン・イェヴレル国務長官

新しい「Beyond Digital」構想を提唱

今回は代表の川添氏が冒頭の挨拶で提唱した「Beyond Digital(デジタルを超えて)」というフォーラムの新しいスローガンにも関心が集まった。情報システムを動かすにはデータを同期する際のクロック(時計)機能が必要で、現在はGPS(全地球測位システム)などの衛星技術に頼っている。より精度の高い光格子時計のクロック情報をIOWNでリアルタイムに共有すれば、電波障害などにも強い安心・安全な環境が構築できるという。川添氏は「超高速、超低遅延、超低消費電力というIOWNの3つの特長にもうひとつ重要な要素が加わった」と強調する。

フォーラムは技術の標準化ではなく、技術の普及促進を目的としている。ユースケースなどの情報をメンバー間で共有するとともに知的所有権(IPR)の相互利用に向けた環境整備などが期待されている。技術ワーキンググループのリーダーを務めるNTTの川島正久氏は「オープンな技術促進組織は数年で立ち消える場合が多いが、5年が経過した今もメンバーが増え続け、着実に成果を挙げていることを考えれば、100点と言っていい」とフォーラムの活動成果を自賛する。

ボードメンバーである仏通信大手、オレンジのエリック・アルドワン氏も「通信量が今後10年で5倍から9倍に拡大することを考えると、地球温暖化防止のためにもIOWNの普及が重要だ」と訴え、会場に集まった世界の大手通信会社の幹部に導入を呼びかけた。

(役職は取材時点のものです)

■関連リンク

IOWN構想とは
https://group.ntt/jp/group/iown/

IOWN Global Forumとは
https://group.ntt/jp/group/iown/outreach.html

FUTURES Taipei 2024(2024年10月)イベントレポート

離陸期迎えた「IOWN構想」
https://group.ntt/jp/magazine/blog/iown_grobal_forum/

キーパーソンが語る、IOWN離陸に必要なこと
https://group.ntt/jp/magazine/blog/iown_grobal_forum_report/