2020年まで、いよいよあと1年。
スポーツが持つさまざまな魅力をひとりでも多くの人に届けることをめざし、NTTは、テクノロジー・アート・デザインの力で、スポーツの伝え方をゼロから捉え、スポーツが持つさまざまな魅力を、そしてたくさんのワクワクを、一人でも多くの人に体験いただくため 「スポーツ観戦の再創造展」を初開催しました。
視覚観戦、聴覚観戦、多感覚観戦、そして観戦概念の再創造(RE-IMAGINED)を謳うNTTの新たな挑戦は、私たちに、どのようなエキサイティングな体験をもたらしてくれるのでしょうか。
2015年の発表以来、毎回斬新なデモンストレーションを行って注目を集めてきた超高臨場感通信技術「Kirari!」。リアルタイムに競技空間やライブ空間を「丸ごと」配信し、世界中のどこにいても誰もが当たり前のように楽しむことを目指しています。
今回開催されたスポーツ観戦の再創造展では、その基本技術である「任意背景被写体抽出技術」と「Advanced MMT技術」を用いたバドミントン競技のデモンストレーションが披露されました。
これは、試合会場で撮影した4K映像から選手部分を切り出して配信し、パブリックビューイング会場の中の疑似コート上に空中映像として投影することで、まるで選手が目の前でネット越しにプレーしているように見えるというものです。
左:投影時の映像 右:投影されてない会場
手前側と奥側の選手、シャトルがそれぞれ切り出され、忠実に擬似コートに再現
AI(人工知能)などを使ってリアルタイム被写体抽出によってプレー中の選手を切り抜き、音の重ね合わせのタイミングを違和感なく伝送先会場で再現ことができるのは、映像、音声、空間情報などの情報を同期伝送する技術「Advanced MMT」があるからなのです。
今回のデモンストレーションはバドミントンでしたが、複数の選手がたびたび接触するサッカーのような競技などへの応用などは、迫力の一端とともに進化を遂げるためのさまざまなハードルを乗り越えなければならないのです。しかし、近い将来はそれらを解決し、いろいろな競技において遠く離れた場所にいても、 あたかも目の前で選手が試合をしているかのような臨場感あふれるスポーツ観戦ができるようになると期待されています。
わたしたちのスポーツ観戦スタイルを変えるテクノロジーは、「Kirari!」だけではありません。
IoTの時代には、AI/ロボットを用いたドローンやクルマの自動運転など移動してるものもインターネットに接続しながら社会を構築していきます。
ICTとアートの融合による新しいユーザ体験のコンセプト創出や研究を推進しているNTTは、アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ協力のもと、四角い枠に収まった従来の映像表現を、空間全体に広がる映像表現による新しい観戦のあり方を示しました。
六角形の映像ディスプレイを搭載した走行ロボット「グランドボット」の群衆(Swarm)と、それらをコントロールする通信制御技術(Swarm制御)を用いて、スポーツ観戦の概念そのものを再創造しようという試みです。
スポーツ選手の動きを検知・分析し、伝送。ドローンが空中と地上を走り、選手の動きに合わせて地上のドローンが動くことによって立体感のある映像を作り出すことができます。
スポーツ観戦の再創造展では、水泳選手の動きをグランドボットで見せるというデモンストレーションが行われました。グランドボットの群衆が、蜂の巣のように連結や分離を繰り返しながら、泳ぎの美しさやダイナミズムを表現。遠隔地で(映像で)観ることが、会場で(肉眼で)観ることの疑似体験ではなく、まったく新しい体験になるかもしれない。そんな予感を抱かせてくれました。
遠く離れた海の上で行われるセーリング。
醍醐味である、セールが捉えた風の力でぐんぐんと加速し、ヨットが海を駆け抜ける迫力を伝えるのが難しいとされてきました。
