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2024年4月26日

日本電信電話株式会社

世界初、通信電波を用いた距離測定に基づく60GHz帯無線LANと5G/LTEのシームレス切り替え実験に成功
~フォーミュラカーを用いた実証実験による、超高速移動環境における通信断回避を実証~

発表のポイント:

  1. 無線LANなどの非移動体無線通信システムを移動体端末に適用しようとすると、そのエリア端で特性が劣化し通信断してしまう課題に対し、高周波数帯無線の性質である通信電波を用いた距離推定で、非移動体無線通信システムのエリア端を検出して事前に通信を移動体無線通信システムに切り替えることで、通信断を回避するシームレス切り替え技術を考案
  2. フォーミュラカーを用いた実証実験により、超高速移動環境において通信断を回避できることを実証
  3. 移動環境においても通信断を恐れず非移動体無線通信システムを利用することが可能となり、移動体端末におけるさらなる無線通信の大容量化を期待

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、は、通信電波を用いた距離推定により非移動体無線通信システムである60GHz帯無線LAN(WiGig※1)と移動体無線通信システムである5G/LTEとをシームレスに切り替える技術を考案するとともに、フォーミュラカーを用いた超高速移動環境下においてその実証実験に成功しました。
 本技術は、従来、屋内など移動範囲が限定的な移動体端末のみ利用可能だった高周波数帯非移動体無線通信システムを、移動体無線通信システムとシームレスに組み合わせることにより、高速移動列車やドローンなどの広範囲に移動する移動体端末においても利用を可能とする技術です。本技術により移動体端末においても高周波数帯非移動体無線通信システムを移動体無線システムのオフロード先として利用することが可能となり、無線通信の大容量化が期待できます。
 なお、本技術については2024年5月16日(木)~17日(金)に開催予定の「つくばフォーラム2024※2」にて紹介します。

1. 背景

IOWN※3/6G時代における無線通信大容量化の手段として、ミリ波帯、サブテラヘルツ帯など従来より高い周波数帯に加えて、無線LANなどスポット的に大容量通信が実現できる非移動体無線通信システムを活用して、無線通信を大容量化していくことが期待されています。
 これらの期待に対応できる高周波数帯を用いた非移動体無線通信システムの一つとして、WiGig※1があります。WiGigは無線LANの60GHz帯版であり、1周波数チャネルで最大4.62Gbit/s※4の無線伝送が可能な非移動体無線通信システムです。ただし、一つの基地局でサービスを提供できるゾーンは移動体無線通信システムと比較して狭く、かつ通信が完全に途絶してからでないと接続先基地局や通信方式の切り替えができない問題により、ドローン、車、高速列車など広範囲を高速に移動する移動体端末に対して非移動体無線通信システムを活用することは困難でした。
 この問題に対してNTTでは、まず非移動体無線通信システム自体を移動体端末に対応させること、つまり非移動体無線通信システムの基地局切り替えを通信断なく行うことを目的として、WiGigの通信電波を用いた端末位置測位に基づいて適切な基地局切り替えタイミングと切り替え先を指示制御する基地局切り替え制御技術※5と、複数無線部の連携制御により基地局切り替え中の通信断を回避する端末主導動的サイトダイバーシティ制御技術※6を考案し、フォーミュラカーを用いた超高速移動環境において、その有効性を実証しました(※5、※6)
 しかしながら、上記問題は移動体端末が非移動体無線通信システムのエリアを出るときにも顕在化します。すなわち、現在接続中の基地局に対して接続を維持しようとする非移動体無線通信システムの性質により、その接続が切断し完全に通信が途絶してからでないと移動体無線通信システムへの切り替えが行われないため、一時的にネットワークとの通信が切断される課題がありました(通信断:図1)。このように、移動体端末において非移動体無線通信システムを活用して無線通信を大容量化するためには、非移動体無線通信システム自体を移動体対応させるだけでなく、移動体無線通信システムとのシームレスな連携を実現する制御技術が必要でした。

図1. 移動体無線と非移動体無線を融合させた場合の課題 図1. 移動体無線と非移動体無線を融合させた場合の課題

2. 研究の成果

上記課題を解決するためにNTTは、高周波数帯無線の広帯域性に基づいて、WiGigの通信電波そのもので高精度な通信距離推定を行うことが可能である性質に着目し、端末側で推定距離に基づいて非移動体無線通信システムのエリア端に到達することを検知して、非移動体無線通信システムとの接続が切断される前に移動体無線通信に切り替えることにより、通信断を回避してシームレスに通信を移動体無線通信システムに切り替える手法(以下、シームレス切り替え技術)を考案しました。
 本手法では、高周波数帯無線通信に必要となるビーム制御情報の往復転送時間の情報を取得することにより、GPSなどの他の測位システムに頼ることなく端末側において非移動体無線通信システムの基地局との通信距離を推定します。通信距離が想定された非移動体無線通信システムの通信限界距離に近づくと、端末は非移動体無線通信システムとの接続が維持されている状態でも、通信を移動体無線通信システム側に切り替えます。
 これにより、非移動体無線通信システムのエリア端における伝送特性の劣化の影響を受けることがなく、シームレスに通信を移動体通信システム側に切り替えて通信を維持することが可能となるため、移動体端末において非移動体無線通信システムを活用してさらなる無線通信の大容量化が実現できます。

