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2021年11月29日

"勝てる脳"は鍛えられるか? 「脳科学」才能を科学する

才能を科学する

脳の働きとパフォーマンスの関係を科学し、人間の可能性を解き明かす。

画像:VRを利用したソフトボールシミュレーションシステム VRを利用したソフトボールシミュレーションシステム

「心」と「技」も、脳科学で鍛えられる時代へ。

スポーツの世界では、理想的な選手の状態を"心・技・体揃う"と表現する。近代スポーツにおいて、"体"に該当するフィジカルに関する研究やトレーニング法などは多様に進化している一方、"心"と"技"については、その多くが科学とは切り離されたままだった。一流選手による「気迫の投球」「魂のバッティング」など、勝負の局面で発揮される"心と技"(強靭なメンタリティや究極のパフォーマンス)。それらが発揮される時、人間の脳と体では、一体何が起こっているのだろうか。

そこには、無自覚のうちに人間の意思や行動に大きな影響を与えている、「潜在脳機能」の働きが隠されている。このメカニズムを解明することで、精神をコントロールし、身体を最適に操れる「勝てる脳」はつくられるかもしれないー。そんな未来をめざし発足したのが、「スポーツ脳科学(Sports Brain Science:SBS)プロジェクト当該ページを別ウィンドウで開きます(※以下SBSプロジェクト)」だった。研究チームのミッションは、情報通信技術(ICT)を活用し、スポーツにおける潜在脳機能の働きを解明し、その知見に基づいた新たなトレーニング法を開発すること。奇しくもこのプロジェクトは、コロナ禍で強化試合などの機会が制限される中で、ソフトボール女子日本代表にとって大きな意味を持った。脳科学とテクノロジーの融合で、これまでの仮想シミュレーショントレーニングが進歩した、科学的かつ実戦的なトレーニングを実現させたのだ。

2021年に行われた国際的なスポーツ大会における、ソフトボール女子日本代表の金メダル−その栄光の裏には、NTTの技術と科学の、挑戦ストーリーがあった。

個々の潜在"脳"力を引き出し、現実化する。

日本代表選手たちの「潜在脳機能」の働きを解明し、いかにパフォーマンスを最大化していくか?という問いは、即ち「選手個々の特性を知り、勝つ為の潜在能力をいかに引き出すか?」という問いでもあった。これまでの実験室だけに閉じていた研究では、選手たちのリアリティを捉えることは難しい。そのため、SBSプロジェクトでは必然的に、その研究範囲を実フィールドにも越境させる必要があった。より実戦に近い状態でのパフォーマンスを解析し、選手一人一人の特性に合わせながらトレーニングを最適化していく。そのプロセスで、脳科学的知見と多種多様な技術をクロスオーバーさせながら、次世代のトレーニング法を見出していった。これはある意味で、"脳科学とテクノロジー"という分野の潜在能力を高める挑戦でもある、と言えるかもしれない。

選手のイメージとパフォーマンスのズレを、データで近付ける。

画像:選手のイメージとパフォーマンスのズレを、データで近付ける。

実戦に近い空間で、選手のパフォーマンスを多角的に計測する「スマートブルペン」。投手、打者の同時モーションキャプチャを用い、投手のフォームや球種の違いによる打者の反応を解析。

画像:選手のイメージとパフォーマンスのズレを、データで近付ける。

投手向けのトレーニングでは、実際に投げる球を高性能カメラで測定。回転数や回転軸を正確に測定することで、投手本人のイメージと実際の球質データを擦り合わせて、ピッチングの戦略や技術向上に繋げた。

仮想トレーニングが、リアルに追いつく

画像:選手のイメージとパフォーマンスのズレを、データで近付ける。

打者においても同様に、多角的なセンシングによる、生体データの解析を基にしたバッティング技術の改善に着手。課題は、そこから実戦のパフォーマンス向上へ、具体的にどうアクティベートするかだった。当初は、VRで相手投手の投球をイメージできる仮想対戦プログラムの開発からスタート。選手からの評価は高かったものの、VRでは視覚的なイメージトレーニングは出来ても、リアルな"打感"不足が解消されなかった。そこで、対戦チーム投手の実映像や投球データからフォームや球種を忠実に再現し、フィジカルな打撃練習を可能にする、特殊なピッチングマシンの開発に至る。実際の投手の投球フォームの映像に合わせて、そのフォームごとに繰り出されるボールの球速、軌道の違いを極限まで再現。まさに「敵を知り、己を知れば百戦危からず」の格言を体現したようなこのソリューションは、好調な打線を生み出す、要因の一つになった。

未来へのバトン

誰もが才能を開花させ、実力を発揮できる未来へ。
スポーツと人間の可能性を上げていく。

NTTでは、多様なICT技術で生体情報を取得し、蓄積し、脳科学的知見と合わせ解析をすることで、さらなる想像を超えるような、次世代のスポーツ上達を支援するプログラムの研究開発も進めている。

例えば、パフォーマンスにおける最適な動作やタイミングを、直感的・自動的に習得するための「感覚フィードバック」の開発。選手の身体の各部位にセンサをつけて、個々のタイミングやリズムを解析しながら、聴覚や触覚などの非言語の伝達手段で直接身体にフィードバックすることで、パフォーマンスの向上をアシストしようというものだ。

また、センシング技術やAIなどがさらに進化していけば、スポーツウェアやトレーニングルームそのものが"究極のパーソナルコーチ"になる日も、そう遠くは無いだろう。それは、決してトップアスリートの為だけにあるものではない。運動が苦手な子供から高齢者まで、多くの人が自分自身の能力を最大限引き出し、最適に身体を動かすことが出来るようになるーしかも、それぞれのレベルに合わせた方法で。それは、運動における負を解消するだけでなく、ときには新たな才能を発掘し、開花させる支援になるかもしれない。脳科学・テクノロジー・スポーツーこの三者がもっと近づいていくことは、スポーツ界全体のレベルアップだけでなく、多くの人が健康的に"いきいき"と生きる未来にも繋がっていくはずだ。

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NTT コミュニケーション科学基礎研究所
E-mail / cs-liaison-ml@hco.ntt.co.jp