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2024年6月17日

日本電信電話株式会社

スマートフォンを回転させることで手足の器用さを定量的に測る手法を開発
~成長・加齢・トレーニングに伴う器用さの変化を見える化し、運動能力向上に貢献~

発表のポイント:

  1. 定量化が難しかった手や足の「器用さ(※1)」を、その重要な側面である「運動のばらつき」に注目し、短時間スマートフォンを一定の動きでぐるぐる回すだけで簡単に「見える化」する技術を開発し(図1)、日常生活の中でも手軽に利用可能な方法を創出しました。
  2. 子供から高齢者までを対象に本手法で器用さと関係する運動のばらつきを評価した結果、年齢によるばらつきの増減が明らかになり、個人ごとに同年齢層での器用さの度合いを評価できるようになりました。また、利き手を矯正した人の器用さのバランスが異なること、利き手矯正者は足の器用さバランスも変化することが明らかになりました。
  3. 本研究を発展させることにより、スポーツ種別に則したトレーニング効果や医療や介護分野での運動リハビリによる回復過程の「見える化」、日常生活でのモニタリング等の活用が期待されます。

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下 NTT)は、スマートフォンを使って短時間の繰り返し運動の「ばらつき」を定量的に評価することにより、「器用さ(※1)」の度合いを簡単に見える化する方法を開発しました(図1)。本手法により、特殊な器具を使わずに手軽な計測が出来るようになり、足の動きの器用さも計測することが可能となりました。器用さを手軽に評価する本技術の発展により、スポーツ種別に則したトレーニング効果や運動リハビリによる回復過程の「見える化」が期待されます。
 本成果は、6月24日より開催される、コミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2024に出展いたします。

図1 スマートフォンを使った手軽な手足の器用さの測定 図1 スマートフォンを使った手軽な手足の器用さの測定

1. 研究の背景

人間は、学習によって複雑な感覚情報をもとに思ったとおりに動くことができるようになります。しかしロボットと異なり、どんなに上達した動きでも「ばらつき」が生じ、思った通りに動かすことはできません。この運動のばらつきは、長年、脳運動研究分野でも注目されてきました。手や足を自在に動かす脳の情報処理の仕組みを理解するためには、成長やトレーニングによって運動のばらつきがどのように変化するかを調べ、そのメカニズムを理解することが必要です。これまでNTTでは、人に寄り添うICTを構築するため、感覚や運動生成に関わる脳情報処理を理解する研究を行ってきました。本研究では、人の「思った通りに動かせる」能力と深く関係する「動きのばらつき」を、より簡単に計測する方法について検討を進めてきました。
 従来、手を「思った通りに動かせる」能力は、例えば一定時間に細い棒を穴に何本入れられるか、あるいは小さなブロックを幾つ運べるか、などの作業効率が評価に使われてきましたが、それらの手法は特殊な器具を使用するため、専門家や研究者の使用に限定されることが多く、手軽な評価が困難でした。そのため、幅広い年齢層を対象に多人数の計測することは多くの労力を要とし、成長や加齢の影響、あるいは個人のトレーニングによる器用さ(※1)の変化や左右のバランスの状態を簡単に調べることは困難でした。また、足の器用さについては、片足のバランス計測をする手法などが用いられていましたが、その手法は全身の感覚情報処理の機能も含む評価になってしまうため、足自体を動かす器用さの計測としては十分ではありませんでした。

2. 研究内容

本研究では、思った通りに動かせるかどうかを簡単かつ信頼性高く計測するため、比較的速い速度で繰り返し円運動をする際の「動きのばらつき」に注目しました。単純な繰り返し運動は短時間でもばらつきを評価することができます。今回、測定を受ける人がスマートフォンを手に持つ、あるいは足に装着し15秒ぐるぐる繰り返し回す運動(図2)をした際の、加速度軌道のばらつき量を定量化するアルゴリズムを開発しました。

