2026年10月29日
お知らせ
NTTと、「駿河湾海洋DXプロジェクト」のもと、学校法人静岡理工科大学と国立大学法人静岡大学が共同で設置したマリンインフォマティクス研究機構(以下、MI研究機構)は、海の変化を先読みし、その結果を次の観測や人の判断・行動につなげる「海洋インテリジェンス・デジタルツイン」の実証に向け、駿河湾をフィールドとした共同研究を開始します。本共同研究を通じて、海の変化を捉え、未来を先読みしながら、人の営みを海の状態に適応させることで、海からの視点で世界を捉え直し、海の豊かさと人の営みがともに豊かになる「海世界」の実現をめざします。
図1 海世界の概念図
近年、気候変動に伴う海水温や海流の変化、沿岸域における人間活動の影響などにより、海洋環境や海洋生態系が大きく変化しています。水産資源を持続的に利用しながら、海洋生態系や生物多様性と調和した海洋利用を実現するためには、現在の海の状態を把握するだけでなく、リアルタイムにその変化を予測し、未来の変化を見据えながら、人の行動を適応させ、ネイチャーポジティブな海の環境を形成することが重要です。
本研究のフィールドである駿河湾は、最深部が約2,500mに達する日本一深い湾であり、富士山頂から湾最深部までの高低差は6,000m以上という世界有数の高低差を有します。急峻な海底地形に加え、外洋や黒潮、河川流入などの影響を受けることから、海況や生態系が複雑かつダイナミックに変化する海域です。こうした多様で変化に富む駿河湾は、海の変化を捉え、予測し、その結果を観測や人の判断につなげる技術を検証する上で重要なフィールドです。海流や水温、栄養塩等の変化が、生物ホットスポット(プランクトンや魚類などの生物の生産や分布が周辺よりも顕著な海域)の形成や移動に対しても複雑な影響を与えます。こうした変化を先んじて捉え、海洋調査や観測、漁業等の産業の現場判断や意思決定に活かすためには、最新の観測データのみならず、シミュレーションやAIなどの最先端技術を駆使して予測し、それらのデータを統合して活用することが必要です。さらに、広大な海洋において必要なデータを限られた観測機会で捉えるためには、観測すべき場所や時間を最適に選択して収集し、その結果を再び予測に反映し、予測情報をより豊かに、より精確にして活用することも重要となります。
こうした背景から、本共同研究では、海の環境や生態系、生物ホットスポットなどの変化を先読みし、「観測・予測・判断」の循環を通じて、人の意思決定を支援する「海洋インテリジェンス・デジタルツイン」を構築します。駿河湾での実証を通じて技術を高度化し、将来的には国内外のさまざまな沿岸海域への展開をめざすとともに、海と人がともに豊かになるネイチャーポジティブな「海世界」の実現に向けた共同研究開発を開始します。
本共同研究では、MI研究機構が研究開発を進める駿河湾デジタルツイン「駿河湾マリンインフォマティクスシステム」を基盤とし、さらに発展させた「海洋インテリジェンス・デジタルツイン」の実現とその活用に向けた技術検証を共同で進めます。具体的には、駿河湾の生態系や生物ホットスポットのリアルタイム予測、予測に基づく適応型海洋観測の実現、予測情報を海洋調査や観測のみならず、漁業等の海洋産業に活用する実海域での適用実証にも取り組みます。
MI研究機構が研究開発を進める駿河湾に特化した超高解像度駿河湾海洋モデル「Ultra駿河(ウルトラするが)※1」およびデータ処理基盤技術と、NTTが有するAI・高速計算技術を連携し、海況や生物ホットスポットをリアルタイムに予測する技術を検証します。高解像度なUltra駿河は駿河湾の状態を詳細に再現・予測できる一方、計算負荷が高く、リアルタイム観測データを反映して超高速に予測することが課題です。そこで、駿河湾域で取得したリアルタイム観測データにNTTの技術を適用しUltra駿河への高速な反映と予測を実現するとともに、ここで獲得されたデータを活用してさらに駿河湾AIサロゲートモデル※2を構築し、さらなる高速リアルタイム駿河湾予測を実現します。実海域での利用も見据え、船上GPU・エッジ計算、IOWN APN※3等の情報通信技術を活用して、通信環境や求められる即時性に応じて処理場所やデータ伝送方法を切り替えるロバストなネットワーク技術についても実海域での検証を推進します。
