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2024年11月22日

離陸期迎えた「IOWN構想」

10月、台湾で「IOWN Global Forum」の公開イベント「FUTURES Taipei 2024」が開かれた。次世代光通信基盤のIOWNを推進するこのフォーラムは2020年1月の設立からまもなく5年を迎える。8月のNTTと台湾の通信最大手、中華電信との世界初の国際間APN(All-Photonics Network)開通後に台北市で開かれた今回のイベントでは様々な研究成果が発表された。イベントを現地で取材した(株)MM総研の関口和一代表取締役所長のレポートとしてお知らせします。

1) 「FUTURES」概要

「FUTURES」は「IOWN Global Forum」の総会の際に開かれる公開イベントで、今回は10月の台北市での第7回総会に合わせて実施された。カナダのバンクーバーに続き今回が2回めの開催となる。
 「IOWN Global Forum」には約160社・団体がメンバーとして名を連ねており、台北市で開かれた総会には約20カ国から約370人が出席し、「FUTURES」には外部からも約180人が参加した。

画像:IOWN Global Forum 会長を務める川添雄彦 IOWN Global Forum 会長を務める川添雄彦

2) フォーラム会長 川添NTT副社長の冒頭挨拶

総会はフォーラムの会長を務める川添雄彦NTT代表取締役副社長の挨拶で始まり、ゲストとして招かれた台湾政府の黄彦男数位発展部長(デジタル大臣)がスピーチした。川添会長は「台北市と東京は約3000km離れているが、APNによりわずか1000分の17秒の遅れでデータを送ることに成功した」と強調、「将来的にはIOWNはサイバーセキュリティ対策にも力を発揮するだろう」と述べた。黄デジタル大臣は「台湾はデジタル戦略に力を注いでおり、IOWNを通じた協力関係はそれを大きく促すだろう」と応えた。
 また、国際APN接続に尽力した中華電信電気通信研究院の李榮瑞副所長が「IOWN構想の実現に向けた協力関係と活動状況」と題して講演を行った。李副所長は「生成AIの登場によってデータ容量が爆発的に増えている」と指摘、IOWNを活用することで異なるコンピューターのメモリ同士でデータを直接転送する「RDMA(Remote Direct Memory Access) over APNが実現できる」と期待を込めた。これが実現すれば、異なるクラウド基盤を国境を超えて一体運用できるようになるというわけだ。

黄彦男デジタル大臣

黄彦男デジタル大臣

画像:中華電信電気通信研究院 李榮瑞副所長

中華電信電気通信研究院 李榮瑞副所長

3) 2025年に3つのユースケースを実装へ

「FUTURES」では、「ユースケースWG(作業部会)」の議長を務めるソニー技術開発研究所の伊東克俊通信技術開発部統括部長と、「テクノロジーWG」の議長を務めるNTT研究開発マーケティング本部研究企画部門の川島正久IOWN推進室IOWN技術ディレクタがそれぞれ登壇した。2つの作業部会はIOWNを支える技術の開発とそれを実装するユースケースの実証を担っており、クルマの両輪のような役割を果たしている。
 ユースケースWGの伊東議長は「フォーラムは2020年に設立された際、2030年の実装という目標を掲げたが、ようやくその一部が2025年から26年にかけて実現できるメドが立った」と指摘、具体例として3つのユースケースを挙げた。ひとつは金融システムにおけるデータセンターの分散化、2つめは放送コンテンツ制作のリモート化、3つめが生成AI(人工知能)利用などに必要なGPU(画像処理半導体)を使ったデータセンターの分散利用だ。
 金融分野では都市部におけるデータセンター需要が高まっているが、土地の取得コストやエネルギー効率などから新たな設置が難しくなっている。そこでデータセンターを地方に分散し、IOWNのAPNで結ぶことで、設備が都市部にあるのと同じようにデータセンターを運用できるようになるという。
 スポーツやライブイベントなどの放送番組制作ではこれまで編集機器を搭載した中継車を現地に派遣したり、放送局との間をつなぐマイクロ波や衛星回線などを用意したりする必要があった。APNを利用すれば、映像をそのまま放送局に送って放送局側で編集したり、現地のカメラを放送局側から遠隔操作したりできるようになる。また系列局の編集機器をキー局に集約し、編集機能を共同利用することも可能になる。生成AIの急速な普及により、GPUサーバーを抱えるデータセンターの需要が高まっているが、大量の電力を消費するため、環境への負荷が大きな課題となっている。APNを活用すれば、GPUのデータセンターを遠隔から共同利用したり、設備を人口の少ない郊外に移したりできるようになる。作業部会ではこれを「グリーンデータセンター」と呼び、その実現に向けた様々な課題に取り組んでいる。
 また2025年に向け実装可能だとした3つのユースケースについて、開発を担うメンバー企業の代表がパネルディスカッション形式で説明した。金融データセンターの分散化では三菱UFJ銀行、放送コンテンツのリモート化ではTBSテレビやソニー、GPUの共同利用などグリーンデータセンターの構築ではネットアップの技術者が登壇し、IOWNを活用した新しいビジネスモデルの姿を展望した。