図2. 提案するシームレス切り替え技術 図2. 提案するシームレス切り替え技術

3. 実験の概要

本技術の実証実験を、「2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権 鈴鹿サーキット 公式合同テスト」(2024年2月21日(水)~22日(木))において、レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」による超高速移動環境を再現するフォーミュラカーの提供とオペレーション、株式会社NTTドコモおよびドコモ・テクノロジ株式会社による超高速移動実験向けエリア構築および端末の車両搭載に関する技術協力の下、実施しました。
 車載端末は図3に示すように、WiGig無線部2個を車両後部に、5G/LTEに対応したスマートフォン1台をコックピット内に、それらの機能を制御する機能制御部を車両左側のサイドポンツーン内に搭載しました。無線機能部においてスループット測定用のダミーデータを5[Mbit/s]のレートで生成するとともに、提案するシームレス切り替え技術の制御に基づいて通信システムを切り替える構成としました。
 地上側は鈴鹿サーキットのメインストレート左右に、WiGig基地局を6局設置し、メインストレートにおいてはWiGigを用いて通信するとともに、コース内のそのほかの場所では5G/LTEを用いる構成としました(図4)。6局のWiGig基地局には先に述べた基地局切り替え制御技術※5を適用するとともに、端末側には2個のWiGig無線部を用いる端末主導動的サイトダイバーシティ制御技術※6を適用することで、WiGigゾーン内では通信断が発生しない構成としています。また、車両側から送信されたダミーデータはWiGigゾーン内ではWiGig基地局を経由して、またそのほかの場所では5G/LTE基地局を経由して、地上側に設置したスループット測定用サーバに届く構成とし、当該サーバで測定されたスループットを評価しました。
 図5にシームレス切り替え技術を適用しない場合の、図6にシームレス切り替え技術を適用した場合のスループットを示します。図5では、WiGigから5G/LTEの切り替えのタイミングでスループットが0[bit/s]となる領域が数十メートル程度(時間にして数百ミリ秒程度)あることがわかります。これは、非移動体無線通信システムの性質により、一度WiGigが完全に切断した後でないと、通信を5G/LTEに切り替えることができない従来の課題によるものです。一方、図6では、提案するシームレス切り替え技術の適用により、WiGigから5G/LTEへの切り替えにおいて、通信断が発生していないことがわかります。すなわち、シームレス切り替え技術の適用により、非移動体無線通信システムのエリア端において、通信電波による測距機能を用いて事前に通信を移動体通信システム側に切り替えることで通信断を回避できることを確認しました。
 なお、本技術実証時の車両速度は550m付近で最高278km/h、注目するWiGigから5G/LTEへの切り替え地点においても254km/h以上であり(実験用に搭載したGPSにより測定)、超高速な移動環境において提案するシームレス切り替え技術が有効であることが実証されました。

図3. 実験に用いたフォーミュラカーと車載システム構成 図3. 実験に用いたフォーミュラカーと車載システム構成

図4. 実験構成 図4. 実験構成

図5. 提案技術を適用しない場合のスループット特性 図5. 提案技術を適用しない場合のスループット特性

図6. 提案技術を適用した場合のスループット特性 図6. 提案技術を適用した場合のスループット特性

4. 今後の展開

今回の実験を通して、高周波数帯非移動体無線通信システムの一つであるWiGigを高速な移動体端末に適用し、非移動体無線通信システムにおいて通信電波による測距機能を用いてそのエリア端への接近を検知し、接続が切断される前に予め通信を移動体無線通信システムに切り替えることで、特性劣化を回避して安定的に大容量伝送を実現できることを確認しました。
 本成果は、WiGigのみならず様々な高周波数帯無線伝送システムにおいて、また今回の実験のような超高速移動環境でなくとも、端末が移動する移動環境において、GPSなどの外部の測位システムに頼ることなく、エリア端での特性劣化を回避して適切に他の無線システムを選択する技術として活用が期待できます。具体的には、下記のようなユースケースにて、従来用いられてきた5G等の移動体無線通信に加えて、高周波数帯無線LANなどの非移動体無線通信システムをも活用することが可能になります。

  • 高速移動する列車や車へのスポット的な映像データ等の大容量伝送
  • 車両におけるセンシングデータ、具体的には車両ドライブレコーダの映像データや、LiDAR※7等による周辺スキャンデータのゲート等での地上側への大容量伝送
  • 移動するドローンやロボット等の移動体映像データの地上ネットワークへの大容量伝送

今後は、今回の実証実験結果を活用して、本技術を様々な利用環境で適用しさらなる安定的な大容量無線伝送を実現するための技術検討を進めます。なお、本実験は非移動体無線通信システムをターゲットとしたものではあるが、基盤となる技術は高周波数帯の性質に着目した測距機能であり、非移動体無線通信だけでなく、あらゆる高周波数帯の無線通信システムに活用が期待できる技術です。本技術を通じ、IOWN/6G時代において検討が進められる高周波数帯無線通信システムへの適用についても検討を進めていきます。

【用語解説】

※1WiGig
Wireless Gigabitの略。IEEE 802.11ad規格をベースとした60GHz帯を用いる無線LAN規格。

※2つくばフォーラム2024
https://www.tsukuba-forum.jp/当該ページを別ウィンドウで開きます

※3Innovative Optical and Wireless Network(IOWN)
IOWNは、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタル・ツイン・コンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。

※4Single Carrier Basic Modeの最大伝送速度 IEEE Std-802.11TM-2016(Revision of IEEE Std 802.11-2012)

※5https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/02/03/210203a.html

※6https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/02/25/220225a.html

※7LiDAR
Light Detection And Rangingの略。レーザ等の光を照射し、周囲に存在する物体からの反射を観測することにより周辺環境を把握するセンシング手法。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
情報ネットワーク総合研究所 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com

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