MI研究機構(静岡大学)が有するMarine Vision AI、水中ドローン、海洋IoT等を活用し、駿河湾における藻場、プランクトン、魚類等の海洋資源を効率的かつ継続的に観測し海洋環境を把握します。従来の観測結果との比較による検証に加え、高速リアルタイム駿河湾予測データに基づいて予測の不確実性や観測データの情報価値等を評価し、「いつ、どこで、何を観測するか」を動的に選択し、必要なデータを得ることで、次の一手を決定するための最適指針、例えば最適漁場に関する指針の有効性を検証します。将来の駿河湾の海洋産業における新たなDX利用に直接結びつけられるような実トライアルを行い、その効果と適用可能性を実証します。
駿河湾をフィールドとして(1)のリアルタイム駿河湾予測と(2)の適応型観測を連携し、生物ホットスポットの予測情報を海洋産業における課題解決に対する適用手法を新たに提案します。例えば、複数の候補海域から「どこを観測するか」「どこへ向かうか」などの意思決定に予測情報を活用した事例と、従来情報の利用事例を比較することで、その有効性を評価します。また、NTTが開発する大規模言語モデル「tsuzumi※4」を用いて、利用者の目的や専門性に応じて予測情報を解釈・説明する技術開発も併せて推進します。
※実証場所、対象および実施方法については、共同研究開始後、フィールド条件や関係者との調整等を踏まえて決定します。
図2 海洋インテリジェンス・デジタルツインの概念図
AIリアルタイム海洋予測技術の研究開発を担当します。広域海中センシングで取得したリアルタイムな観測データをモデルへ更新する手法を適用するとともに、データを学習したAIサロゲートモデルを構築します。最新の観測データを入力することで、海況や生物ホットスポットの現在と未来をリアルタイムに推定・予測する技術を開発し、駿河湾における海洋産業の現場判断に必要な各種実用に適した時間内でのデータ更新技術の実現をめざします。
Ultra駿河による高精度予測シミュレーションの研究開発を担当します。駿河湾巨大データセットの構築やデータ解析基盤技術の研究開発により、駿河湾の海洋環境および生態環境を超高解像度で高速に再現し、予測します。また、駿河湾マリンインフォマティクスシステム上においてNTTおよび静岡大学の技術開発成果を統合し、デジタルツインとしての機能を高度化し、駿河湾海洋DXの新たな活用分野を開拓します。
駿河湾における観測および適応観測技術の開発、海洋生物解析の研究開発を担当します。Marine Vision AIを用いて海中画像や映像から生物の種類や分布等の自動解析技術の開発、海洋IoTや水中ドローン等を活用して、海洋環境や海洋生物の各種データを取得します。また、予測の不確実性や観測データから付加価値情報を生成し、「いつ、どこで、何を観測するか」を動的に選択する適応型観測技術の研究開発を推進します。
各機関の技術を連携し、観測、予測、現場におけるデータ・情報活用を一体的に研究および技術開発し、駿河湾を実海域の一例として、研究開発成果の社会実装可能性を検証します。また、IOWN APN、船上GPU・エッジ計算などの情報通信技術を活用し、船上、海上、陸海上間で必要な情報を迅速に処理・伝送するロバストなネットワーク技術を実証するとともに、大規模言語モデル「tsuzumi」による予測情報等の解釈や説明を含む現場での意思決定支援への活用可能性を検証します。
写真1 共同研究に参画する3機関の代表者
(左から、NTT宇宙環境エネルギー研究所 所長 前田裕二、静岡大学 学長 日詰一幸、静岡理工科大学 学長 木村雅和)
今後、駿河湾での各種実証結果を基盤に、海洋インテリジェンス・デジタルツインの技術確立を共同でめざすとともに、適用シーンとしての漁業、養殖における活用や、生物多様性保持など駿河湾資源管理への応用、沿岸域管理などの幅広い海洋関連産業の課題解決への適用を進めます。さらに、駿河湾で培った技術を、国内外の沿岸域へ展開し、海を豊かにし、その恵みを持続的に活かすネイチャーポジティブな海洋産業サービスの創出をめざします。
※1Ultra駿河:駿河湾の海洋環境を再現・予測する駿河湾に特化した海洋モデル。
※2AIサロゲートモデル:データを学習し、AIにより計算負荷の高いシミュレーションを高精度で近似するモデル。
※3IOWN APN:IOWN構想を支えるAll-Photonics Network。大容量・低遅延なデータ伝送を可能にするネットワーク技術。
※4tsuzumi:NTTが研究開発する大規模言語モデル。
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