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2019年11月11日

日本電信電話株式会社

明滅する背景上に置いた印刷物に動きの錯覚を生じさせる情報提示手法「ダンシングペーパー(Danswing paper)」を開発

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下「NTT」)は、明滅する背景上に置いた印刷物に、まるでそれが動いているかのような印象を与えることのできる錯覚を利用した情報提示手法「ダンシングペーパー(英語名:Danswing paper(※1)」を開発しました(Danswingはdanceとswingの2語に由来する造語)。
 本技術は、特殊なパターンで描かれた明暗輪郭線をもつ印刷物を明滅する背景上に置くだけで、印刷物が動いているように感じられ、明暗輪郭線のパターンを変更することで、印刷物が動いて見える方向や動いて見える量を操作することができます。
 これにより、印刷物の視覚表現の幅が広がり、例えば、明滅させることができる電子ペーパーと本錯覚技術を組み合わせることにより、これまでは時間解像度の問題で実現が難しかった電子ペーパー上の動き表現を、錯覚を利用することで実現することができます。また、電子ペーパーと本技術の組み合わせにより、屋外の明るい場所に設置された紙媒体の広告やサインに動き印象を与えることができます。
 本成果は、2019年11月14日~15日に開催される「NTT R&Dフォーラム2019」(※2)にてご覧いただけます。

研究の背景と経緯

NTTでは、人間の感覚情報処理の科学的理解を目指した研究を行っています。その科学的理解の過程で様々な錯覚現象を取り扱います。NTTでは「錯覚の実世界実装」というテーマを掲げ、感覚情報処理研究分野で報告されている錯覚を実世界の物体に適用し、これまでになかった豊かでわかりやすい感覚表現を実現する情報提示手法の提案を行っています。
 NTTはこれまで、視覚情報提示の分野において、「変幻灯」や「浮像」といった光投影技術に基づく錯覚情報提示手法を提案してきました。これらの光投影技術では、印刷物に錯覚を生じさせる映像を投影することで、見ている人に鮮やかな動きの印象を錯覚的に提示することが可能です。一方で、視覚効果を生じさせるためにはプロジェクタを設置する必要があり、これが制約となることで当該技術が適用できないシーンもありました。プロジェクタを利用せずに、印刷物に錯覚印象を与える情報提示技術の考案が課題として残っていました。

本研究では、輪郭線の明暗成分と背景との明滅との相互作用が生み出す動き錯覚に注目しました。先行研究(Gregory & Heard, 1983)1において上記錯覚が生じることは知られていました。一方で、その錯覚を印刷物などの実世界対象に利用した例はありませんでした。また、先行研究では単純な平行往復運動を生じさせる方法だけが提案されていましたが、より豊かな動き印象を生じさせるための方法については提案されていませんでした。

引用文献

1.Gregory, R. L. & Heard, P. F. (1983). Quarterly Journal of Experimental Psychology (1983) 35A, 217-237

研究の成果

本研究では、輪郭線の明暗成分と背景との明滅との相互作用が生み出す動き錯覚を利用することで、明滅する背景上に置いた印刷物に錯覚的な動きの印象を与えるためのデザイン手法を提案しました。まず、印刷物においても当該錯覚が生じることを明らかにしました。また、明暗輪郭線の形状や幅を操作することで、単純な平行往復運動だけではなく、回転、拡大・縮小、変形といった複雑な動きの印象も与えることができるようになりました。

今後の展開

今後も錯覚を実物体に適用することで、知覚的に豊かで、面白く、斬新な情報提示手法の提案を行っていきます。

技術のポイント

(1)印刷物の動きを生み出す明暗輪郭線を生成する手法

本技術では、印刷物に輪郭線を与える際、図1のようなレイヤー構造を利用しています。まず、動きの効果を与えたい印刷物の画像を準備します(ここではグレーのハートに回転効果を与える例を説明しています)。次に、グレーのハートと同じ形の白いハートと黒いハートを生成します。そして白いハートを反時計回りに少し回転させ、黒いハートを時計回りに少し回転させます。その後、グレーのハートが一番手前に来るようにグレーのハート、白いハート、黒いハートを合成します。こうすることで、グレーのハートの輪郭線に沿って、白いハートと黒いハートがはみ出して見えます。このはみ出して見える部分が明暗輪郭線であり、錯覚を生み出す成分です。こうして合成した画像を、明暗輪郭線を残しつつ切り取り、明滅するディスプレイ上に配置することで、印刷したグレーのハートに回転する印象を与えることができます。

図1 印刷物の動きを生み出す明暗輪郭線を生成する手法 図1

(2)心理物理学実験に基づき、本技術が効果的になる明暗輪郭線の幅を特定

 図1を例にとると、どのくらいハートを回転させるかによって、効果の見え方が変わってきます。たくさん回転させると効果は大きくなるのですが、回転させすぎると、逆に動きの印象がなくなってしまいます。これは、動きの印象をもたらす明暗輪郭線の視覚情報処理が特定の粗さの画像情報を利用しているからだと考えられます。当該錯覚を生じさせる映像を生成し、錯覚をもたらす画像粗さを操作した実験を行った所、オリジナルの錯覚映像と同程度の錯覚をもたらすのは、限られた画像粗さの範囲であることがわかりました(図2、エラーバーは標準誤差)。

図2 心理物理学実験に基づき、本技術が効果的になる明暗輪郭線の幅を特定 図2

また、錯覚を生じさせる明暗輪郭線の幅を調べる実験を行ったところ、輪郭線の幅が視角0.25度(※3)以下で錯覚が生じることが明らかとなりました。したがって、本技術を印刷物に適用する際には、明暗輪郭線の幅を0.25度以下にすることが望ましいと考えられます。

(3)電子ペーパーを用いることで屋外でも錯覚的な動きを印刷物に与えることが可能

 本技術を明滅可能な電子ペーパーと組み合わせて利用することで、屋外の広告やサインで動きの印象を印刷物に付与することができます。電子ペーパーは反射型のディスプレイであるため、陽の当たる場所でもその明滅をくっきりと感じることができます(通常のディスプレイでは輝度が足りず明滅がくっきり見えない場合もあります)。印刷物の明暗も光の反射によって知覚されるので、電子ペーパーの明滅と組み合わせることで、明るい場所に配置された広告やサインに動きの印象を付与することができ、視覚情報を豊かに、また、目を引く形で表現することができます。

用語解説

※1Danswing Paper は日本電信電話(株)の商標です

※2サイトURL https://labevent.ecl.ntt.co.jp/forum2019/info/index.html (別ウインドウが開きます)

※3視角対象が目の網膜に張る角度のことを指す。1cmの対象を57.3cm離れた位置から見た際には網膜に投影される対象像の角度が1度となる。

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
TEL:046-240-5157

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