2023年3月31日
日本電信電話株式会社
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、世界で初めて※1、通信電波による無線端末測位を活用した無線基地局の間欠動作制御技術を考案し、60GHz帯無線LAN(WiGig※2)、最高時速250km以上のフォーミュラカーを用いて、実証しました。
本技術により、高密度に展開される高周波数帯無線基地局において、無線端末の接続有無に応じて無線基地局のアクティブ状態とスリープ状態※3を切り替えることが可能となります。これにより、高速道路や鉄道など、時間帯や場所などで無線基地局配下の無線端末接続有無が変わるユースケースにおいて、大容量無線伝送を維持しながら無線基地局の低消費電力化を両立することが可能となります。
5G高度化や6Gへ向けた更なる無線通信の高速大容量化の実現に対して、ミリ波・サブテラヘルツ波などの高周波数帯の活用が期待されています。また、地球環境問題などに配慮した持続可能な社会の実現に向けて、ネットワークの低消費電力化は重要な課題であり、NTTグループも環境負荷ゼロに向けて「NTT Green Innovation toward 2040」を掲げています※4。低周波数帯に比べて高周波数帯を使う無線通信では、一つの無線基地局によるカバーエリアが小さくなるため、無線端末の分布状況によっては、無線端末と接続していない無線基地局が存在することがあります。このような無線基地局をスリープ状態に切り替えることによって、消費電力を削減し、ネットワーク全体の低消費電力化に貢献できる可能性があります。
このようなユースケースとして、例えば、高速道路や鉄道が考えられます。道路沿いや線路沿いに高周波数帯無線基地局を高密度に展開した場合、無線端末の対象となる車や列車の走行がまばらならば、無線端末が不在となる無線基地局が多数存在するため、車や列車の走行に合わせて、無線基地局のアクティブ状態とスリープ状態を適応的に切り替え制御できれば、無線システム全体の低消費電力化が期待できます(図1)。
このような間欠制御として、アクティブ状態とスリープ状態を固定的な時間帯によって切り替えることは考えられますが、時間的制限があり、自由度の高い制御は実現されておりません。
図1 高速道路や鉄道などで無線基地局の間欠動作制御をおこなった場合のイメージ
これらの課題に対して、NTTは高周波数帯無線通信が持つアンテナ指向性※5や信号広帯域性※6に着目し、通信電波自体で無線端末測位を行い、取得した無線端末の測位情報に基づいて、世界で初めて無線基地局の間欠動作制御を行う手法を考案しました。
具体的には以下の方法により、各無線基地局のアクティブ状態とスリープ状態を切り替えます(図2)
本技術により、車や鉄道などの通過タイミングに応じて柔軟に無線基地局を間欠動作することが可能となります。
図2 通信電波による無線端末測位に基づく無線基地局の間欠動作制御技術
本技術の実証実験は、通信電波による端末測位が可能な高周波数帯無線通信システムの一例として、60GHz帯無線LAN(WiGig)を用いました。また、実験場所は、高速道路や鉄道などの高速移動体を模擬する実験場として、2022年12月7日(火)~8日(水)に鈴鹿サーキットで開催されました「全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト/ルーキーテスト」で、レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」による超高速移動環境を再現するフォーミュラカーの提供とオペレーション、株式会社NTTドコモおよびドコモ・テクノロジ株式会社による超高速移動実験向けエリアの構築、および無線端末の車両搭載に関する技術協力の下、実施しました。
WiGig無線端末はフォーミュラカーの両サイドポッドに搭載し、WiGig無線基地局は、コース上で最高速度が出るメインストレート(フォーミュラカーの走行速度は時速250km以上※7)のコース両サイドに各々3台設置しました(図3)。2020年度、2021年度の実験※8※9で実証した基地局切り替え技術と端末主導サイトダイバーシチ技術は本実験でもそのまま適用しました。基地局#1, #2をエリア入口の無線基地局とみなして常時アクティブ状態とし、基地局#3~#6に対して本技術の間欠動作制御を適用しました。なお、WiGig無線基地局の間欠動作はビーコン信号※10の送信/停止によりアクティブ状態とスリープ状態を模擬して行いました。今回用いたWiGig無線基地局は、WiGig無線モジュールと制御PCから構成され、ビーコン信号の送信/停止によるアクティブ状態とスリープ状態の消費電力は25Wと15Wです。また、本実証実験は、本技術における無線基地局のアクティブ状態とスリープ状態の切り替え制御の無線端末追従性を検証目的として、フォーミュラカー1台のみで実施いたしました。