NTTの「リアルタイムサラウンド映像合成技術」によって今までにはない、未体験の迫力を陸地にある会場でも臨場感たっぷりの観戦体験ができるようになりました。
この「リアルタイムサラウンド映像合成技術」も、超高臨場感通信技術「Kirari!」の1つ。水平方向に複数配置した4Kカメラ映像をリアルタイムかつシームレスに合成することで、8Kを超える高精細かつ超ワイドな映像を実現。さらに、1枚の画像として違和感がないようにする色調の調整や、投影のために分割した画面の同期にもKirari!が利用されており、様々な競技の新しい観戦スタイルをよりパワフルなものにする技術としても期待されています。
日本の身体障がい者の人口は約436万人*1 。不自由なことで、スポーツ観戦を行うことができない悔しさのほか、さまざまな誤解を招くといった悩みを抱えていると言われています。
そこで、あらゆる場面でのアクセシビリティ向上を考えた環境づくりを行うなど、インクルーシブな競技体感技術がもたらすスポーツ観戦の再創造についてレポートします。
会場では、視覚障がいを持つ選手たちが鈴の入ったボールを転がし、ボールの音を頼りにゴールを狙う競技空間が、任意の場所に音場を作り出す波面合成音響技術を用いて再現されました。視覚に頼らず音だけでスポーツ観戦をする試みは、実際のゴールボール選手の感覚を、誰もが体験できるというものです。
障がい者スポーツの魅力を広く伝える手段として有効的なのはもちろん、スタジアムに立つアスリートしか知りえない感覚を観戦者が実際に体験できる新しいスポーツ観戦の形といえるでしょう。
ゴールボール
3対3でボールに入っている鈴の音・ラインテープの触感を頼りに、相手のゴールの狙って競う。
体験スペースを囲うカタチで敷き詰められたスピーカー
そしてもう一つは、多感覚観戦の再創造です。
こちらは、触覚情報をプラスすることで、障がいの有無に関わらず全員でスポーツを楽しむ新しい観戦のあり方を提案しようという試みです。
「わたしは、生まれつき視力がないので、これまでは、実況の声とボールが跳ねたりする音を聞くのが自分にとってのスポーツ観戦です。」
と話してくれたのは、スポーツ観戦の再創造展の会場で、振動をたよりにテニスの観戦をするというデモを、障がい当事者の立場で行っていた池松さん。
振動でのテニス観戦の様子。
コートの模型から手に振動が伝わり、ラリーの攻防がわかります。
「これまでは、実況の声とボールが跳ねたりする音を聞くのが自分にとってのスポーツ観戦でした。なので触覚情報というのはとても新鮮。
サーブを打つ前に選手たちがボールをポンポンとついて集中している様子や、球の強さ、ラリーのテンポなど、実況だけではわからなかった情報がたくさんあって、とても面白いです。ちなみに私自身は応援専門ですが、同じく障がいを持つ友人の中には競技者も大勢いるので、テクノロジーの力で障がい者スポーツの魅力がもっと広まり、いずれは特殊なものとしてではなく、普通に人気のあるスポーツとして受け入れられるようになればいいなと思っています」と、その思いを語ってくれました。
スポーツには、映像では捉えきれないダイナミズムがあります。そして、スタジアムに立つアスリートにしか知りえない感覚というものがあります。
今、わたしたちはスポーツビューイングのことを日本語で観戦と言っています。しかし、それはすでに、「観る」ということに自らの行為を縛っていることの証ともいえます。
もしかしたら、これからのスポーツビューイングは「感じる」ものにより近づいていくのかもしれません。
そうした多様な現実、たくさんの魅力、そして興奮をテクノロジーの力を使って多くの人たちに伝えることができたとしたら、どのような未来が待っているのでしょう。
NTTはこれからも、通信から生まれるアイデアとテクノロジーの力も使いながら、人々のスポーツ観戦に対するイメージを更新し続けていきたいと考えています。
未知なるスポーツビューイングの姿、そしてスポーツビューイングにおける新しい価値観の発見を期待して。
さあ、2020年まで、あと1年です。