2024年5月13日
日本電信電話株式会社
発表のポイント:
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、デジタルカメラを用いてインフラ設備を撮影した画像から自動的に鋼材の腐食を検出し、腐食の深さ(腐食による鋼材断面の欠損量)を推定する画像認識技術を確立しました。鋼製の管路設備を用いた検証の結果、誤差0.44mmの精度で鋼材断面の欠損量を推定できることを確認しました。
本技術により、画像から自動的に設備の腐食箇所とその箇所における残存する鋼材の厚さを把握できるようになるため、設備の耐久性能や耐荷性能を高精度に評価することができます。これにより、適切な時期と方法で補修を実施できるようになるため、維持管理コストの縮減が可能になります。
本技術は2024年度中にNTTグループ会社での実用化を予定しています。また、橋梁、鉄塔、ガードレール等といった様々なインフラ設備への技術拡大を進め、持続可能な社会の実現に貢献します。
なお、本技術については2024年5月16日(木)~17日(金)に開催予定の「つくばフォーラム2024※4」にて紹介します。
図1.デジタルカメラにより撮影した鋼管の画像から腐食の検出と腐食の深さを推定
橋梁、鉄塔、ガードレール等といった鋼構造のインフラ設備が数多く設置されていますが、インフラ設備の老朽化は大きな社会問題になっています。これら設備の老朽化を進行させる主な劣化要因は鋼材の腐食です。設備に発生した腐食は進行に伴い鋼材の断面を欠損させるため、設備の耐久性能や耐荷性能は徐々に低下し、最終的には破損や崩壊につながる可能性があります。そのため、設備管理者は点検により劣化状態を確認し、残存する耐久・耐荷性能を適切に診断することが重要です。
しかしながら、現行の点検方法では残存する耐久・耐荷性能を正確に評価することは困難です。耐久・耐荷性能の正確な評価をするための構造計算には鋼材の厚さが必要不可欠ですが、現行では作業員が目視により設備の外観を点検しているため、腐食の深さ(腐食による鋼材断面の欠損量)は把握できません。超音波を用いて鋼材の厚さを計測する方法はありますが、探触子を計測箇所にあてる必要があり、設備全体では多くの作業コストを要すため現実的に実施できません。また、橋梁などの大型構造物の点検では、足場設置等のコストが発生する場合があります。
鋼構造物の高精度な診断による安心安全な設備の維持管理に向け、簡単かつ低コストで鋼材の厚さを計測できる方法が必要です。
デジタルカメラで撮影した鋼構造物の画像から自動的に腐食を検出し、腐食による鋼材断面の欠損量を推定する画像認識技術を確立しました。本技術は、NTTが保有している通信インフラ設備である鋼製の管路設備(鋼管)を用いて構築しています(図1)。
鋼材断面の欠損を伴わない軽微な腐食が発生した領域、断面欠損を伴う腐食が発生した領域、腐食が発生していない健全な領域に区別して判定します。これにより、鋼材断面の欠損を伴う監視性の高い腐食の発生領域を定量的に把握できます。
NTT独自のデータベースを用いた機械学習モデルの構築により高精度な推定を実現しました。腐食の広がり、色、錆こぶの大きさ等といった腐食の進行により変化する様々な外観特徴の中から鋼材断面の欠損量と関連性の高い特徴を明らかにしました。この特徴に基づき様々な進行度合いの腐食画像をグループ化し、各グループで十分かつ均等になるように腐食の画像とその画像における断面欠損の計測値を用意しました。
このように適切な特徴に基づく画像選別と正確な欠損量計測で構築した質の高いデータベースが高精度な欠損量推定を可能にしました。図1の画像はパイプカメラ※5を用いて鋼管の内面を撮影した様子です。腐食の検出では断面欠損を伴う腐食が発生した領域を検出します。その後、腐食の進行度合いを解析することで管路断面の欠損量を推定します。最後に、通信用の鋼管は健全な状態で厚さ4.20mmであるため、断面の欠損量を引くことによって腐食箇所における残存する鋼材厚さは2.95mmと算出できます。
図2.本技術を用いた鋼管の鋼材の厚さの推定
現場に設置されていた鋼管を用いてパイプカメラで鋼管内面の撮影を行い、撮影画像から本技術を用いて腐食による鋼材断面の欠損量を推定しました。また、本技術で推定を行った腐食30箇所で鋼管を断面方向に切断し、電子顕微鏡を用いて断面の欠損量を測定しました(図2)。
鋼管の鋼材断面の欠損量の実測値と、本技術による推定値の結果を図3に示します。相関係数※6は0.803であり高い相関を確認しました。推定値の実測値に対する平均誤差は誤差0.20mm、ばらつき※7は0.12mmでした。これらの結果より、鋼材断面の欠損量は誤差±0.44mmの精度※8で推定できることを確認しました。
図3.本技術の検証結果
本技術により、構造物の鋼材の厚さを定量的に把握できるようになるため、残存する耐久・耐荷性能を正確に診断できます。これにより、適切な時期と方法で補修が可能になり、設備機能を安心安全に確保したうえで維持管理コストを縮減できます。
本技術は2024年度にNTTグループ会社での実用化を予定しています。また、橋梁、鉄塔、ガードレール等といった様々なインフラ設備への技術拡大を進めて、社会インフラ全体の維持管理コストの増加等といった課題解決により持続可能な社会の実現に貢献します。
※1.鋼製管路
通信/電気ケーブルやガス、上下水等を収容または配送するための管
※2.耐久性能
設備が老朽によって使用に耐えられなくなるまでの物理的耐用年数
※3.耐荷性能
設備が実際に作用する荷重に耐えうることができる性能
※4.つくばフォーラム2024
https://www.tsukuba-forum.jp/
※5.パイプカメラ
管路の点検時に使用する小型のカメラ装置であり、管路内面の撮影が可能
※6.相関係数
2つのデータ間にある線形な関係の強弱を測る指標であり、1に近いほど正の関係が強い
※7.ばらつき
本技術による断面の欠損量の推定誤差の標準偏差(σ)
※8.精度/推定精度
95%信頼区間(2σ)の数値
本件に関する報道機関からのお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
情報ネットワーク総合研究所 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com
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