検索パネルを開く 検索パネルを閉じる メニューを開く メニューを閉じる

2025年1月24日

キーパーソンが語る、IOWN離陸に必要なこと

イベントレポートとあわせて、IOWNを離陸させるためには何が必要か。2024年10月に台湾で開かれた「IOWN Global Forum」に参加したキーパーソンに今後の戦略と構想実現に必要な施策について聞いた。
 (株)MM総研の関口和一代表取締役所長のレポートとしてお知らせします。

<全2回の第2部/第1部へ>

KDDI 先端技術研究本部 基盤技術研究部部長 林 通秋氏

KDDIが「IOWN Global Forum」に入ってから2年になるが、参加した理由はオールフォトニクスの技術を日本企業中心に国際標準化したいと思ったからだ。実はKDDIも光技術は長年研究しており、今年7月にはNTTや富士通、ソニーなどの日本企業7社で国際電気通信連合電気通信標準化部門(ITU-T)に標準化を働きかけた。恐らく2026年には国際標準としての勧告を受けられる見通しだ。通信の新しい技術を普及させるには国際標準を取ることが重要だ。

ITU-TではIOWNのような未来技術についての標準化は「SG13」というグループで対応しており、帯域を保証した「NGN(次世代ネットワーク)」の標準化も同じSG13で行った。ただ日本企業だけで提案すると「日本標準」といわれかねないので、今回の提案ではスウェーデンのエリクソンや米国のインフィネラなどにも応援に加わってもらった。

KDDIも昨年秋からIPと光技術を融合した地域網内ネットのメトロネットワークの運用を開始している。我々としてAPNを商用化した形だ。NTTのインフラだけに頼るのではなく、通信会社として設備競争を促すこともIOWNのような未来技術の普及には重要だ。

画像:2) KDDI 先端技術研究本部 基盤技術研究部部長 林 通秋氏

ノキア ネットワーク・インフラストラクチャー担当シニア・ディレクター  リーブレ・レブロー氏

光技術の新たな進化にさらなる期待

IOWN構想は5年後の2030年の実装を目ざしているが、光技術だけでなく、衛星などの宇宙通信や無人航空機無線など他の技術のことも考えないとならない。社会実装を進めていくうえでは参加メンバーのIPR(知的財産権)の扱いも重要だ。フォーラムの活動は様々な技術を標準化していくのに非常によいと思っている。エコシステムを築いていけるとよい。

私自身も光技術には長年携わってきたが、この活動を通じて光技術の進化に強い自信を持った。例えば光ファイバーの中に空洞部分を作って光を閉じ込めて伝送する「HCF(Hollow Core Fiber=空孔コアファイバー)」の技術を使えば、通信速度を30%以上引き上げることができる。こうした技術についてもフォーラムを通じて標準化していきたいと思う。

電力消費を抑えるためには使用しない時には電力を抑えるエラスティック(弾力的)な通信網を構築する必要がある。その点、電気より光技術の方が有利だ。LAN(構内情報通信網)を構成するイーサネットは誕生からすでに50年以上経過しており、エネルギーを無駄遣いしている。今後はもっとエネルギー効率の高い通信網を構築していく必要がある。

画像:3) ノキア ネットワーク・インフラストラクチャー担当シニア・ディレクター  リーブレ・レブロー氏

レッドハット グローバルエンジニアリング部門CTO兼上級副社長 クリス・ライト氏

データセンター間の相互接続が重要に

レッドハットはオープンソースのソフトウェアを提供しているが、IOWNを実装していくには様々なソフトウェアが要る。我々は「リナックス(Linux)ファウンデーション」というオープンソースコミュニティーを率いており、「IOWN Global Forum」との間で双方のエンジニアの交流を進めてきた。リナックスファウンデーションではエッジコンピューティングを促す「LF Edge(エッジ)」という活動も進めており、それもユースケースに取り入れられている。

我々の2つめのミッションは、コンピューターやメモリーなど様々な装置を電気信号でなく光信号でつなぐソフトウェアを提供することだ。最近のシステムの多くはオープンソースで作られており、我々のようなエンジニアを必要としている。実際、装置の接続部分をAPNの光技術に置き換えただけで60%もの電力消費の削減に成功した。

IOWNでは様々なデータセンターを相互に接続する「DCI(Data Centric Infrastructure)」の実現を目ざしている。その分野でも我々が果たすべき役割は大きい。現在はAPN接続への関心が高いが、そうした新しいデータセンターの環境が整ってくれば、米大手IT企業もIOWNに関心を寄せてくるに違いない。

画像:4) レッドハット グローバルエンジニアリング部門CTO兼上級副社長 クリス・ライト氏

インテル 次世代標準規格部門フェロー兼ゼネラルマネージャー ゲン・ウー氏

セキュリティーやプライバシーの対策も

「IOWN Global Forum」は2020年1月にNTTと我々とソニーの3社で設立した。インテルはコンピューターのマイクロプロセッサーを提供しているが、今後はコンピューターやデータセンター同士の相互接続が重要になると考えたからだ。特に急拡大する電力消費を考えると、サステナブルなコンピューティング環境を構築するには光技術が重要になる。

