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2026年5月22日

検証から実装ステージに入ったIOWN、シドニーで年次総会

次世代光通信技術「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の国際推進組織「IOWN Global Forum」の年次総会と技術公開イベント「FUTURES(フューチャーズ)」が4月下旬、オーストラリアのシドニーで開かれた。オセアニア地域での総会開催は初めてのことで、メンバー約220人が参加し、シドニー大学の教授や地元通信会社の経営幹部らが講演した。テーマとしてはこれまでのAI(人工知能)データセンターなどへの利用に加え、鉱山でのマイニング(採掘)や宇宙通信、光量子コンピューティングといった新しい分野に向けた光技術の可能性が議論された。現地を取材した(株)MM総研の関口和一理事長のリポートとしてお知らせします。

IOWN活用でオーストラリアが重要なデータセンターに

「AIの爆発的な需要拡大により、2030年までにアジア太平洋地域で約8,000億ドル(約128兆円)のデータセンター投資が見込まれている。牽引役は中国だが、これは世界需要の約4分の1を占め、オーストラリアはそこで優位な立場にある」。IOWNの技術公開イベント「FUTURES」で講演したシドニー大学米国研究センターのオリビア・シェン教授は、こう言ってAI時代のオーストラリアへの期待を指摘した。オーストラリアはアラスカ州を除く米国本土とほぼ同じ面積を有し、太陽光や風力など自然エネルギーにも恵まれ、「データセンターを設置するには格好の場所」というわけだ。

シェン教授は「シドニーとメルボルンにはすでに約250のデータセンターがあるが、新たな建設計画が進んでおり、データセンターの投資先としてオーストラリアは米国に次ぐ世界第2位の地位にある」と指摘する。法制度や国家安全保障など安全面でも欧米諸国と肩を並べており、データセンター建設に対する反対運動も起きていないと語る。最近は世界各国がデータセンターのソブリニティ(主権)を重視しており、欧米並みのセキュリティ対策やプライバシー保護を行っているオーストラリアはデータセンターの有力な建設候補地だという。

FUTURESで講演するシドニー大学のシェン教授FUTURESで講演するシドニー大学のシェン教授

今回、IOWN Global Forumがシドニーで年次総会を開いたのも、そうした優位な条件を備えるオーストラリアをIOWNのグローバル戦略に取り込んでおきたいという思いからだった。年次総会のホスト役を務めた米アクセンチュアのチーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)、ジェファーソン・ワング氏は「IOWNの超低遅延、超高速大容量のネットワークを使えば、オーストラリアのような再生エネルギーが利用できる電力コストの安いところにデータセンターを配置できるようになる」と述べた。

マイニングや宇宙空間にもIOWNの新たな可能性

オーストラリアではNTTデータグループも様々な事業を展開しており、年次総会の基調講演には同社グローバル戦略イノベーション担当の最高責任者、中澤里華氏が登壇した。中澤氏は「オーストラリアは鉱業や宇宙開発など新しい分野に光技術を応用するのに魅力的な場所だ」と述べ、シドニーに同社のイノベーションセンターを新たに設置する計画を明らかにした。鉱業はオーストラリアの輸出金額の6割を占める重要産業だが、採掘現場では作業員が常に危険にさらされている。IOWNを活用して作業のモニタリングや採掘装置の遠隔操作などができれば、安全対策と作業の効率化を一度に実現できるとして、光技術の可能性に期待を寄せた。

NTTデータは、Transatel(トランザテル)を通じ、地上波と同じ通信SIMを使ったIoT端末向けの衛星通信サービスを提供している。2027年には衛星観測子会社、Marble Visions(マーブルビジョンズ)を通じ、キヤノン電子や地理情報大手、パスコと共同で地球観測衛星も打ち上げる計画だ。地球上の様々な情報を衛星から観測し、大気のない宇宙空間でデータを処理する「宇宙データセンター」の構築が目的である。処理済みのデータ量の少ない分析結果だけを光技術を使って地球に転送すれば、効率のよい地球観測が可能になる。こうした計画はIOWN構想がめざす「デジタルツイン」の構築にもつながるという。

オープニングで基調講演するNTTデータの中澤里華氏オープニングで基調講演するNTTデータの中澤里華氏

IOWN Global Forumはこれまで金融機関向けのデータセンターの分散化やGPU(画像処理半導体)データセンターの共同利用、テレビ番組のリモート制作といった技術のPOC(概念実証)を行ってきた。鉱業や宇宙開発への新たな取り組みはフォーラムの活動が7年目を迎え、新たなステージに入ったことを意味する。今まではAI時代に即した情報システムや通信ネットワークなど情報技術自体の高度化が目的だったが、採掘現場や宇宙空間でのIOWNの活用はサイバー空間だけでなく、現実世界への光技術の応用をめざしているといえる。

IOWNで倉庫の自動化やグリーンイノベーションを推進

年次総会では様々な現実世界へのIOWNの活用例が紹介されたが、関心を呼んだのが物流倉庫を効率化しつつグリーントランスフォーメーション(GX)を促す取り組みと、スマートシティ分野へのIOWNの活用だ。フォーラムのマーケティング運営委員長を務めるエリクソン(スウェーデン)のゴンザロ・カマリロ氏は「今回の年次総会の成果を一言で表すなら、技術実証のフェーズから市場展開や社会実装のフェーズに移ったことだ」と解説する。IOWNやAIという言葉に次いで、AIで現実世界を制御する「フィジカルAI」という言葉もよく耳にした。

