2018年12月11日
情報・システム研究機構国立情報学研究所
東日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)と東日本電信電話株式会社(以下NTT東日本、代表取締役社長:井上 福造、東京都新宿区)と日本電信電話株式会社(以下NTT、代表取締役社長:澤田 純、東京都千代田区)はこのたび、東京都と千葉県に実証実験用として1波600Gbpsの伝送環境を構築し、そのフルスループット(伝送路で送受信可能な最大データ量)の確認、その上での汎用サーバを用いた587Gbpsデータ転送の実現、光波長変更と伝送レート変更による伝送経路変更実験に成功しました。
本実験では、商用環境に1波長600Gbpsにおいて世界最長となる約102kmの伝送環境を構築し、データ転送にはNIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP※1」(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)を用い、サーバ1台での世界最速の587Gbpsのデータ転送速度を記録しました。また光ネットワークの高信頼化に向けた伝送経路切り替えでは、伝送距離を考慮し、光波長の変更に加え600Gbpsから400Gbpsへの伝送レート変更を行い、円滑な経路切り替えに成功しました。
NIIでは、全都道府県や日米間を100Gbps回線で結ぶ学術情報ネットワークSINET5※2を2016年4月から運用しています。素粒子物理学、核融合学、天文学などの先端科学技術分野では、国内外に設置された大型実験装置などで大量データが生み出されており、それを各研究機関に転送し分析を行っています。現在、多数の研究機関が100GbpsインターフェースでSINET5に接続していますが、そのデータ量の増加から、研究機関間で100Gbps回線を使い切るデータ転送が活発になされるなど需要が急増しており、100Gbps超に向けた更なる高速化対応が望まれています。
一方、NTTグループの取り巻く環境として、ビッグデータや映像データの流通拡大、クラウド技術の進展に伴う基幹光ネットワークにおけるトラフィックの急激な増大が続いています。これらに対応するため、次世代の基幹光ネットワークについて、継続的な研究開発・設備導入を進めてきました。
今回の実験では、2018年11月に、NII(千代田区一ツ橋)と千葉県柏市の間に1波長で600Gbps伝送可能な光伝送ネットワーク環境を構築し、3種類の実験を行いました。
NII(一ツ橋)を起点に柏市で光ファイバーを折り返す形でネットワークを形成し、伝送実験を行いました(図1)。600Gbps伝送環境は、NTTが開発した世界最先端のデジタル信号処理技術、ならびに最大100GbE(ギガビットイーサ)を6本多重可能なOTUCn技術※3を1チップで実現(図2)することにより1波100Gbps~600Gbpsの伝送レート可変トランスポンダ※4を実現し、NTT東日本が600Gbpsでデータ転送可能なネットワーク(実験3では400Gbps経路も)を構築しました。600Gbps信号のフルスループットは試験用テスターで確認しました。商用環境において約102kmファイバーを介した600Gbps伝送の実証は世界初となります。
600Gbps伝送環境下にて、MMCFTPを用いて1台のサーバから2台のサーバへの転送、および2台のサーバから1台のサーバへのデータ転送を行いました(図3)。実験の結果、587Gbpsおよび590Gbpsのデータ転送速度で40TByteの大容量データを転送完了させることに成功しました。40TByteは一般的な25GByteのブルーレイディスクに例えると1,600枚分で、この大容量データを約9分で転送できることになります。この結果により1組のサーバで587Gbpsのデータ転送を可能とする見込みを得ました。
柏市にも伝送装置を設置して伝送距離の異なる2つの伝送経路を構成し(図4)、伝送路の障害を想定した経路切り替え実験を行いました。伝送装置の経路変更機能、光波長変更機能および伝送レート変更機能を用いて、経路切り替えに合わせ、波長変更を行った上で1波600Gbpsから1波400Gbpsへの速度変更を行い、通信回線が再確立されることを確認しました。データ転送では、経路切り替え前には600Gbps波長で580Gbpsを計測し、経路切り替え後には、データ転送が再開され、400Gbps波長で393Gbpsのデータ転送速度を計測しました。
なお、本実験の一部は、総務省の委託研究「巨大データ流通を支える次世代光ネットワーク技術の研究開発」により得られたデジタルコヒーレント光伝送技術を利用しています。
最先端の学術研究では、実験装置の大型化・高性能化、ハイパフォーマンスコンピュータを用いたシミュレーション、さらにはIoTなどから収集されるビッグデータなど、扱うデータ量が爆発的に増加しています。NIIでは、データ流通や大量の各種観測データを効率的に行うためにも、MMCFTPを先端科学の発展のために提供し、実利用を通じて安定化と更なる高速化を図っていく予定です。
NTT東日本、NTTは、これからも伝送容量の増大に対応するため、大容量伝送技術開発を引き続き推進していく予定です。
《図1》実証実験ネットワークの構成
《図2》世界最先端のデジタル信号処理技術とOTUCn技術
《図3》データ転送実験
《図4》伝送経路切り替え実験の構成
(※1)「MMCFTP」:ビッグデータを転送する際は同時に多くのTCPコネクションを使用することが特徴。MMCFTPは遅延の大きさやパケットロス率などのネットワークの状況に応じてTCPコネクション数を動的に調整することで、安定した超高速データ転送を実現するファイル転送プロトコル。
(※2)SINET5:大型実験施設等の共同利用、各研究分野での連携力強化、世界各国との国際連携、学術情報の発信やビッグデータの共有、大学教育の質的向上、地方創生や地方大学の知識集約型拠点化・産学連携等のための学術専用のネットワーク。全都道府県にノード(ネットワークの接続拠点)を設置して100Gbps回線で結び、約900の大学、研究機関等に対してサービスを提供している。
(※3)OTUCn技術:100Gbps超のサービス(超高速イーサネット信号等)を収容し、光ネットワーク上を高信頼にデータ伝送する技術。
(※4)トランスポンダ:光信号を送信、受信する機能を有する装置。
370Gbpsでのデータ転送実験に成功/400Gbps技術の実用化へ道
https://www.nii.ac.jp/news/release/2016/0524.html
以上
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