実はインテルも半導体技術と光技術を融合したシリコンフォトニクスの研究を長年続けてきており、その意味ではNTTからの誘いは「我が意を得たり」と思った。これまで水冷技術などにも取り組んできたが、生成AIやLLM(大規模言語モデル)の登場を受け、重要なことは大規模な分散型コンピューティングシステムを構築することだと考えた。

また第五世代移動通信システム(5G)の広がりにより、情報がデータセンターからエッジ側に移っていくようになると、セキュリティーやプライバシーの問題も避けて通れなくなる。「IOWN Global Forum」ではそうした課題に取り組んでおり、我々はIOWNの技術に大きな関心を寄せている。今回はインテルの顧客であるパソコンメーカーが多数集まる台北市で総会が開かれたことも好ましいと思っている。

画像:5) インテル 次世代標準規格部門フェロー兼ゼネラルマネージャー ゲン・ウー氏

中華電信 執行副総経理兼CTO 黄志雄氏

中華電信は今年8月、NTTの武蔵野研究開発センタとの間で世界初の国際APN(All-Photonics Network)接続に成功した。台北市にある中華電信本社を訪ね、黄志雄執行副総経理兼CTO(最高技術責任者)にIOWNへの期待と今後の同社の戦略について聞いた。

――8月にNTTと世界初の国際APN接続に成功しましたが、IOWNにはどんな期待がありますか。

「台北と東京は3000kmも離れている。その間を国境を越えてAPNで通信できることを実証した意義は大きい。「IOWN Global Forum」のメンバーとして我々が実現したいと思ってきた目的が果たされたともいえる。 「IOWN Global Forum」のような国際協力プロジェクトを我々は重視しており、次世代の通信ネットワークに画期的な変化をもたらすと期待している」

――台湾には半導体やIT(情報技術)関連企業が多数ありますが、台湾のIT関連産業にとってIOWNはどんな意味を持ちますか。

「半導体分野では5G(第5世代移動通信システム)にAI(人工知能)やXR、すなわちAR(拡張現実)やVR(仮想現実)を組み合わせた技術の開発が注目されている。そこにIOWNが加われば、さらに大きなブレイクスルーが起きる。半導体産業では特にセキュリティや秘密保持が重要で、IOWNを使えば開発や運営の効率が大きく向上するからだ。IOWNが誇る広帯域性と低遅延性により、クラウドから大量のデータを瞬時に入手できれば、現地に資料を持ち込まなくてよくなる。その分、工場などの警備にかかる人件費を削減でき、AGV(無人搬送車)などの自動化も容易になる。また台湾と日本、さらには米国や欧州との間で国境を越えた統一的なデータセンター市場を形成し、台湾もそのひとつとして運営できるようになる」

――台湾は日本と同じで地震が多く、そうした際にもIOWNが重要な役割を果たすとお考えですか。

「IOWNには広帯域性、低遅延性に加え、もうひとつレジリエンス(耐久性)という特長がある。IOWNのAPNを使えばコンピューターの分散処理が進む。コンピューターのメモリー同士でデータを直接転送するRDMA技術によりデータセンターの情報を瞬時に国外に高速転送することも可能で、データセンターの運営リスクを低減できる。我々はすでに桃園市と高雄市との間でデータセンターを瞬時に複製できることを実証している。さらに固定回線だけでなく、低軌道衛星など宇宙や上空と地上をIOWNのバックホール(基幹通信網)でつなぎ、海底ケーブルなどもひとつに組み合わせれば、国境を越えたレジリエンスの高い通信環境を実現できる。通信の安定性だけでなく、ネットワーク全体の信頼性を高めることが可能だ。IOWNを使えば、まさに『星空地』(宇宙・上空・地上の意)をまたぐ強固なネットワークを構築できる」

――インターネットの登場により米国を中心にIT産業が成長してきましたが、IOWNが登場したことで今度はアジアを中心に技術開発が進むのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

「その通りだ。日本やアジアからAPNが広がっていけば、世界のIT市場を牽引できるようになる。これは極めて重要なブレイクスルーだ。我々はその成功を信じている。時空の制限がなく、遅延もない広帯域なネットワーク環境ができれば、日本からわざわざ台湾に取材に来なくても、ホログラム映像でその場にいるかのように話ができるようになる。しかもネット上で同時翻訳ができ、通訳も不要になるかもしれない。IOWNは半導体製造や光電融合技術の話だけではなく、AIとXRを組み合わせることでまったく新しい通信環境を実現する。国境を越えてネット上で文化イベントを実施するなど、娯楽や教育など様々な分野への応用が可能だと思っている」

――国際APN接続に成功したことで、次はどんな戦略を考えていらっしゃいますか。

「台湾と日本の双方に実験用のネットワークを構築し、様々なPoC(概念検証)に取り組んでいきたい。8月に発表した国際APN接続はその第一歩に過ぎない。IOWNがもたらすネットワークのイノベーションを通じ、先ほど話した文化や娯楽、教育などへの応用に加え、スマートファクトリーやデータセンターの運営レジリエンスの実証なども目ざしていきたい」

画像:6) 中華電信 執行副総経理兼CTO 黄志雄

役職は取材時点のものです

■関連リンク

IOWN構想とは?
https://group.ntt/jp/group/iown/

IOWN Global Forumとは
https://group.ntt/jp/group/iown/outreach.html

<全2回の第2部/第1部へ>