シドニーのあるニューサウスウェールズ州には5~6カ所の再生可能エネルギーゾーンがあり、シドニーの産業拠点とこれらのグリーンデータセンターをIOWNのAPNでつなぎ、再エネでGPU計算リソースを確保する計画も進んでいるという。シドニーの北に150kmほど離れたニューカッスルにはオーストラリア最大の石炭火力発電所があり、かつては鉄鋼業が盛んだったが、IOWNでシドニーと接続できるようになれば、この街を新たなデータセンター拠点に変えられると期待されている。

経済性検証へ「テクノ・ビジネス・サミット」開催

IOWNを使った様々なプロジェクトが動き始めたことから、シドニーの年次総会では「テクノ・ビジネス・サミット」と名付けた経済性検証のためのミーティングが初めて開催された。サミットを主導するNTTの川島正久IOWN推進室ディレクタは「IOWNを成功させるには、技術提供者のコミュニティーと利用者のコミュニティーをそれぞれ同時に起ち上げなければならない」と指摘する。そのため1年ほど前から「TEAM(ティーム=テクノ・エコノミック・アナリシス&マーケティング)」という経済分析手法を導入しており、そうした考え方を広めるのがサミット開催の目的だ。

IOWNを広めていくにはフォーラムによる推進活動だけでなく、技術の標準化も欠かせない。フォーラム会長を務める川添雄彦NTTチーフエグゼクティブフェローは年次総会と技術公開イベントの両方で挨拶し、複数の技術標準化組織との連携が進んでいることを発表した。川添氏は「今年2月にはデータセンター技術などの国際標準化組織、OCP(オープン・コンピュート・プロジェクト)と提携し、3月には無線通信技術の標準化組織、ETSI(欧州電気通信標準化機構)ともMOU(基本合意書)を交わした」と述べ、会場から注目された。

IOWN Global ForumにおいてPresident and Chairpersonを務めるNTT チーフエグゼクティブフェロー 川添雄彦IOWN Global ForumにおいてPresident and Chairpersonを務めるNTT チーフエグゼクティブフェロー 川添雄彦

年次総会にはフォーラムと提携したOCPのジョージ・チャパリアン最高経営責任者(CEO)も当初参加する予定だったが、ビデオメッセージを寄せ、両組織の提携の重要性を訴えた。チャパリアン氏は「IOWNが掲げている『AI Computing Continuum(エーアイ・コンピューティング・コンティニュウム=クラウドからエッジまで連続したAIの計算基盤)』という考え方に我々も賛同しており、両組織が互いに協力することでAI時代の計算処理に求められるオープンなハードウエアの仕様書をまとめることができるだろう」と期待を示した。

IOWNがAIと量子コンピューターとの懸け橋に

川添氏はまた「IOWNには超低消費電力、超低遅延、超高速大容量という3つの特長があるが、実はもうひとつ4つめの機能がある」と強調する。AIと量子コンピューターをつなぐ架け橋になるという機能だ。量子コンピューターは米IBMや富士通などが推す超伝導方式とNTTが推す光方式など複数がある。いずれにしても量子コンピューターがもたらす大量のデータは現在の電気通信では伝送に無理があると語り、光技術がその受け皿になると指摘した。また高度な計算をするにはシステム間で同期をとる必要があり、それには光技術が適していると強調する。「超低遅延で、遅延してもIOWNなら遅延時間を計算できる」としてIOWNの今後の可能性を訴えた。

フォーラムの技術運営委員会の副委員長を務めるノキア(フィンランド)のリーブン・レブロー氏は「ネットワーク保護もフォーラムにとっては重要なテーマだ」と指摘、「イーサネットやIP(インターネット・プロトコル)のレイヤー(階層)にもそれぞれセキュリティ規格があるように、光通信のレイヤーにも『L0sec』というセキュリティ規格がある」と指摘した。量子コンピューター時代には現在の暗号は破られるといわれており、そうした中でも安全性が保たれる「Quantum Safe Networking(量子耐性ネットワーキング)をどう構築するか」といった議論もフォーラムでは取り組んでいるという。

ノキア(フィンランド)のリーブン・レブロー氏ノキア(フィンランド)のリーブン・レブロー氏

APN普及へ来年はフォーラムにとって節目の年に

光通信システムの世界最大手、米シエナのラルフ・ロドシャット・バイスプレジデントは「光技術の重要性に多くの人々が気付いたことで、フォーラムにとっても来年は重要な節目の年になる」と指摘する。ハイパースケーラーはすでにIOWNのAPNと似たような光接続を自前で構築しており、フォーラムが早くAPNを広めなければ、様々な規格が乱立してしまうと警鐘を鳴らす。その意味でもシドニーの年次総会や技術公開イベントはIOWN Global Forumの存在を示す重要な場だと感じた。

(役職は取材時点のものです)

■関連リンク

IOWN構想とは?
https://group.ntt/jp/group/iown/

IOWN Global Forumとは
https://group.ntt/jp/group/iown/outreach.html

「IOWN構想」に動く米IT業界、ダラスで中間会議開催
https://group.ntt/jp/magazine/blog/igf_futures/

折り返し地点迎えたIOWN、ストックホルムで5周年総会
https://group.ntt/jp/magazine/blog/igf_stockholm/

FUTURES Taipei 2024(2024年10月)イベントレポート
離陸期迎えた「IOWN構想」
https://group.ntt/jp/magazine/blog/iown_grobal_forum/

キーパーソンが語る、IOWN離陸に必要なこと
https://group.ntt/jp/magazine/blog/iown_grobal_forum_report/