図3 実証実験の実験系
フォーミュラカー1週あたりの基地局#1~#6と基地局#3~#6の総アクティブ時間を測定するとともに、WiGig無線端末からデータを転送し、フォーミュラカー1週あたりの全WiGig無線基地局が受信するレイヤ2での総転送データ量を測定しました。これにより、本技術適用時の無線伝送性能と低消費電力化効果の評価を同時に行いました。
本技術を適用しない場合(基地局#1~#6を常時アクティブ状態)と、適用した場合の、総転送データ量と総アクティブ時間の計測結果を図4(a)(b)に示します。総転送データ量は(a)の場合が1031Mbyteに対して、(b)の場合も1077Mbyteであり、本技術を適用しても無線伝送性能が維持できています。一方、無線基地局#1~#6、#3~#6の総アクティブ時間は、(a)の場合、フォーミュラカーの1週の走行時間が100秒であることから600秒、400秒に対して、(b)の場合、248秒、48秒と大幅に抑えられることが確認できました。これにより、今回用いたWiGig無線基地局の1秒あたりの消費電力量を、#1~#6では 150Ws ⇒ 114.8Ws、#3~#6では100Ws ⇒ 64.8Wsだけ削減できました。
図4 実験結果(無線基地局の総転送データ量と総アクティブ時間)
本技術は通信電波による無線端末測位を活用しているため、無線端末測位の高精度化が実現できれば屋内エリアにも展開が可能です。例えばショッピングモールの営業時間外のように明確に端末がまばらになる時間帯があるエリアや、工場内のライン動作のように明確に無線端末の存在分布が空間的に偏りがあるエリアなどへの適用が考えられます。
また、通信電波のみで無線端末測位を行う特長を活用しており、WiGigのみならず幅広い適用先が期待できる技術です。今後の5G高度化や6G時代に活用が期待されるミリ波・テラヘルツ波帯無線伝送システムへの適用検討も進めるとともに、無線基地局のアクティブ状態、スリープ状態、その切り替え時の消費電力と切り替え頻度を考慮した総合的な低消費電力化の検討、ならびに様々な利用環境で安定した無線伝送と低消費電力化の両立を実現するための技術検討を推進します。
※1:2023年3月10日現在、NTT調べ
※2:Wireless Gigabitの略。IEEE 802.11ad規格をベースとした60GHz帯を用いる無線LAN規格
※3:無線基地局の送受信している通常状態をアクティブ状態、送受信せずに消費電力を必要最小限まで抑えた状態をスリープ状態
※4:新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」(2021年9月28日)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928a.html
※5:放射電波をある特定方向に絞るアンテナ。受信電波についてもこの方向を強く受信する。
※6:信号帯域が広いこと。1秒あたりに伝送できるシンボル数が多くなり、時間分解能が高く、測距精度が高くなる。
※7:実験に用いたフォーミュラカーの走行速度記録
※8:世界で初めて、通信電波を用いた測位情報に基づく基地局切り替え制御技術を実証~60GHz帯、時速300kmのフォーミュラカーで大容量無線伝送を実現~(2021年2月 3日)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/02/03/210203a.html
※9:世界初、60GHz帯無線LANを用いた高速移動環境下での無瞬断大容量無線伝送を実現~ミリ波帯無線LANのような非移動体無線通信を、車など移動体にも適用可能に~(2022年2月25日)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/02/25/220225a.html
※10:無線基地局が無線端末に自身の存在を知らせるための報知信号。定期的に送信される。無線端末は本信号を受信してから、その無線基地局へ接続
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日本電信電話株式会社
情報ネットワーク総合研究所 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com
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