図2 手足の繰り返し運動の「ばらつき度」から「器用さ」の度合いを見える化 図2 手足の繰り返し運動の「ばらつき度」から「器用さ」の度合いを見える化

右利きの方の両手両足の加速度軌道の一例(図2)を示していますが、左右の軌道を比較すると、手足ともに左よりも右のほうが軌道のばらつきが少ないように見えます。開発したアルゴリズムでその軌道を解析することにより、その「ばらつき度(※2)」を定量化することができます。
 4歳から88歳までの総計608名から得られたデータを解析し、手足の利き側・非利き側(※3)の「ばらつき度」を示したグラフ(図3)から、手足ともに利き側・非利き側で、ばらつき度は成長とともに減少し、その後一定となり、加齢によって増大することが明らかになりました。また、手足ともに利き側のほうが非利き側よりもばらつき度が小さいことがわかりました。

図3 手足の動きのばらつき度は成長と共に減少し、高齢で増大 図3 手足の動きのばらつき度は成長と共に減少し、高齢で増大

次に、この利き手と非利き手の器用さの違い、ばらつき度の左右差がトレーニングに影響されるかを検討するため、右利き、左利き、右手への矯正者(質問紙調査で右利き538人、左利き27人、右手への矯正43人)に分けて、ばらつき度を評価しました(図4)。右利きの人は左手の方がばらつき度が大きく、左利きの人は右手の方がばらつき度が大きくなっています。また、右手を使うように矯正された人は、左手と右手両方ともばらつき度が少ないことがわかります。右手を使うように矯正トレーニングを受けた場合には、右手のばらつき度が減少するだけでなく、左手のばらつき度は増えていない(器用さが低下しない)ということも明らかになりました。

図4 右手を使うように矯正されると、手と足のばらつき度とその左右差に影響 図4 右手を使うように矯正されると、手と足のばらつき度とその左右差に影響

同様に足のばらつき度も、手の左利き、右利き、そして矯正のグループに分けて解析しました。手が右利きの人は、右足の方がばらつき度が少ない(すなわち足も右利き)のに対して、手が左利きの人は、左足と右足のばらつき度には差がありませんでした。さらに、右手を使うように矯正された人でも、通常は足を使う運動の矯正はされませんが、左足より右足のばらつき度が小さくなっていました。矯正という利き手を変えるトレーニングは、左手と右手の器用さ度合いの差を変化させるだけでなく、さらに足の器用さ度合いの左右差にまで影響を及ぼすことが今回の実験で明らかになりました。

3. 今後の展開

今後は実験参加者を増やし、より信頼性が高い知見を得ていくとともに、競技等による手足の器用さ度合いの違いなどを明らかにしていきます。器用さの向上が容易に可視化できるため、スポーツジム、部活動、リハビリ施設などスポーツ分野や医療介護分野で、個人の器用さのモニタリングや評価などに活用することが期待できます。また、運動機能と脳情報処理の関係を探るツールとしての展開もめざします。

【用語解説】

※1器用さ:「器用な動き」は、身体部位(指、手、腕、足、体幹など)の「うまい動かし方(動きのコツ)」と「動きの安定性」という2つの要素が絡み合って実現されています。一般には「うまい動かし方」に注目がされがちですが、動かし方は目的により千差万別です。本研究では、どのような動きにも見られる「動きの安定性」に注目し、動きのばらつき度を定量化することで、手や足の「器用さ度合い」を見える化する方法を創出しました。

※2ばらつき度:周期運動における連続した2周期の3次元加速度軌道の違いを距離尺度で表現し、全周期に対して平均を求めた量。

※3利き側、非利き側:利き手は、エジンバラ利き手調査法により判定した、書字をしたり、ボールを投げたり、日常生活で主に使う側の手。足の場合は、コーレン利き足調査法により判定した、ボールを蹴ったり、階段を上がるときの一歩目になる側の足。

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所
企画部 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com

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