画像:3) 2025年に3つのユースケースを実装へ

4) IOWNを支える技術

川島議長は「我々にとってはPoC(概念実証)がゴールではない」と述べ、無線技術と光技術を融合したRAN(無線アクセスネットワーク)の構築や、通信会社の垣根を越えたROADM(光伝送装置)の開発、無線基地局間をAPNで結ぶ「Mobile Fronthaul over APN」などについて関係者での合意が必要だと強調した。また個別取材では、異なるコンピューターのメモリ間でデータを直接転送できる「RDMA over APN」が実現すれば、監視カメラの映像を遠く離れた場所で分析したり、データセンターについても郊外に設備を置いてサーバーを仮想化し、電力消費を大幅に抑えたりできるようになると述べた。
 また3カ月前にフォーラムメンバーに加わったばかりの米コンピューター設計・製造大手、スーパー・マイクロ・コンピューターのタウ・レン技術担当上級副社長が講演し、「データセンターの電力需要は2020年から2030年にかけて3倍以上に高まる」と指摘、「我が社はサーバーの水冷技術にも力を入れているが、そもそも熱を発しないIOWNはAI時代を支える重要な技術になりうる」と称賛を送った。

画像:テクノロジーWGの議長を務める川島正久 テクノロジーWGの議長を務める川島正久

5) 国際展開へIOWNに大きな期待も

台湾にはパソコンメーカー、半導体受託製造会社など多くのIT関連企業が存在している。中華電信は大量のデータ需要に対応できるようデータセンターを拡張する一方、2030年までに二酸化炭素の排出量を半分に減らし、データセンターの電源供給を100%再生エネルギーに変えていく目標を掲げている。
 また台湾は大規模地震などの課題を抱えており、製造工場を日本や米国などに建設し、製造拠点の分散化を進めている。個別インタビューに応じた中華電信の黄志雄執行副総経理兼CTO(情報統括責任者)は「大規模地震などには国境を超えたデータセンターの共同運用が重要になる」と述べ、環境対策と安全対策の両方の面から、IOWNへの期待とNTTや「IOWN Global Forum」との協力関係の重要性を強調した。
 筆者は「IOWN Global Forum」が発足する2年ほど前から「IOWN構想」の核となる光電融合技術の話を聞いていたが、当時は通信だけでなく演算処理も光技術でできるという指摘はにわかには信じ難かった。しかし国内外の優秀な研究者や技術者を国際フォーラムという形で世界から集い、今回、具体的なユースケースの発表につなげたことは大きな成果だと感じた。IOWNは久しぶりの日本発の技術でもあり、ぜひとも2025年に向けてIOWNが離陸することを期待したい。

■関連リンク

IOWN構想とは?
https://group.ntt/jp/group/iown/

IOWN Global Forumとは
https://group.ntt/jp/group/iown/outreach.html